第3話
その勅命が下ったのは、ちょうどレイが25歳の誕生日を迎えようとしていた頃だった。
スティアナ王室に伝わる正式な印が刻印された書簡。それを携えて、一般人が決して立ち入る事の出来ない王の謁見の間に向かったのだ。
ほどなく国王と、マランサ教の大司教であるバトロン大司教が現れた。その御前にひざまずいて、頭を垂れる。
「よく来たな」
「はっ」
短い労いの言葉に短く返事を返し、レイはじっとその場に待機する。
マランサ教とは、古くからこの世を支配してきた宗教の事だ。
細かい宗派はあれど、世界人口の7割が信者であると言われており、各地に寺院・遺跡・古い書物が点在していた。
”人の子よ 平等であれ 神の名のもとに 罪を赦したまえ”
その教えを基本とする寺院では、「平等」の名のもとに例え戦争の最中にあろうと人種、性別関係なく受け入れ、負傷者や病人の世話をした。
この世界に存在する58の国々のどんなに小さな地域にも寺院は存在し、確固たる地位を築き上げている。
そしてその総本山である大教会がここ、スティアナ王国の首都にあるのだ。
そのように莫大な支持と信仰を集めるマランサ教は、当然に巨大な権力を有していた。大司教は王とほぼ同等の地位を与えられており、長い歴史の中では互いが一つの座を奪って血を流し、国内を二分するような戦争もあったようだ。
幸いというべきか、ここ数百年の間そういった争いは起きておらず、今の時世も均衡と規律が守られてはいるが。
とはいえ国のトップ2人が揃う事と言えば国を挙げて行われる行事や他国との外交の場等、限られている。普段はそれぞれの肩書と立場を理解し、個々で謁見するのが通常だ。
ということで今回レイは「なにやらとんでもない事を言いつけられるのだろう」という覚悟をしてこの場に参上している。
「おもてを上げよ」
低いバリトンの声を受け、レイは顔を上げた。
今の声の主は国王だ。
御年50歳であるはずだが、年齢を感じさせない黒々とした髪、引き締まった筋肉。腰には装飾が施された剣を装備しており、その立ち振る舞いは獅子同然。
近隣国から「獣王」と恐れられるに相応しい。王を拝見するのが初めてではないレイも、改めて畏敬の念を抱かざるを得ない。
締まった唇からは氷の吐息が出てくるかの如く、そこから発する言葉に容赦はない。
国王は瞳と同じ深緑のマントを翻しながら立ち上がり、傍らに立つバトロン大司教に目をやった。
一方の大司教は、国王とは全くの正反対の容貌をしていた。
全身を真っ白なローブに包んだ、老齢の男である。
真っ白な白髪頭に、顎から胸のあたりまではえる長く白い髭。明るい水色の瞳をたたえ、優しげな表情でレイを見下ろしていた。
まさに天上界から降りてきたような風貌。溢れんばかりの慈愛の念が、見た者に敬愛の想いを抱かせる。
「君かね、"騎士"のレイ・グランは」
その天上界の老師は、興味深そうにそう口にした。
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