第2話

「ぁっ……!」


 バネ仕掛けの人形のようにビクッと体を跳ねさせる。

 一瞬で目を開け、酸素を求めるように大きく口を開いた。

 薄暗く狭い部屋には荒々しい息と、己の心臓が激しく脈打つ音が響いていた。



(夢 ――)


 そう自覚しても尚、しばらく鼓動は収まらなかった。

 あまりにリアルだった夢の内容を思いだし、ぐっと唇を噛んだ。

 止まらない冷や汗に寒気を覚えながら、掠れた声で呟いた。


「サラ……」


 彼女はレイの前に姿を表さない。彼女が望んだとしても、レイが恋い焦がれたとしても。

 彼女は一年と半年前、この世を去ったのだから。


「…………」


 体中が気持ち悪い。

 鼓動と荒い息づかいがようやく収まったところで、厭な汗が纏わり付いていることに強烈な不快感を感じた。

 レイの栗色の髪の毛と夜着がべったりと体に張り付いている。


「……シャワーでも浴びよう」


 一人そう呟いて、ベッドから体を起こす。

 窓辺にある濃紺のカーテンを勢いよく引き窓を開けると、ひんやりとした心地好い風が部屋の中を一掃した。


 群青の中に、淡く光る星。山の端にゆったりとした白が目覚めようとしていた。

 空が白みかけている。明朝のようだ。

 起きるには早いが、目はすっかり覚めた。体をさっぱりさせたあと、散歩に出かけると気分転換にでもなるかもしれない。

 レイはシャワー室へ向かうべく少ない荷物の中から着替えを取り出し、部屋を出た。


 どこか遠くの寺院で、朝を告げる鐘が鳴っていた。

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