王子様の裏の顔
「りぃ君、おっはよー」
「…………」
朝、一緒に飯を食った一茶達を見送って。せっかくの休みだし小説書くか、と思っていたら部屋のドアをノックされて現在に至る。
(そうか、生徒会だから授業免除使えるんだ)
にこにこ、にこにこ――笑顔で挨拶してくる会計を、ひとまず部屋に入れて。
「おはよう……かー君?」
「……うんっ、おはよう!」
確認のつもりで、昔の愛称を口にすると――さっきまでのチャラいのじゃなく、嬉しくてたまらないって笑顔に変わった。
「苗字変わったんだな……あだ名呼び、やめた方がい」
「そんなことないよ! 今の『高良』にも『か』は入ってるし……りぃ君、お願いだからやめるなんて言わないで?」
「……解った」
共同スペースのソファに座らせ、ジュースを出して。
何気なく言ったら、言い終わる前に会計――かー君が、思いきり被せて反論してきたのにちょっと驚く。
(キャラが違う……いや、まあ、昔はこんなだったけど)
名前もだけど、幼稚園の時のかー君は女の子みたいに可愛かった。だけど、かー君『に』話しかける子(主に女の子)はたくさんいたけど、かー君『が』話しかけるのは俺だけだった。
「……たまには、みんなとあそ」
「だって、りぃ君といっしょがいいんだもん」
そうそう、あの頃から被せて主張してきてた。三つ子の魂百までって言うしな。
なんて、昔を思い出してたらかー君が俺の前に膝を突いた。そして、ジッと見上げてきて言う。
「……もう、痛くない?」
「えっ? あ、っと」
「そうだよね……楽になっても、昨日の今日で完治なんてしないよね」
俺のこめかみや左頬に貼られたガーゼに、かー君がふにゃっと泣きそうになる。そんなかー君に、俺は言った。
「……仕返しとか、いいからな?」
「えっ?」
「いや、昔、俺が名前でからかわれた時、相手突き飛ばしておいて嘘泣きして、先生に叱らせてたなって」
「覚えててくれたの?」
「かー君、そこ喜ぶところじゃない」
うん、やっぱり昔のままだって思ったところで、俺はあることに引っかかった。
「どうして、食堂では俺に文句つけてたんだ? あの時は、俺だって気づいてなかったとか……あ、チャラ男キャラだったからか?」
あ、まだ聞いてないけど腐的に盛り上げる為って可能性もあるか。
尋ねてからそう思った俺の前で、かー君がいきなり真っ赤になったのに驚いた。
「……ん」
「えっ?」
「だって、りぃ君が転校してくるって知って、ずっと楽しみで……だけど、王道君もいるから大丈夫かと思ったけどりぃ君、守衛さんとかFクラスのキングとフラグ立ててるし! 王道君も、りぃ君ラブだし! だからこれ以上、りぃ君を好きになって欲しくなかったんだもんっ」
(……えっと、どこから突っ込めばいいんだ?)
悩むところだけど、取り合えず言えるのは――病んでるかどうかは解らないが、暴走する王子様は既にいたってことだ。
「かー君って、腐男子?」
まずは一番、気になったところから聞いてみた。そんな俺の前で、コクンとかー君が頷く。
「元々、漫画とかアニメ好きだったんだけど……『Lion&Bambi(ライオン&バンビ)』にハマって。『Piskey(ピスキー)』とか見るようになったら結構、腐向け作品が多くてね」
ちなみにPiskeyって言うのは、主に二次創作のイラストや漫画、小説を公開出来るサイトのこと。オリジナルもあるけど、イラストがメインなんで俺はデジ☆で書いてる。
「俺、鹿獅子が好きで……ハマった書き手さんの中に、オリジナルでも活動してる人がいて。それで、デリ☆もチェックするようになったんだ。王道学園物、いいよねぇ」
…………んっ?
あれ? 何か今、すごく聞き覚えのある名前を聞いたぞ?
「デリ☆って、小説とかイラストで人気急上昇の作品が見られるじゃない? そこで俺、見覚えのある名前見つけたんだ」
困惑する俺に、かー君が笑顔で尋ねてきた。
「『三愛(ミア)』って昔、りぃ君がお父さんにつけて貰ったって言ってたペンネームだよね? ただ、プロフィール非公開だったし、デリ☆ってプライベートの話したらペナルティになるでしょ?」
「…………」
そう、俺の名前をローマ字にすると三つ『i』が入るからって、父さんが生きてる時に考えてくれたんだ。
自分のクリエイター名とペナルティについて聞かれ、俺は無言で首を縦に振った。そんな俺に、かー君が更に話の先を続ける。
「元々、俺、趣味でイラスト描いてたからクリエイター登録して……イラスト公開して。イベント開催したんだよね」
「……って、ことは」
「ハーイ! 『てんはな』でイラストを担当してる方、Lashaでーす」
「かー君、中学生であんな綺麗な絵描けてたのか!?」
「えっ、まず突っ込むところソコなの?」
いや、そりゃあライバンのバンビの台詞の真似だよなとか、実は知り合いって言うか計画的に近づいてきてたことも十分、驚いたけどさ?
「元々、上手だったけど……会わないうちに、すっごく練習したんだな」
「……だって、りぃ君と約束したでしょ?」
そう言うと、かー君は立ち上がり――怪我を気づかってかそっと、俺を自分の胸へと抱き寄せた。
「ずっと一緒に、お話作ろうねって……本妻さんにも母さん達愛人にも、他に息子が生まれなくて。父親に引き取られたから俺、約束破っちゃったけど」
「お互い様だろ? 俺だって、かー君のこと探さなかった」
「うん……でも、ずっと忘れられなかったんだ。約束のことも、りぃ君のことも」
「……ありがとうな」
かー君の言葉が嬉しくてお礼を言うと、何故だか「ゴメン」って言われてかー君が離れた。
(何がだ? あ、怪我痛くないかの「ゴメン」か?)
意味が解らなくて首を傾げてる俺の前で、かー君が口を開く。
「りぃ君って、俺の初恋の相手なんだ……この学校に来て、漫画とか小説読んで自覚した」
「かー君……」
そう言って、近づいてきたかー君の顔――って言うか口を、俺はポフッと右手で塞いだ。
「「…………」」
俺とかー君との間に、しばし沈黙が落ちる。
「……りぃ君?」
「いや、ぶつかるなって」
「むしろぶつかる気満々だったけど!?」
「かー君、謝るのはむしろ今だと思う」
妙な力説をする幼なじみに、俺は言った。そんな俺に、かー君が軽く目を見張る。
「……告白は、嫌じゃなかった?」
「それはかー君の気持ちだから、嫌も何も……ただ、俺は幼なじみとしか思えないけど」
あと「ブルータスお前もか!」って感じかな?
男からの告白に慣れたって思うと、微妙だけど――他の奴らからも告白されて、かー君だけを嫌う理由はない。
正直に答えた俺に、何故だかかー君がにっこりと笑った。そして俺の目の前で、いきなり掌にチュッ、と音を立ててキスしてきた。
「……っ!?」
「好きだよ、りぃ君。大好き、愛してる」
驚いて咄嗟に手を退こうとしたけど、かー君は俺の手を掴んで離さなかった。逆に、両手で包み込むように握ってきて。
「だから、俺はりぃ君の心も全部欲しいから基本、嫌がることはしない……だけど、白月(しづき)には馬鹿も多いから。気をつけてね?」
「かー君……」
「もし、りぃ君にまた何かあったら俺、止まるつもりないから」
「……かー君、それ笑って言うことじゃない」
(これ、脅迫だよな? こんなキラキラ笑顔で、言うことじゃないよな?)
俺の幼なじみは『ヤンデレ』って奴なんだろうか――あとで、桃香さんに聞いてみようと俺は思った。
※
「出灰君、まだまだね。ヤンデレはずばり病み、沙黄君なんて可愛いものよ」
かー君が帰った後、新しい小説の流れ(と言うか、今までの俺が体験したネタ)を書き出して。桃香さんに、さっきのヤンデレの件と一緒にメールすると――すぐに、電話が震えたんで受話器ボタンを押した。
(可愛い……?)
首を傾げる俺に対して、かー君を本名で呼びながら桃香さんが話を続ける。
「沙黄君がヤンデレなら『りぃ君に何かあったらその相手ぶっ殺して、ついでにこれからしそうな可能性のある奴もぶっ殺して。あぁ、もう心配だから白月の生徒も先生も全員ぶっ殺して。そうしたら、俺は安心してりぃ君を白月で過ごさせてあげられるよ、ウフフ』って感じになるわね」
「……そこまで?」
「そうよ。ま、それはそれで似合いそうだけどね」
アッサリととんでもないことを言う桃香さんに、俺はちょっと途方に暮れた。えっ、それどこのサイコパス? ヤンデレ、恐るべし。
「って言うか、出灰君! 不良君のことは聞いてたけど……一週間で六人落とすなんて、どれだけ凄腕なの!?」
「すご……いや、そもそも落とすつもりなかったですし」
「まあ、沙黄君は昔からだけどね。自分で言うからって、口止めされてたけど……愛されてるわよね、出灰君」
「しみじみ言わないで下さい」
知ってたら、転校しては来なかった――いや、でもかー君のあの調子ならいつかは再会してたかな?
「そう言えば、沙黄君はデートイベントには参加するの?」
「あ、はい。自分の親衛隊長に指名させたそうです」
浮気じゃないとか、ギブアンドテイクだとか言ってたけど、腐仲間とかなのかな?
あ、腐で思い出したけど一茶は何と緑野とペアを組んでいた。何でも俺が気絶した後、タッグを組んだ真白と刃金さんを見て、緑野から(腐ってはいるけど)無害な一茶に申し出たらしい。
(「遊園地イベントの鑑賞チケットゲット! 腐男子、オープンにしてて良かった~」とか浮かれてたよな……羨ましい、ポジション変われ)
最近の王道学園物だと、腐男子受けが流行だろうと思うんだが。
ちなみに空青と海青、そして副会長はそれぞれ逃げきった生徒に指名されてデートイベントに参加。奏水は、誰も捕まえなかったんで参加せず、寮でのんびりするって言ってたな。
(何か、土産でも買って帰るか……男にマスコット系とかだと微妙だから、またお菓子かな?)
そこまで考えて、俺はあることに気がついた。
「すみません、桃香さん」
「えっ?」
「俺、せっかくの遊園地イベントなのに……会長とのデート、全然楽しみじゃありません」
話を書くに当たって、絶好のチャンスだって言うのに――嫌でこそないが、まるで興味が湧かない。周りばかり気になるのが何よりの証拠だ。
(本当、何で俺なんて助けたんだろう?)
副会長にフォローされた時も驚いたが、まだきっかけと言うか理由があった。しかし、会長とは食堂くらいしか接点がなかった、筈だ。
「嫌いな奴でも放っておけない、実は良い奴なんでしょうか? 劇場版耳無し猫型青白ロボットアニメでの、いじめっ子みたいに?」
「うん、解りやすいたとえね」
「そもそも今までは、真白の相手だと思ってたから頑張って関わってたんですよね……桃香さんにもスゴイって言って貰えたから、もういいですよね?」
「え、駄目」
「総受けなんて、無理ですよ。人間、万人に好かれるなんて無理ですから」
「本音をぶっちゃけるのは良いけど、やる前から諦めちゃ駄目よ出灰君」
「……駄目、ですか」
思わずため息をついてしまった俺に、桃香さんは言った。
「むしろ私は、そこまで出灰君が抵抗したことが興味深いわ……考えてみて? どうしてそこまで、会長君と関わりあいたくないのかって」
※
電話が終わった後、俺は桃香さんに言われた通りに考えてみた。
「金持ち、イケメン、非常識、変質者、主に下半身に節操がない」
以上、会長について。うん、指を折って数えてみたけど関わりあいたくない要素満載だ。
(とは言え)
金持ちとイケメンについては(一部、可愛い系もいるけど)刃金さんとか緑野、かー君もだし。非常識と変質者とくれば副会長だけど、借りは返そうとする律義なところはある。
そして、下半身に節操がないのは。
(チャラ男会計のかー君も「俺は、りぃ君一筋だからねっ!?」とか言ってたし)
つまり、噂は当てにならないって言うことだ。
「……ちょっと、リサーチしてみるか」
確かに、食わず嫌いは良くないし。本当に駄目な奴だとしたら、全力でスルーすればいい。
動機がちょっと後ろ向きな気もするけど、とりあえずこうして土曜日までの方針は決まった。
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