成人の日

 成人式、とくれば俺の感覚だと公民館とかで、元同級生とかとワイワイガヤガヤするイメージだ。

 とは言え、考えてみると白月学園は金持ちの坊ちゃん連中が集まる学校で。

 そんな面々が、いきなり庶民の中に放り込まれると――坊ちゃん達もだが、一般の面々も大変だし気後れするだろう。うん、その理屈は解る。


(とは言え、去年は解ってても驚いたけどな)


 成人式の日、元卒業生で新成人の面々は白月学園の講堂で成人式を迎える。

 今年は代替わりしたが、去年は生徒会で受付や会場設置を仕切り――講堂に、スーツ姿や袴姿、そして何故か振袖姿(ここは男子校なんだが)の新成人が現れた時は、脳内ツッコミ祭りだった。

 当然、式には在校生は参加出来ないが、卒業した先輩達を一目見たくて入り待ちや出待ちをしたりもする。


「出灰?」

「……ああ、すみません。ちょっと、幸せを噛み締めていました」


 そんなことを考えていた俺の両頬が、刃金さんの手に包まれた。更に彼以外を映さないように、額に相手のそれが当たって顔を覗き込まれる。

 今年、二十歳になる刃金さんも今日の成人式に来ていた。そして講堂に向かう前に、そのスーツ姿を披露する為に寮にいる俺に会いに来てくれた。

 卒業後の打ち合わせや、結婚式にも着られるようにと用意したのはグレーのスーツに青シャツ、グレー基調のネクタイとシンプルなんだが――元々、イケメンなのが更に際立つ。


「格好良いです」

「惚れ直したんなら、このままデートするか?」

「駄目です。式に出て下さい」

「……チッ」


 舌打ちこそしたが、いつもの「却下」が出ないところを見ると、式――と言うか、元Fクラスで刃金さんの会社に就職しなかった(実家関係に就職したり、進学したり)面々と会いたいんだと思う。


「式が終わったら、メールするから……生徒会の奴らには会わせたくねぇけど、内藤達が会いたがってるからな」

「はい」

「その後は多分、飲み会になると思うが……出灰」

「行きませんよ。アルコールが出る店は、来年の楽しみに取っておきます」

「……その時、飲んだ後は迎えに行くからな」


 渋々、と言った感じではあるが、真白達との飲み会自体は断られなかった。本当に、俺には勿体ないくらい出来た彼氏だと思う。


「よければその時、今日のスーツを着てきて下さい」

「気に入ったか?」

「はい」

「……なあ、やっぱりこのまま」

「駄目です。それに、スーツが皺になります」

「チッ」

「普段着で来週、デートしましょう」


 抱き締めようと手を伸ばしてきた刃金さんに、俺は片手を出して待ったをかけた。

 そして再び、舌打ちする刃金さんを宥める為に、俺はそう言って刃金さんの肩に額を埋めた。うん、これならスーツも皺にならない。


「出灰のデレ、キターっ!!」


 ……耐え切れなかったらしく、個人スペースのドアに隠れていた一茶が歓声を上げ、ガッツポーズをしているのはまあ、通常運行(撮影されないだけマシ)ってことで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る