第10話

「こ、これって……」


 周近が悲鳴に近い声が上げるや、街の方から轟音とともに砂埃が立ち上がった。


「遂にここまで」


 奥歯を強く噛み締めながらレスポールが呟く。

 そしておれたちの周りも6体の魔獣に完全に囲まれた。


「いくよ!」


 レスポールの掛け声と共におれは手のひらを広げ唱えた。


氷塊オルム・ブルト


 大きさはだいたい3センチほど。それをおれたちを囲んでいる魔獣の一体を襲う。


「ブラスター、オン!」


 その声と共にレスポールは構えた銃から光線を放つ。

 1体、2体と魔獣が次々と消えていく。

 魔獣の増援は無く、数分の間に囲んでいた6体の魔獣の数はゼロとなった。



「ふっ。はっはっは」


 突然、周近が腹を抱えて笑い出した。

 おれとレスポールは目を丸くした。先ほどまで置物のように一歩足りとも動かなかった周近が高笑いを始めた。


「な、なんだ?」


 レスポールが声にならない声で言葉を紡ぐ。


「お見事。流石、ナポレオンの血を引く者と卑弥呼の血を引く者だ」


 姿形は周近のままであるが、声質と口調が明らかに変わった。


「あんたは一体……、誰だ?」


 おれは恐る恐る周近の姿をした誰かに訊く。


「私は影の操り人形"ファントム・パペット"の一因ですよ」


「ファントム・パペット?」


「ええ、そうですよ。レスポール・ボナパルトさん」


 フルネームを言い当てられたレスポールは口を開きや閉じ、驚きと畏れを表す。


「何の用だよ」


 震えそうになる声を抑え訊く。


「今日はほんの挨拶ですよ。では、ボンジュール」


 そう言うと、周近の姿ごとおれたちの目の前から消えた。

 それはまるで幻覚でも見せられていたかのように。


「あれ?」


 戸惑いながら周近のいた場所を見たおれは1枚の紙切れが地面に落ちているのに気がついた。

 そこには奇妙な紋章みたいなものが書いてあった。

 剣みたいなものが交差している。そしてその上にペガサスのようなものが描いてある。

 さらに紙切れの左下にはXXJと記してあった。


「これは……」


 おれはその紙を手に取り、レスポールに渡した。

 レスポールは黙ったまま何も言わない。

 それから何も言わず、その紙をくしゃくしゃとするように握った。


「早く行こう」


 焦りの見える言葉を早口で告げ、レスポールはタイムマシンが止めてある場所まで駆け出した。


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