第9話

 ホログラムにはきっちり魔力反応があるようだ。


「ここって……、おれのいた世界と一緒?」


 確証はない。でも、街並みや感じでそんな気がした。


「そうだよ。1ミリ足りともズレてない、君の……、剛くんのいた世界だよ」


 不思議に感じた。自分とは違った世界に行き、また本来の世界に戻ってきたことで新しい景色を見たような気になることに。

 そんなことに心を奪われているうちに、レスポールは孫権の血を引く、孫周近の元へと動き出していた。

 小言を先を行くレスポールの背中にぶつけながら慌ててその後ろに付いていく。


「居たっ」


 レスポールが指さす先に、先ほど救えなかった女の子がいた。

 違和感しか感じられない。目の前で、魔獣という化け物に殺された女の子が別世界の別の人間だと分かっていても平然と生きていることが。

 そしてそれが分かっていても自責の念は強く感じられる。

「あの……、孫さんですか?」


 レスポールが話しかける。おれには普通の日本語に聞こえる。

 今思えば、変だよな。金髪に青い双眸そうぼうの完全にヨーロッパ系の人がペラペラと日本語を話してること。


「はい。あの……、あなたは?」


 茶髪のセミロングの女の子。見た感じの歳は10歳くらい。ファーストコンタクトの時は分からなかったけど、大きな目に長いまつげ。とても可愛いらしい、整った顔をしている。

 こちらもまた日本語に聞こえる。

 まだあの魔法薬が効いてるんだな。なんておれの思考は無視してレスポールと孫周近の会話は続く。


「僕の名前はレスポール・ボナパルト。偉大なる10人の1人"孫権"の血を引く君を迎えに来たのさ」


 案の定、周近は口をポカーンと開けて状況を理解できてないようだった。


「いまこの世界に訪れている危機を救って欲しいんだ、僕たちと」


 現に魔獣が現れていない今、この話に信ぴょう性の欠片もない。


「何言ってるのですか?

 そんなふざけたことに私を巻き込まないで下さい」


 周近は蔑むような目でおれたちを見る。

 そりゃあそうだよな。困ったな。

 そんな思いが交錯するなかでおれは学生ズボンのポケットに手を入れた。


「あっ」


 そこでポケットに入れっぱなしになっていた携帯電話の存在に気づき声を漏らした。


「どうしたの?」


 レスポールはおれの気の抜けた声に言葉を投げかける。


「まぁ、ちょっと待って」


 ちょっと強気に言う。おれの携帯電話はスマートフォン。だから、世界の状況なんてものを検索できる。

 画面を着けて液晶をスクロールし、目的のニュースアプリをタップする。

 やはりトップニュースとして大々的に取り上げられていた。


「これ見て」


 おれは周近に一歩二歩と近づき、スマホの画面を見せつけた。


「私、日本語読めない」


 周近はそう告げる。そっか、相手が普通に日本語話してるから勘違いしてた。

 困ったおれはチラリとレスポールを見る。


「これ飲んでくれる?」


 レスポールはおれが飲んだのと同じ魔法薬のAX-67型を差し出した。


「嫌よ。毒だったら困るもの」

 ごもっともです、と心の中で嘲笑しながら動画サイトへアクセスした。


 おれが味わった、日本でいま起きている魔獣についての事件の動画が無いかを調べるために。


「あった。これならわかるだろ?」


 おれはそう告げ、目的の動画を再生させた。魔獣は日本各地に現れたらしく、様々な地域からの投稿があった


「これ……CGでしょ?」


「違うよ。現実にいま、この世界で起こってること」


 戸惑う周近にレスポールがそう答えるや、タイミングを見計らったかのようにおれたちを囲むようにして魔獣が出現した。

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