砂龍神の願い、その2―砂龍族が崇める神―

「ランディー陛下、リタ殿下から伝言を預かっています」


 唐突にランディー王に申し出たのは、リタの乳母ジオだった。


「これ、ジオ。少し落ち着いて、ゆっくり喋りなさい」


 王は宥めるように制止した。彼は玉座の上で肩を叩きながら、先程ジオが言ったことについて質問した。ジオは答えた。


「殿下及びお仲間達を、神殿入り口付近までお見送りした時に預かった伝言です。『心配しないでくれ』とのことです」


(そう言っている時が、一番心配なのだが)


「そうか……。あの子はレイアに似て優しいから、私達に心配かけたくないと思ってのことだろう。そこは、理解してあげなくては」


 リタが生まれて間もない頃に、病で亡くなったレイア王妃のことを思い出しながら、王は言った。


 ふと、ジオは気にしている点を王に話す。その点とは、リタや他の二人がなぜ本来の龍の姿ではなく、魔道族のような姿なのかということだ。話を聞いた途端、急に王の表情が険しくなった。


「これは推測だが、あの子達の《魔道師のような姿》は、キアの呪いによるものだろう」


「と、おっしゃいますと?」


「あの子達との面会中に、ふと思い出したのだが……。噂では、レザンドニウムの領主キアは、凄まじいほどの闇の魔力を手中にしているらしい。その魔力だけでなく、彼は呪術をも体得している。あくまでも国民達の噂でしかないが。多分、あの子達もそれにかかったために、あの姿になったのだろうと思う」


 王は、他の砂龍達にはわからないような説明をした。仮に彼らに知れると、要らぬ不安を与えるだけだ、と考えてのことだろう。


 ジオは、王との面会を済ませた。その後で、彼女は窓際まで行き、密かに手を合わせた。リタ達が無事に神殿から戻れるように、祈っているのだ。――




 一方、リタ一行は地下神殿の奥深くにある、砂龍神デュラックの像がある部屋の仕掛けを懸命に探っている。


「ヨゼフ、そっちはどうだい?」


 リタは、砂龍神像の頭部にいるヨゼフに声をかけた。ヨゼフは首を横に振って、手で大きな罰点を作って合図した。


「そうか……。ナンシー、君は?」


 今度は、像の右腕にいるナンシーに声をかけた。彼女の方は何かを見つけたと言いたげに、手で大きな丸を作って合図した。リタはヨゼフを背負って、ナンシーがいる方に飛んで行った。


「何を見つけたの?」


 ヨゼフは興奮気味に言った。リタは彼を制止した。


 三人が見つけた物。それは、フィブラス砂漠に広がる砂のように青く輝く、爪のような形の武器だった。


「もしかして、この爪――デュラックが生前に使ってたとされるセイント・ウェポン?」


 三人は、不思議そうにその爪を見た。すると突然、爪から眩しいほどの光が放たれた。その光は、生前のデュラックと思わしき男性を映し出した。それはまるで、立体映像のように見えた。リタは驚きながら、訪ねた。


「あ、あなたは――砂龍神デュラックですか?」


 リタの言葉を聞き、男性は頷いた。彼は話を続ける。


『さよう。砂龍神デュラックとは、私のことだ。見たところ、そなたは大層、高貴な身分のようだが……』


 神は古典的な言い方で、リタ自身の身分を探る。彼女は胸を張って、自己紹介をする。


「私はフィブラス王女、リタと申します」


『なるほど。どうりで、気高さを感じるはずだ』


「それはどういう……」


 リタは砂龍神が発した言葉に、疑問を浮かべた。神はその疑問に答えた。


『そんなに難しく考えることはない。私はただ、お前が王族に生まれながら、ある程度の気高さを備え持っていると言いたかったのだよ』


「はぁ……。それよりも、私がお聞きしたいのは――」


『わかっている。この爪のことだろう? この爪は、千五百年前の闇龍封印のための戦いの際に、私が使った武器だ。この《デュラック・クロー》を、お前に譲ろう』


「で、ですが……」


 リタは困った。藪から棒に砂龍神から、〝武器を譲ろう〟と言われたからだ。が、ヨゼフやナンシーの励ましもあって、彼女は爪をもらうことにした。


「で……では、ありがたく受け取ります」


 リタは心底、まだ迷っていた。が、私達が行動を起こさなければ、この魔界は滅亡しかねないと思い直し、彼女は気を引き締める。


(私達が奴隷部屋を脱出したのは、意図的なものじゃない。この魔界を救うためなんだ)


 リタは決意を新たにし、ヨゼフ達と謁見の間に戻ろうとした。が、砂龍神デュラックは、彼女達を呼び止めた。


『お前達に頼みがある。聞いてくれるか?』


「もちろん、良いですよ」


 三人は真剣な眼差しで、砂龍神デュラックの質問に答えた。その眼差しは、希望に満ちているようだった。神はそれに応え、願いをリタ達に訴える。


『各属性の龍族の住処には、それぞれ神殿がある。それらの神殿の奥深くに行き、私の仲間に会うのだ。ただし、彼らから《セイント・ウェポン》をもらうには、龍族の代表者とも呼ぶべき魔族を連れて入らなくてはならない。そこは、肝に銘じておくのだぞ』


「わかりました」


 リタ達は砂龍神の願いを聞き、ランディー王がいる謁見の間に戻った。

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