地下神殿の鍵、その4―魔道族の理屈―

砂龍城の中で、リタ達は地下神殿の扉の鍵を見つけた。が、喜んでいられたのも束の間、騒音のように大きな声と共に突如として現れた、キア一味の火系魔道師。彼の話では、冷酷な領主の命令で、リタ達の行動を阻止することになっている。それではなぜ、魔道族はリタ達を奴隷にしたのだろう。そして、闇の大蜘蛛と戦わせ、自由を与えたのだろう。彼らの目的は、ガルドラに住む龍頭の魔族達を根絶やしにする、ということだけではなさそうだ。


 リタは顔をしかめて、火系魔道師に聞いた。


「答えろ、フィアロス。〝キアのため、領国のため〟って、どういう意味だ? 何を企んでる?」


 リタの質問に対して、フィアロスははぐらかすように、


「少しは、他人の話を最後まで聞いたらどうだ? その秘密を迂闊に明かしたら、俺までリゲリオンと同じ目に遭う。そんなのは、ごめんだ」


 と答えた。更に、フィアロスは付け加えた。


「だが、もしお前達を倒すことができれば、あの哀れな氷系魔道師の弟を救うこともできる」


 はたから見れば、自分勝手にもとれるような理屈を、フィアロスは述べた。


(フィアロスめ、仲間を想ってるのか、想ってないのかどっちだよ! 念のため、僕のとっておきの罠を仕掛けてから、会心の一撃といくか……)


 ヨゼフは意味のない微笑を浮かべながら、一人妄想をしていた。リタは気持ち悪いや、と思った。


 巨大な砂龍の爪を象った武器を左手に持ち替え、彼女はフィアロス目掛けて突進した。爪は火系魔道師の右腕を掴んだものの、傷一つついていなかった。それどころか、彼女の一撃は、火系魔道師の素手で弾き返されてしまった。


(爪を素手で弾き返しただって? そんな馬鹿な……。この魔道師は一体、何者なんだ?)


 呆然とするリタを助けるかのように、ヨゼフが槍先で地面に穴を開けた。次に彼は、リュックから水筒を取り出した。それを持って、彼は穴に水を注ぐ。その仕種はまるで、花を育てているかのようだ。


(ヨゼフ……? 何をしてるんだ?)


 リタは思った。ヨゼフの行動が、不思議だったからだ。全ての穴に水を注ぐとヨゼフは汗を拭き、手を交互に打ち鳴らした。


「ここからが本番さ!」と叫びながら彼は槍を十回転させ、地面に突き刺した。すると、フィアロスの足元が揺れた。やがて彼の足元は、稲妻の模様を描くように割れ、中から水しぶきをあげた。


「名付けて水系呪文、《円陣水しぶき》さ!」


 ヨゼフは叫ぶように言った。


(なるほど。あの時オアシスで水を調達してたのは、呪文を繰り出すのに必要だったからなのね。やるわね、ヨゼフ)


 ナンシーは、先程ヨゼフがとった行動を見ていて頼もしいと思った。


「やるな。流石は我が領国で鍛えていただけのことはある。今日はここで撤退だ」と言い残して、火系魔道師はレザンドニウムに戻った。


(逃げられたか……。でも、砂漠や砂龍城の安全は確保できた。今回は、これで良しとしよう)


 リタはしばらく、フィアロスが去った方向を見つめていた。


「リタ、地下神殿に行くよ」


「置いていくなよ、ヨゼフ、ナンシー」


 リタは二人に催促され、慌てて走った。

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