地下神殿の鍵、その3―火系魔道師の襲撃―

ランディー王が話した通り、別名サファイア砂漠とも呼ばれている、青い砂が特徴的なこのフィブラス砂漠の城の地下には、神殿があるのだが。――


 その地下神殿の鍵を探すため、リタ達はジオの部屋に来ていた。


「ジオ、顔を真っ赤にしてるけど、何かあったの?」


 リタは、半ば無神経な聞き方をした。ジオは少しの間、黙っていた。が、今度は口を小さく開いて言った。


「あの、実は……地下神殿の鍵をどこにしまったか、あまり覚えていないのですが……。すみません……」


 そう言うとジオは、今度は涙を流した。


「あああ……。ジオ、泣かないでよ。お前を責めてるわけじゃないんだから。上手く言えないけど、忘れることぐらい、誰にだってあるじゃないか」


「リタの言う通りですよ。とにかく、この部屋を探してみましょう。もしこの部屋になかったら、浴室でも調理室でもリタの新しい部屋でも、探しましょう」


 ヨゼフは丁寧ではあるが、大袈裟な口調でジオを慰めた。


(なかなか見つからない……。ヨゼフが言った通り、浴室や調理室を……しまいには、私の部屋――新しいのはどこにあるかわからないけど――取り敢えず、あそこを探すことになるかも)


 リタがそう思った時、ナンシーは思わず叫んだ。何か光る物が、机とカーペットの間に挟まっていたからだ。他の三人は大急ぎで、ナンシーがいる位置に集まった。


「どうしたの、ナンシー」


「光る物……」


「え、何だって?」


「何か、そこに光る物があるんだけど……」


「どこに?」


「ほらそこ、机とカーペットの間に!」


「わかった、調べてみるよ」


 リタは早速、ナンシーが教えてくれた所を調べてみた。するとそこには、鍵が挟まっていた。


「でかした、ナンシー。きっとこれが、地下神殿の鍵だ」


 リタは地下神殿の鍵を、茶色のポーチの中に入れながら言った。


「よし、急いで神殿に行こう!」


 リタ達はジオの部屋を出て、その足で地下神殿に行こうとした。


 その時――


「地下神殿には、行かせない」


 どこからか、男性の声がした。その声の主は、九年前のあの日、砂龍族からリタを引き離したキア一味の魔道師の一人だった。


「お、お前は、火系魔道師フィアロス! まだ生きてたのか」


「当たり前だ。俺はそう簡単に、死なないさ。それよりも……リタ姫、この間は、随分と水系魔道師リゲリオンをやってくれたようだな。幸い、メアリーが連れ戻しに来たが、そのせいでリゲリオンは、キア様から大目玉をくらったそうだ」


「一体、何の冗談だ? 私達は急いでるんだ。そこを通してくれよ」


「そうはいかないね。これもキア様のご命令だ。悪く思うなよ」


 そう言いながらフィアロスは、炎のように真っ赤な剣を構えた。


(やれやれ。彼は本気みたいだね。だけど、城内では戦いにくい。ここは、一度広い場所に出よう)


 リタは、武器を構えた。と同時に、自分が考えた作戦をナンシーだけに説明することを思いついた。


「ナンシー、ちょっと耳を貸してくれ」


「な、何よ? こんな時に」


「良いから、早く!」


「わかったわよ。急かさないでよ!」


 ナンシーは眉間に皺を寄せながら、リタに耳を傾ける。


『良いか? ここは、城内だ。フィアロスの属性を考えたら、ここじゃ戦いにくい。父上やジオ、兵士達と一緒に、城の外に出よう。その方が、周りを気にせず戦えるはずさ』


『なるほど、それは良いわね。ところで、一つ気になったんだけど……。なんで、ヨゼフには言わないの?』


『だって、彼は口が軽いからさ……』


 リタはナンシーに聞かれて、顔を真っ赤にした。というのは、〝ヨゼフに言うと、絶対にばれてしまう。彼は奴隷部屋にいた時も、あれほど内緒だって言ったことを、一分も経たないうちにみんなに知らせてしまったし〟と思ったからだ。


 改築された(といっても、改築されたのは謁見の間及びその部屋の壁、王の部屋やリタの部屋、ジオの部屋だけだが)砂龍城から十メートル離れた場所で、三人はフィアロスに立ち向かう。


「お前達の狙いは、何だ? 闇の大蜘蛛を倒した私達は、もう奴隷じゃない。あれは、そういう約束じゃなかったのか?」


「確かに。だがこれは、全てキア様のため、レザンドニウム領国の繁栄のためなのだ。お前達龍魔族を、予め根絶やしにしておかないと、俺達の計画が狂ってしまうのだ」


「俺達の計画? どういう意味だ? 教えろ、フィアロス」


「そうはいかない。もし、どうしても教えてほしいというのなら、俺を倒してから教えてやるよ」


 フィアロスはまるで脅しのように――いや、彼は全身から殺気を感じさせながら言った。彼の態度を見たナンシーは、斧を持つ手をぶるぶると震わせ、一歩後ろに下がった。


「リ、リタ……」


「どうした、ナンシー。手が震えてるみたいだけど」


「怖い……」


「怖い? 何が?」


 ナンシーの左手を抑えながら、リタは聞いた。心配してくれてありがとう、と言いたげにナンシーは落ち着き、なぜ自分が怖がっているのかを話した。


 ナンシーが、火系魔道師の全身から満ちている殺気を感じて、怖がっている理由。――それは、九年前、ナンシーが魔道族の手によって火龍族から引き離され、レザンドニウムに連れて行かれる時、彼女は必死に抵抗した。そう、彼女はその時にあった黒づくめの男性魔道師から感じられた殺気のことを思い出して、震えていたのだった。


 リタは彼女の話を聴きながら、火系魔道師と戦っている。それは、ヨゼフも同じである。


(そうか……。ナンシーが奴隷部屋で一晩中涙を流してたのも、さっき手が震えてたのも、九年前を思い出したせいだったんだね)


 ヨゼフは思った。僕達水龍族と似た過去を、砂龍族や火龍族も経験してるんだね、とも思った。


 レザンドニウム領国の元奴隷達と上級火系魔道師との、神殿を巡る戦いが今、始まる。

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