第2話 職業ギルドと養成所

 世界で一番大きな団体は、いわずもがな職業ギルドだ。

 職業ギルドには、全世界のどの人間も何れかのギルドに属すると言われるほど、様々なものがある。それぞれは業種の違いだけでなく、距離すら超えて互いに深く関わり合っていた。全世界で方針や経営を共有できている。

 それを可能にしたのは、≪ネットワーク≫という情報管理システムだ。それは、ガイゼリアに拠点を置く、≪フィヒターの家≫という研究機関が開発したもの。十年ほど前に普及し始め、奇しくも丁度世界規模の魔物襲撃事件が起こり、その成果を知らしめることとなった。

 この媒体は各種ギルド卒業証(たいていがアクセサリー型をしている)等を通して、見たいという意思を示すだけで簡単かつ即座に閲覧できる。使用感は、ほしい情報に関連するものだけが頭の中に流れてくるような感覚だった。開発者によるプレゼンでは、システムが難解すぎて誰も理解できなかったらしい。

 また、ギルド機関は地域ごとに一か所にまとまって居を構えている。職業それぞれが協力し合っているためでもあり、養成学校をひとところにおいて、多分野について学びたい者や、方向転換したい者に対応するためでもある。

 ただどこの地域にもすべてのギルド機関があるわけではない。多くは管理者や教授側の人材不足に起因する。

 そのため、なりたい職業のギルドが自分の故郷にない場合には、遠出をして別の地域の養成学校に通うことになる。そういった場合のために、寮が用意されている。

 サラはこの寮にお世話になっている学生だった。実家がある田舎町の近辺には、職業ギルド自体もなければ、転送機巧ゲートもない。もちろん、毎日登下校できるような距離でもない。

 余談だが、ギルド卒業証兼登録証となるクリスタル、および瞬時の遠距離移動を可能にする転送機巧ゲートの開発も、≪ネットワーク≫を開発した≪フィヒターの家≫によるものだ。そのため、この機関を知らない者は、人間社会ではそうそういないだろう。



「いいなぁサラ」

 木々が絡み合うように組み上げられたベッドに身を沈め、ルームメイトのアゼルがぼやく。

 それに対してサラは、さすがに「いいでしょう」などと胸を張って言えた案件ではないので、なんと言っていいか分からずただ苦笑いを返した。

「あたしも先輩がたと一緒に盗賊ぶっとばしてみたいよ」

 アゼルは口をとがらせていた。

「危ないよ」

「その危ないことをやってきた張本人に言われたくないですよーう」

 というアゼルだったが、すぐに、なーんてね、と舌を出した。

「ただの五年生が盗賊に太刀打ちできるわけがないもの」

 言いながらアゼルは欠伸をしながらのびをした。アゼルとサラは同じ『冒険者カリキュラム』を受講する五年生で、歳も同じ十一だ。ただしサラの方は専門科目の等級クラスが違う。

「わたしも先輩たちがいなかったら死んでるよ」

 サラは困ったようにそれだけ言った。

「まあ、そーゆーことにしとく……」

 返ってきた声はすでに眠そうだった。

「もう寝よう」

「ん、おやすみぃ」

 そして平穏な夜は過ぎてゆく。

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