蠢く存在
「国を亡ぼすどころか、一冊丸ごと殲滅されているじゃないの」
女は呆れた様子で呟いた。
「いや、屑本だったにしても、人間を侮りすぎなのだ。我々はもう少し奴らを警戒するべきだ」
男は落ち着いた様子で呟いた。
「結局主力っぽいのは殺せなかったようだし……次があるなら用心してやろうじゃないか」
男は少し楽しそうにさえ見えた。
「にしても、みごとな屑本だったな。眷属がほとんど魔物レベルでしかなかった」
くっくっく、と、横柄な態度で笑う男。
「……控えろ。あれでも御爪の欠片だったのだぞ」
それを鋭い視線でたしなめる男。
そして。
「……」
男は言葉を発しなかった。
あの国は危険だ。偶然だとしても、≪地精の墓標≫に雷・火・水と、大精霊の加護を持つ者が集まりすぎている。
──そして彼自身気まぐれに力を貸しただけの件がそれに絡んでいることを、彼はまだ知らない。
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