第47話 行き違いすれ違い

『何? 大広間?』

『ええ。皇帝夫妻とビヅー卿はそちらに向かったと思われます』

 ミンファは≪ネットワーク≫でウィルと会話していた。

 三班、四班のメンバーとも≪ネットワーク≫で会話すればよかったと彼が思い至った時には、連絡が取れなくなっていた。ジャミングかあるいは……既に殺されている、か。

『そして……イロリ=シノノメの死亡を確認』

 ミンファの声は淡々としていた。

 ウィルは黙り込んだ。

 ……何人失えば良い? 皆皆、殺しても死なないような奴らだったし、殺しても死なないように育ててきた。

 それではまだ、足りなかったというのか?

 魔族とは、そんなにも隔絶した存在なのか?

 ……侮っては、いたのかもしれなかった。

 もし、三手に分かれたりせず、全員で行動していたら?

 ……たらればを考えていてもどうしようもない。今、このときにすべきは。

『お前たちは大広間に向かっているのか』

『ええ』

 ミンファは即答してきたが。

『それより先に来賓棟に来てくれないか。合流したい』

 ウィルの言葉にミンファは疑念を抱く。

『はい? 普通に合流できると思うのですが……何かあったのですか?』

『いや、危ねえことは何もねえんだが……魔封じの塔に幽閉されていたルーナ様はなんとか生きておいでで、助け出せたんだが……ひどい有様で、本人が身だしなみを整えたいと言って今は来賓棟に居る』

『……こんな時に何を……』

 ミンファは呆れる。が。

『単なるお姫様モードとかじゃねえぞあれ。自分がこの事態の旗印になることを意識してやがる。ずたぼろだと格好がつかないとさ』

『ずたぼろって……』

『数ヶ月薄着一枚で幽閉だぞ。しかも毒盛られたりなんたりな』

 ミンファは絶句した。

『今エリィが世話してくれてる』

『……そうですか……』

「……皆さん、広間より先に来賓棟へ向かいます。別働隊が、ルーナ様の救出に成功しました」

 ミンファの言葉にどよめきが上がる。

 皆半信半疑だったのだ。ルーナが生きていることなど。

「ちゃんと代わりがいる、か……」

 シールが誰にも分からないような声でぽつりと呟いた。

 彼はセリへ半ば強引に肩を貸し、引きずるように歩かせている。

 彼女の瞳は虚ろで、唇が呆然と小さく開いているままだった。

 こいつの場合、誰も兄の代わりになどならないのだろう。

 ほんの少しの間しか接することがなかったとはいえ、シールの窮地を直接救いに来たのはこの兄妹だった。思うところはある。

 サラは、地に落ちたままのシリウスの痕跡をまとめ、鞄にしまった。仮面・ブローチ・着衣・眼鏡。残ったのは、それだけだった。

『気になるのは三班と四班の行方だがな。……クソ、色々動揺しすぎた。すまん、情けねえ』

『……敵が魔族というのは想定外でした。……これ以上の犠牲も、ご覚悟を』

『ああ……分かってるさ……!』

 やるせなさそうにウィルは念話をネットに投げた。

 だが、そうやすやすと斬り捨てはしない。してたまるものか。

 今までどうしたらいいのかタイミングを測っている間に、机上の空論だけは大量に用意してきたではないか。

『すみません、通信、中断します』

『どうした』

 ミンファの科白せりふにウィルは嫌な顔をした。また何かあったのだろうか。

『エントランスに再度魔物が溢れています……これは……やはり、早くそちらを済ませていただいてこちらに合流いただくのが良いかと』

『……分かった……』

 ウィルは眉間に皺を寄せて答えた。

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