月下の宴

第46話 真昼の満月

「なんだ……ここ……」

 アレンやヤトの三班や四班だけでなく、傭兵隊や一般市民も同様に、焦りを口にしたり表情に出したりしている。

 ここは大広間のだ。入る前は確かにそうだった。奥まで視界は開けていた。用心も重ねた。しかし……。

 はるか天には星空。明るく輝く満月。……現実時間は未だ昼だ。

 そして果てしない。終わりの見えない真っ黒の空間。入ってきたはずの方向ですら、ただ闇だけが続いている。入り口が、なくなっている……。

 これは、どうせろくでもないことが待っているに決まっている。

「ウィルさんたちはどうなったんだ……!」

 シリウスが亡くなったと言う連絡があってから以来何も無い。そのうえ、今呼びかけても何も返ってこない。それ以上に誰か死んでいたらと思うと、胸がざわつく。

「ウィルさんたちも、ここに、居るのかな」

 ヤトは不安げな表情を浮かべていた。満月のせいで視界は良い。

 アレンはその顔を見て自分も同じような顔をしているのだろうなと思う。ばしっ、と両手で自身の頬を叩いた。

「こういう事態の鉄板はうろうろしないことだ。じっとしてて相手の出方を覗う。気配に注意だ、傭兵の皆さんも御協力をお願いします」

 気を取り直したアレンの科白せりふに皆頷く。

「一般市民の皆さんは固まっていてください。我々が周囲を固めます」

 ヤトも気を引き締めなおす。

 彼らは来賓棟では何もなかったので引き返し、大広間にやってきていた。

 王妃がいたという謁見の間の方は気になりはしたが、まずは近い方のグループに合流して向かおうという考えだった。

 皆シリウスの死に動揺していたのか、その時に≪ネットワーク≫で連絡をつけなかったがために、ウィルたちとは違う階段を使用してすれ違ってしまったのだが、彼らはそのことを知りようもない。

 一般民衆は皆とても不安そうな焦りの表情を浮かべていた。これから一体どうなってしまうのか。

 と、仮面とブローチをつけた近衛制服の面々が身構えた。

 呪文詠唱を始めている者たちも居る。

 その詠唱が終わった瞬間。

 闇の中から近衛の服を着た連中が三名、嫌な笑いを浮かべて現れた。

 リィィイイ……

 澄んだ音を立てる光の壁が人間達の周りを固めている。

 数人がかりで組み上げた複合結界である。物理攻撃も魔法攻撃も跳ね返す正多面体が出来上がっていて、それは球のように地下にも巡っていた。

「そんなに警戒して……特に乱暴なことをする気はないのですよ?」

 近衛の一人がくすくすと笑って言う。

「信じられるかよ……」

 アレンは彼らを睨みつけた。

 彼は『あの場』に居合わせた一人だった。

 王族も、ともに笑い飯を食った友人も、あの時に殺された。

「ええ、信じなくて結構。良いこともする気はありませんからね」

 相変わらず彼女はくすくすと笑っていた──彼女のこの顔と声も、よく見知って聞きなれたものだった。本当に、どうして、こんなことに──。

「さぁ、では宴の始まりです。皆様どうぞ、お楽しみください」

 パチンと指が鳴らされた。

 月すら見えなくなった。

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