第39話 分かれ道

 果たしてどのグループが最後真実に辿り着けるのだろうか。

 元々王宮に仕えていた者はその三叉路のどれがどこに行くのかを知ってはいたが、どれが正解なのかは見当もつかない。

「皆死んじまったと思ってたんだが……あのお言葉を信じるならそれ以上だな……」

 ウィルは青ざめていた。

 人が魔物に変えられた? そんな話、人狼が人を噛み殺したあとくらいしか噂に聞かない。

 世に聞く人妖の類も、ああもけだものじみたものではなく、人の姿をし、人語を解した。

 だがあれら魔物はただただ戦闘衝動に駆られるままの狂ったモノたちでしかなかった。

 ……陛下の身を案じ、止めるのも聞かず走っていった小間使い、近衛たちの姿が浮かぶ。

 かれらの成れの果てが……あれらだというのか……?

 一般市民側の誰もが、そのことに対する怒りもありはすれ、ただただ驚愕していた。そして、恐れていた。そんなおぞましい仕打ちを実行できるモノがこの先に待ち構えているというのか……。

「いったいなんなんですの! なんですのこれは……!」

 エリディアは涙目になりながら眉間に皺を寄せてぶつぶつとそう繰り返している。

「落ち着いて……と言いたい所ですけど……僕も無理そうです……」

 そう言うリーザはまるでどこかに重傷を負ってでもいるかのような顔をしている。

 一層深刻な表情をしていたのは世間では暗殺されたことになっている大臣達だった。

 命令は本当に国王が発した物だったというのか。

 一同皆、に国王が操られているのだという事態を一番望んでいる。

 きっと、この国は元に戻ることができるのだと────。

 三叉路のそれぞれに別れる前に、皆それぞれお互いの無事を祈り合った。



 真ん中の、大広間へと続くルートが一番長いものになる。

 ここから先には色々廊下があるが、中庭のテラスを通るのが一番短いのかもしれなかった。

 そのテラスを越え、少し廊下を進めば、大広間である。

 大広間の向こうにはさらに小さな庭があり……奥の奥には皇居が見える。……今は近衛隊が守っている様子も無い、無防備な皇居。

 どこまで行かねばならないのか分からない道。

 だからこそウィルを含む一班や五班を中心とした部隊が担当した。


 三班四班で構成されたヤトたちが向かっているのは、一階の小間使いの部屋、二階の来賓用の豪勢な部屋を経て、三階にいくつか食堂のある西側方向だった。 

 そう、そのひとつは未だ埋葬されない王族や一部の近衛隊士の遺体と乾ききった黒い血痕にまみれている。

 事態を終わらせ早く埋葬してさしあげたいものだった。

 そして一番部屋数の多い道。

 皆おそるおそる、ひとつひとつの部屋を確かめていく。


 二班の大人たちと、六班の少年少女たちは、東側の道を行くことになった。

 皆、押し黙っている。

 群集もそれに同じ。ひそひそ声すら聞こえない。

 彼らの行き着く先は三階の謁見の間。天井に隠し通路のあるあの部屋だ。

 こちらには大臣達のリーダーとも言うべきクラフナー公がいる。

 そのため≪望月衆もちづきしゅう≫準精鋭部隊と、ひよっことはいえ化け物ぞろいの年少部隊をくっつけてある。そこに一班からラズまで加えられていて、他の道よりも厳重な体制だ。



 当初想定していたような軍相手の駆け引きよりも、危険度が段違いに上がっている。

 わけがわからない事態に困惑しながらも、それだけは確かだったので、各々さらに気を引き締めて、道を進んでいった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る