第36話 荒れ放題の庭
「皇帝がおかしくなったかと思ったら、今度は魔族が入り込んだ可能性があるってのか……?!」
ウィルが軍部で起きていたことを話すと、洞穴の中は騒然とした。
泣きっ面に蜂である。
「いっそのことその魔族が王城ぶっ壊してくれればいいんじゃね」
雇われの傭兵がぽつりと言うが、
「何言ってやがる……俺たちはガル様がどうなっていらっしゃるのか、この目で確かめる必要があるんだ」
シアン市民に睨まれて肩をすくめた。
「しかし、近くの軍舎がやられたんです。王城も危ないかもしれない。もう、行動に出ましょう。打ち合わせは、充分にしたはずです」
ウィルが鬼気迫る表情で言うと、一同頷いた。
ことは一刻を争う。こうしている今も王城が魔族に蹂躙されている可能性があるのだ。
「昼に、正門前に集合だ」
ギャリカが言う。民衆は皆それぞれの準備にかかった。
「敵として想定していた軍はもう……いない。この城の戦力は近衛兵団だけだ。こいつらの話からすると、十人も居ないだろう」
ギャリカが腕を組んで≪
「近衛兵士は噂通り本当に敵だとして……帰ってきていないような、小間使いたちも洗脳されてて襲ってくる可能性は」
「ありはする。……今はお前さんたちの命を優先するぞ。こちらには兵士と、傭兵さん方がいてくれる」
その言葉に腕自慢の者たちは任せておけと言わんばかりに笑みを浮かべ、一般市民たちは複雑な顔をした。
「皆は彼らの邪魔にならないよう固まって、生きてガルフォート様の所までたどり着くことだけ考えろ」
おう、とかうっす、とかはいよ、などといった声が上がる。
「城に残っている近衛よりも、心配なのは罠です。皇族の居住区に行こうとしたものたちは皆蒸発しています」
「あとはまあ、横の軍が魔物にやられてたんだ……王様が死んでないことを祈れ」
傭兵のひとりが言うのを聞いて場が静まり返る。
「……行くぞ」
ギャリカが低く言った。
かねてから考えていた陣形を組んで、城門を進む。敵の主戦力と見ていた軍隊はまるまる居ないが、用心するに越したことはない。
門番などはとうに居なかった。壕に渡された橋もそのまま、上げられていない。
庭を進んでいくその陣形の中、ス、っと数人ずつ近衛兵士の制服と仮面をつけた者たちが加わってくる。
「な、何だ?! 十人も居ないんじゃ……!」
敵襲かと身構える市民たちだったが、そこでアレンがこそっと呟いた。
「≪
サクラ以外の何者でもないが、それは群集を波立たせる。こういう時に姿を現してこその陰の脅威だった。
「国の……守護者?! 伝説の部隊だぞ、そんなの本当にいたのか?!」
「ていうかそんなのが相手なら勝ち目ないんじゃ……」
臆して立ち止まる市民たち。だが。
彼らは、にこっと笑ってただ無言で彼らの先頭に立ち、城の方へ進んでいく。
群集はしばらくざわざわしていたが、
「味方……してくれるのか……?」
「わ、罠じゃねーだろうな……」
などと困惑しつつも、後について荒れ放題の庭を進む。もとは噴水の美しい庭だったはずなのだが、数か月も放置されればこのようになってしまうのだろう。
その庭は広大だったため城自体に辿り着くのには時間がかかった。
皆一様に無言である。王城の庭が荒れ放題であることが、王城で何かが起きているのを物語っているようだった。
城に着くと小規模の濠があり、瀟洒な彫刻の施された橋がかけられていた。
巨大な玄関扉は固く閉ざされているように見えたが、制服の≪
やがて扉に巨大な輝く魔方陣が浮かび、それがゆっくり360度回転して霧散した。
すると勝手に扉が開いていく。
これはセリシアとシリウスが作った『どんな鍵でもあけてしまう』魔法だった。元はいたずらを目的として作ったというからたちが悪い。
開いた扉の先は───魔物だらけだった。
「……くそっ……!」
これでは……皇帝夫妻や近衛の数人も、
もっと早く城に来ていたらと、一般市民たちと──≪
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