第34話 色

「それくらい分かるだろー……」

 グレンの館にて。体調が戻った様子のシールにアイリスが問うと、シールは呆れたようなため息をついた。

「色が違えば精霊が違う。力の元が違うんだ。それをどうにかしたかったら、同質か逆位置が必要になる」

「逆位置?」

 シリウスの問いに、シールは面倒そうに答えた。

「紫の月に対してなら金色じゃない太陽でも連れてくるんだな。そんなのが居るかは知らねー」

 紫の月すら他に類を見ないのだ。その逆となるといったい何なのかすらわからない。

「でも、異質の精霊同士でも相乗効果があったり介入できたりするじゃないですか。何とかして……」

 シリウスは食い下がるが、

「紫の月なんてのは異質中の異質だ。そういう精霊は他とは一線を画したがる」

 シールの答えは希望を持たせてくれない。

「むー」

 セリが肩を落とした。

「だいたい、紫ってのは本当に月なのか? それすら分かんねえ」

「なんだって……?」

 アイリスが眉をひそめる。

「……まぁ、月の皇帝ってのはうちの国の神話に基づいたものだからな……神話を完全にお伽噺とするなら月では無い可能性も捨てられない」

「だとしても正体不明になっちゃうだけでますます分かんないよー!」

 セリがお手上げというように下を向いてふるふると首を振る。

「まー諦めろって。王様の代わりはいるんだろ?」

 おどけたように彼は言う。シールにとって現国王なんて愛着も何も無いのだ。それはサラも同じなのだがそうおどけられる気はしなかった。

「……元に戻って欲しいと思うのは勝手なのかもしれない。だけど、私たち孤児にとっては……皇帝も皇妃も親みたいなものなんだ」

 アイリスがぽつぽつと言った。

「できれば……倒されるとか……死んだりして、ほしくはない」

「失脚とかで……済まないかなあ……」

 セリもしょんぼりして言う。

「民衆の暴動からなる『革命』の行く末は現王の死が多いですからね……」

 シリウスが目を伏せて言う。トゥルフェニアでは革命など起きたことが無いのだった。

「しかし、これはきっと暴動じゃありません。臣下の方々、近衛、民衆の三者から起きる計画です……王に何が起こったのか、それが分かれば元に戻っていただけるのかもしれないでしょう」

 そういえば軍はどうなっているのでしょうね、とシリウスが言う。

 ちょうどまさにその時だった。

 ばん

 と勢いよく部屋のドアが開かれる。

 そこに立っていたのは、少し服装が乱れかすり傷が多少あるウィルだった。

「ヤバイ」

 彼は一言そう言った。

「軍舎が魔物で溢れかえってやがる。あれじゃぁ、軍の奴らは……」

「へ?」

 誰ともなく混乱の声を上げる。

 偶然ではあるが、ちょうどさきほどシリウスが軍の話題を振ったところだったため、六班の者たちはタイミングの合致に嫌なものをおぼえた。

「なんで、都市内部に魔物が巣食ってるんですか……?」

 サラは聞いた。確か軍舎は王城のすぐ近くにあったはず。

「街に出てないのが不思議だが出て来る前に片付けるぞ……!」

 そして≪望月衆もちづきしゅう≫は動き出す。

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