第33話 謎
「あ? 何のことだよ」
起きたそばからわけのわからないことを聞かれてシールは苛立っている。
「貴方は『当たり前だ』と仰ったんですよ?」
「知らねーよ。分かんねっつの」
収まらない頭痛に瞼を下ろし眉間に皺を作る。
シールは何を聞かれたのかすら思い出せないらしかった。
「ねぇ、もうやめなよシィ、シール辛そうだよ……」
セリにしては気遣わしげに言う。普段は人をからかうことを生き甲斐にでもしていそうにしているが、そうもできない事態だと判断しているようだった。
「また意識飛んでそのままになっちゃったらどうするのっ」
「……まぁ、僕にはその責任は負えませんね」
ふう、とため息をついてシリウスは引き下がった。
「現状を見るに、想像はできますしね。……おそらくエルフ種族というのはこの世界の構造を知っている。そしてそれを人間種族に教える気が無い」
「だからこいつは記憶を消されていると言うのか」
アイリスが相変わらずの無表情で言う。
「こいつ言うなし。とにかく頭痛えから静かにしてろ。何も喋るな。ていうかあっちの大部屋にでも行け」
シールが本当に
記憶が消えているのはどうやらあの質問に関することのみのようだった。
「我々人間種族は魔法に関して何の原理も証明できていません。今まで行われてきたのは科学分析のみですが、こちらでは魔法を否定する解しか出てこない。科学で立証できない現象でも使えるものは何でも使っている、それが人間」
シリウスはくい、と眼鏡を持ち上げる。
「対してシールは『色』についての知識を持っていました。そして百聖人のことも知っているようだった。……だけど『もみ消された』」
「確定して言えることではない……お前にしてはよく喋るな」
アイリスが淡々と返す。
「重要なことだと思いますよ。皇帝の紫と僕の銀、これに何の差があると思いますか? 僕は皇族のテンプテーションの判別はつけられるけど解除はできない。このカラクリを覆せないかと」
「まぁ……皇帝の魅了を解除できるにこしたことはないが……」
アイリスはそれはそうだと頷くが、
「しかし消えてしまったというならそれを引きずっても仕方ないだろう」
すぐにそっけなく首を振った。
「彼が忘れてるふりをしてるだけだったとしたら?」
「仮定ばかり立てても仕方がないと言っている。それに彼の記憶喪失はばば様のお墨付きだ」
「ばば様も嘘をついているとしたら?」
「何の意味があると言うんだ」
「はいはーい! そんくらいにしとこ! お姉ちゃんとシィの言い合いとか珍しいものが見れたけど、今は信じられるものは信じとこ! 嘘だって分かったらその時に思いっきし痛い目見てもらえばいいし!」
セリが二人をなだめた。これは珍しいことなのかもしれない。
「まぁそれはそうですね。今はやるべきことをやればいい」
シリウスはあっさり引いた。
アイリスは無言。相変わらず無表情なのでどう思っているのか分からない。
サラも終始無言でその様子をただ見ていた。新人なためなのか異国人なためなのか、あるいは
だがふと思い至る。
「ちょっと待ってください。『色』についての知識を教えてくれたときは何ともありませんでしたよね? まだ何もかも忘れたとは言えないんじゃ……」
「……そうか」
「でも何にしろもうちょっとの間は安静にさせとこうよー」
セリがむくれたように言う。
「あぁ、分かってる」
アイリスの声に、サラは優しい響を感じた。しかし無表情なのは変わらないのだった。
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