第32話 なにも言い得ない

「未だに、分からないんですよ」

 ウィルはグレンに問う。

「我々が果たして正しい道を選んでいるのか」

「正誤は結果が出てから決めるもの。今は己の判断を信じるのじゃ」

 グレンは目を伏せた。

「貴女は見得ているんでしょう? 国王の豹変の理由が」

「ああ。分かっておるよ」

 グレンは自嘲の笑みを浮かべる。

「わらわが道を示してはならない。国がわらわの傀儡ではいけない。わらわのエゴで国が動くことは許されない。……理も覆してはならない」

「……」

 見得るからこその苦渋。彼女は今なにを思っているのだろうか?

 それを気遣う余裕はまだウィルにはあったが、もどかしいものはあった。

「ジオとエリスのことも……俺には言えないんですか」

 今もまだあの二人が死んだかもしれないなんてことは考えたくも無かった。

「そうさな……そなたには、ひとつ、伝えても良いかもしれぬ」

 グレンが悲しげな瞳をウィルに向けた。

「ひと、つ」

「あぁ。……あやつらは上級魔族に付け狙われていた。その結果じゃ」

 ウィルは絶句した。

「な、何やってんだあいつらは?!」

 数秒たってやっと出た科白せりふは驚きと混乱を含んだものだった。

「……危険を冒すもの。あやつらこそ、『冒険者』と呼べたのかもしれんの」

 グレンはまた目を伏せる。

「何故かは、言得ないのですか」

「……あぁ。……じゃが未来に関わる事象とだけは言得る」

「……」

 それはなにかの未来に、上級魔族が関わってくるということ。

 御免被りたかった。

「じゃが未来のことはあやつらのせいではない。断じて、違う」

 グレンは眉間に皺を寄せる。

「じゃから、恨むのは筋違いじゃぞ。時が来てもな」

 それは一体いつ来るというのだろう。

「……乗り越えられるさ。皆、強くなった」

 グレンは優しい笑みを浮かべてウィルにそう言った。ということは上級魔族は身近に降りかかる事態で、その解決は確定事項なのか? ……いや、グレンの持つ希望なのか。

「まずは、今、この現在を生き抜け」

 そう言ったグレンは一転して強い目をしていた。

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