第31話 黄色い稲妻

「なーんで俺がお子ちゃまたちと一緒に行動しなきゃいけないんだよ」

 シールが不服そうに言う。

「見た目お子ちゃまじゃな~い」

 ニヤリと笑いながらセリが言うと、シールはギロリと彼女を睨んだ。

「どうせ実際の年齢も覚えてないんでしょう。それに新人ですから、ちょうど良いかと」

 シリウスが言うと、シールはため息をついた。

「ていうか真っ黄色だね! あたしと同じかな?」

 あ? とシールはただそれだけ声をあげた。

「あたしは太陽の加護を受けたヒーラーだよっ」

 自身の金色の目を指しながら言うセリだが、それを聞いたシールははん、と鼻で笑う。

「俺のこれは金じゃねえだろ。黄色、だ。雷に決まってんだろ」

 言って詠唱もなしに持ち上げた左の掌に放電光を宿した。

「でもおっかしーよねー。実際空に見える稲妻って黄色くないのに。何で黄色なんだろう?」

 シールはまた大きなため息をついた。

「ほんっと人間種族ってやつは魔法のこと何にも知らねぇんだな。雷が黄色いのは、お前らのせいだ」

「えっ?」

 セリがきょとんとした。

「この星の知的生命体で圧倒的な数を占めるのがお前ら人間種族だ。精霊の宿す固有色は、お前らのイメージに左右されてんだよ。ったく、本当に誰だ、雷を黄色くかきはじめたアホは。これだから人間種族というやつは」

「なんか若者を馬鹿にするおじいちゃんみたいなこと言ってる!」

 あはははとセリが指を指して笑うので、シールはその頭にゴン、と杖を振り下ろした。といっても力をこめたわけではない。杖先を頭の上に落としただけである。だがその杖はそう低くないシールの身長をゆうに超えるような大きさのもの。

「いったぁあああい! 何するのっ」

 セリが涙目で訴える。

「ヒーラーなんだろ、治せばいいじゃねぇか」

 しゃあしゃあとシールは言い放った。

「単なる痛みなんて治せないよ! 魔法知り尽くしてマースみたいな偉そうにしてるのにそんなことも分からないのっ」

 痛みというのは脳が感じ取る危険信号だ。それを停止させるのは魔法ではない。薬学の役目だ。魔法は傷を癒す根治療法であり、対症療法ではない。

「嫌味に決まってんだろアホ」

「むきーーーーーー!」

 セリは大げさに悔しそうにしている。

「にしてもおかしいですよね。記憶をなくしているのでしょう? 何故自分のこと以外は覚えているんですか?」

「知らねーよ。封じた奴に聞け」

 問うてくるシリウスに身も蓋も無く言い放つと、今度はサラの方を見てシールは鼻で笑った。

「は、おかわいそうなこったな。人間じゃそれだけの加護身に余るだろ」

 言われてサラは、こちらも詠唱なしで人の頭ほどある水球を出現させた。

「これを被れば頭が冷えますか?」

「……お前、何者だ」

 細目でサラを見据えて、シールが問う。

「ただのクソガキですよ」

 子供にしては老成しているその少女は肩をすくめてそう答えた。同時に水球は霧散した。

「そういえば何でもご存知でいらっしゃるみたいですけど、始祖の百聖人に連なるその加護の正体は分かるんですか?」

 シールは何もかもが黄色、サラは何もかもが青色。

 世界に百人しか居ないという、体毛・虹彩・爪が全て精霊の固有色に染まっている者が、ここには二人も居る。

「当たり前だろうが、あのなぁ」

 シリウスに返してそう言った瞬間、シールはうめいてよろめき、ついには地に手と膝をつく。

「ど、どうしたのっ!」

 セリが慌てて駆け寄る。

 少し顔を上げたシールの額の紋様が、赤く紅く不気味に輝いていた。

「───ッ……!」

 しばらく意地で耐えていた様子だったが、ほどなく彼は意識を手放した。

「……何があったんでしょうね、この人に」

 シリウスが珍しく驚いたような顔をしてぽつりと言った。その場にいた六名は、心配そうに意識の無いシールを見やる。

「こんなの、どう回復していいのか分からないよ……!」

 ヒーラーの意地からくる悔しさをこらえきれず、セリがうめくようにそう言った。

「ちゃんと、目を覚ましますよね……?」

 ロノが心配そうに言う。

「分からない。とにかく、寝所に運ぶ」

 アイリスが一人で背負おうとしたので、ロノは慌ててその役を取り上げた。

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