第30話 お披露目会

「反則だ」

 サラは剣術にこだわらず、抜きづらいなら抜きづらいでチート長剣を棒術の棒に使った。

 ウィルはその鞘を首につきつけられながらうめいた。

「全力で来いと仰いましたよね?」

「ああ……伊達に濃紫つけてる訳じゃねぇんだな……」

 強化魔法をこれでもかと盛り込んで舞うように間断なく振り回される棒(長剣)に、ウィルは何も反撃できず5分で音を上げたのだった。

 榊葉教授とやりあった時よりも慣れてきた。今なら教授さえ数分で参らせられる気がする。

 つきつけた構えを解いて、もとのように留め具で背中に長剣を背負う。

 しかし不思議な剣だった。今では安定してサラに使い易いような重量であり続けているが、移動中に邪魔にならない。

「この剣ほんと気味が悪いです。何か魔法かけてあるんですかね……紋章とかないけど」

「ジオの作るもんの正体なんて俺にはわからん。加えてエリスの調整力だ。そいつは偶然の産物とは聞いてるが、何を目的に何を作ろうとした結果そうなったのかも分からん。てか恐ろしい」

 ウィルも気味が悪そうに答える。あの二人のことなんて娘である自分ですら分からないのだ。親友だという彼にも分からないならもう本人たちにしか分からないだろう。

「しかしなんですか、ここ。首都の下にこんなのあってよく崩落してませんね」

 ここは例の≪地精の墓標≫だ。少し落ち着いたためサラとシールの紹介のために、≪望月衆もちづきしゅう≫の面々が一度集まることになった。

 そして腕試しということでウィルとの試合である。

 隊員たちは皆冷や汗をかいていた。ウィルが終始押されるところなど初めて見た者がほとんどだった。なにせウィルも濃紫所持者なのだから。

「上下水道のはるかしたにあるしなぁ。そしてたぶん、古代文字が強化と隠匿の呪文になってる」

 ウィルは周りの壁をくいっと指した。

 壁面にびっしりと書き込まれた古代文字と不思議な光る石の燭台。石製の机や椅子は崩れかかっているものもある。

「たぶん?」

「あぁ、いっこうにわかんねえんだよ。今のところエリスが≪地精の墓標≫って単語だけ解読できたくらいだ。だから皆この部屋をそう呼んでる。古代文字っつってもトゥルフェニア人のものですらないからな。これはグレン婆たちが移住してくる前からあったらしい」

「正体不明の遺跡が根城って、いかにも秘密組織って感じじゃないっ?」

 セリが目を輝かせている。

「けど二人とも強いんだねー。まぁここで負けてたら文字通りウィルさんの剣の錆だけどねっあははっ」

「逆に言うと俺が剣の錆になることもあるんだがな。お前ら二人が棒と杖なおかげだ」

 シールの方は強化魔法でウィルの攻撃を全部はじいてしまい、不毛なため切りをつけたのだった。

「とまぁ、ひょろひょろエルフとちびがきだが、どっちも半端ねぇ奴らだ。これからよろしくやってやってく……」

 酷い紹介をするウィルにサラとシールは息ぴったりにそれぞれの獲物をウィルに差し向けていた。

「わーったわーった、悪かったよ! まー特殊部隊だからって堅く考えるなってことだ。隊長がこんなんだしな」

 ウィルはおどけたようにそう言った。

「たまに怖いから注意ねっ」

 こそっとセリがサラに耳打ちしてくる。

「二人には六班に入ってもらう。これでこの班は七人か。……そろそろ子離れするかね」

 ウィルがにやりと笑う。

「もう甘ちゃんはおしまいだ。覚悟しておけよ」

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