少年少女

第26話 朝を迎える子供たち

 その後ほとんどの≪望月衆もちづきしゅう≫メンバーはそれぞれの家へと帰ったが、ウィル、ラズ、アイルハウンド三姉弟、サラ、シール、そして少年少女と同じ第六班所属のコロンとロノの九名はグレンばばの屋敷に泊まった。

 今日はもう時間が遅いとはいえ、最年少班の人員が増えるのである。親睦を深めるのも大切だ。

 眠気でぼーっとしたまま皆で食事し、風呂に入り、一部屋に子供たち(ただしシールは見た目は十代のようだが、子供かどうかは不明だ)七人を押し込め、ウィルとラズは朝気づいたらその部屋の前の廊下で壁にもたれて寝ていた。

「なんだか何もかも、現実のものに思えない」

 ラズがぼそりと言った。

「どうした」

 ウィルが聞いても、ラズは首を振る。

「ちょっと疲れたんでしょうね、なんでもありません」

 そこに、キィ、と小さく子供たちを押し込めた部屋の扉が開いた。

 ぼーっとした顔を出したのはサラだった。

 ゆっくりきょろきょろとしてからはっとする。そうだここはスハルザードの養成所ではないのだ。

 そして壁にもたれている大人二人を発見し、少し恥ずかしくなる。

「すみません、お手洗いありますか……」

「あっちの端っこだよ」

 ラズがを指さして教える。サラはありがとうございますと頭をおろして、足早にそちらに向かった。

「ほんとにきれいに真っ青だよな。なんつーか……マイナスイオン発してそう」

「どういう発想をしてるんですか」

 ラズはため息をついた。滝があるところなど、水がきれいな森などで出てきそうなセリフである……。

「さーあて……次はだれが起きてくるか」

 ウィルが思い切り伸びをしている。それにつられてなんとなくラズも似たようなことをした。

 するとむすっとした顔のシールが扉から出てきた。

「手洗いは男女ともあっちか?」

「聞いてたのか」

「聞こえんだよこの耳なめんじゃねえ」

 シールが自らの耳をつつく。

「そーだよ、隣り合ってる。行ってきな」

「おう。ありがとう」

 意外にも素直にシールが礼を言ったので、二人は少し驚いた。

「二人して何してるんですか。見張ってもらわないと寝れないような状況までにはなっていないはずですが」

 アイリスがウィルとラズに怪訝な視線を送ってきた。

「形だけだよ形だけ」

「単に寝る場所まで移動する前に寝ちまっただけだ」

「ちょ、ウィルさんばらさないでくださいよ」

 くっ、と一瞬笑って、それを隠すようにアイリスは部屋に戻っていった。

「え」

「今、笑ってたな? 笑ってたな!?」

 ラズは首をかしげ、ウィルは何か高ぶっている。

 万年鉄面皮が笑った理由はいったい何だ……?

「おっはよーウィルさんラズさん、実は提案があるんだー!」

 今度はセリシアが扉から出てきた。

「なんだよ?」

 あまりいい予感はせずウィルは仏頂面で聞き返す。

「サラには≪望月衆もちづきしゅう≫の守護神第三号になってもらおうよ。私の太陽、シィの月、サラの水、これだけ強い色持ちがいたら牽制力増し増しでしょー」

「お前らの事があるから、まだ幼すぎるだろうがとかいう反論はできんが……本人が望めばな」

 守護神扱いというか、≪望月衆もちづきしゅう≫のことに限らず、都市伝説がまことしやかに都市伝説として語られるように仕向けるのも、彼らの得意とするものだ。

 きっとなってくれるよーなどと呑気に言うセリシアだが、本当に言いたいことはこれからだったようだ。

「でさ、やっぱり普段目立っちゃまずいでしょ? まずサラの色が隠せるように、普段着買いに行こうよー!」

「俺は忙しい」

「じゃあお小遣い!」

「……わぁったよ」

「やったーあ」

 心躍らせるセリシアだったが、ウィルに釘を刺された。

「……無駄に菓子とか買いまくってくるなよ?」

「わかってますよーだ!」

 セリシアはふくれっ面になった。

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