第22話 妨害される蜂起
これはサラやエルフの青年が王都に到着したその日の、朝のできごとだ。
「ウィルさん! 民衆が……!!」
「来たか」
ウィルは緊張した面持ちで腰を上げる。そして大きくこう言った。
「ここが勝負だ! みんなを、止めに行く!」
「「おぉっ!」」
威勢良く返事をすると、その場に居た全員"抜け穴"を目指してキビキビと動き始めた。
……そう、地精の墓標からは普通に行けば、地上に出るためには二時間以上の時間がかかる。しかし、それでは対応できたものではない。発見される危険を避けるため日常的には絶対に使わないが、至る所に直上の街のどこかに通じる"抜け穴"があるのだった。
国中から集まったと思われる民衆は、声を揃えて大声で訴えながら王城に向かっていた。しかし突然横の小路から飛び出してきた仮面をつけた制服の集団を目にし、皆足を止めて素早く引き返し始める。
「クソやっぱ出やがったかよ!!」
「引け! みんな引くんだ!」
「ありゃあ、近衛隊の制服だろ?!」
「仮面なんてつけやがってあいつらが黒幕か!?」
「絶対に諦めねぇ! 絶対に国王様をお救いするんだ!!」
「この国をもとに戻せってんだ!! 今度はただじゃおかない!!」
ほとんどが農具や工具を振りかざしていた、あまりにも力ない集団である。意思表示として捨て
『追ってくれ』
『『了解』』
制服の集団の後ろに身を潜めていた私服の四人は、気付かれないように、ばらばらに逃げる一揆勢のあとをつけた。
そして、さぁ、とウィルは皆を促す。
「おそらく時間はない。急いで戻るぞ。俺たちも準備だ」
「「はい」」
皆威勢良く返事をすると、バラバラに別れ疾風のように王城の裏山へと駆けた。
別れた理由は後をつけられたり何かに勘付かれたりしないため。用心に越したことは無い。
息を殺して、冷たい岩肌にその身を貼り付ける。≪
「軍とか近衛とかが出てきたら即逃げる、って決めてはいたけど……城に近づけもしなかったな」
集っている中には、冒険者養成所の教授たちの姿もある──シリウスが聞いたという『用事』とは、こういうことだったのか。
『……アレンさん、エリィ、リーザ…………見つけた。ここだ』
ヤトは≪ネットワーク≫を通してマッピングした情報を流す。
『ここにいるので多分、主な蜂起者全員、だと思う』
苦渋の色濃い会話をしているのはおよそ三十名程度と気配で察する。消せる人間が居たとしたらもっと増えるだろう。
「……まぁ、いいさ。今はまだ戦闘状態に持ち込むわけに行かないんだ。ただ潰されるだけになってしまう……きっと行進を見たやつが噂を流したりして、どんどん人が集まってくれるはずだ。そしたらきっと戦術を知ってるヤツらが今よりもっと増える」
話の内容からするに、彼らの大部分が戦場に身を置いたことのない者たちのようである。
(……ウィルさんの言ってた通りだな。やはり戦力を欲しがってる)
彼がそれを確信したその時だった。
「──そのまま両手を挙げてこちらを向け」
岩陰から集団を盗み見ていた彼の背後に、固いものが押し当てられたかと思うと、低い声がそう告げる。ヤトは大人しくそれに従った。
「……おま……ヤト!?」
ヤトの顔を見た者たちのうち一人の男が、驚愕の表情で思わず大声を上げる。
その声に、場の全員が思わず動きを止め視線を向けた。
「……どうした、カイ?」
その場の中心人物と思わしき男が、鋭い目で問いかける。
「いや……こいつが岩壁に貼りついて覗き見てるみたいだったので、クィールが脅してみたら……王室近衛兵団にいる、俺の幼馴染でした……」
「何!! 近衛だと!!」
「さっき妨害してきたやつらじゃねーか!」
「待ってください!!」
色めき立つ集団に、ヤトは必死で声を張り上げた。複数人で正面から声をかける予定が狂いはしたが、民衆に情報を全部渡せという指示を全力で遂行する。
「近衛といっても皆が皆、上に洗脳されてる訳じゃないんです!!」
「……お前、斥候だろう!」
「信じられるものか!」
「殺せ! 生きて帰せばこっちの命がねぇ!」
皆口々に罵声を浴びせながらヤトに詰め寄り、今にも掴みかからんばかりの勢いだった。
「ちょっと待て」
よく通るその声が、荒れる民衆をピタリと止めた。
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