第20話 到着と帰着

 二人は立派な館の門前で馬を降り、門を開け厩舎きゅうしゃへ馬をつないだ。何かの店の入り口に見えたが、本日休業と書いてある。アイリスはそれを気にした様子もなく扉を開いて中に入った。サラも黙ってそれに従う。入ったそこは待合室のようになっていた。アイリスがそこに誰もいないのを認めてこの家の主の名を叫ぼうとしたその時、突如ふわりと真っ白な肌をしたメイド服の女性が現れた。サラは驚いたが、アイリスは平静である。メイド服の女性は、あちらですと案内するように右奥の扉の方を指した。

 それに従って二人が進み始めると女性はすーっと消えた。サラは手の込んだ演出に、一体なんの店なのかと興味をひかれた。

 扉を開けると、その部屋の中は暗かった。

「おかえり」

 暗闇の奥から聞こえたのはしっかりとした女性の声だった。

 アイリスは「はい」と応えながら部屋の中に入る。サラはやはりそれに続く。二人の後ろで扉は自然に閉まった。

 すると部屋には明かりが灯る。大きな水晶玉や天然石、札や本、色々なものが乗った机があった。ここは、十中八九占いの店だろうとサラは思う。

「……ウィリアム、帰ってきたよ」

 奥にある通路のようなところから、若い女性が静々と歩み出てきた。彼女の表情には、なんだか影がある。その後ろにウィルが続いて出てきた。

「……お前が、あの二人の娘か」

 女性の問いにはアイリスがゆっくり頷いて答えた。

「……初めまして」

 おずおずとサラはお辞儀をする。

「あぁ、よく来たの。わらわはグレン。ただの占いばばぁじゃ」

「……ば……あの……とてもおばあさんには見えないのですが……」

 にこやかにそう自己紹介したグレンに、思わずサラはたじろいでしまう。

「ほほほ、ありがとう。……そろそろもう三人ほどやってくる頃じゃ。お前、それまで少し待っていておくれ」

「は、はい……」

 そう答える以外に何も思いつかない。そこへ、ウィルが声をかけた。

「……大きくなったな」

「は、はい……?」

 今度は完全に語尾が跳ね上がる。

「分からんかぁ……無理もないがな。あかんぼの頃のお前は、俺たち夫婦が世話したこともあるんだ。両親あいつらが好き勝手どっかいっちまう間、置手紙ひとつで頼まれたもんだ。親から聞いてないか? 俺は、ウィリアム=ウィルド。お前の両親の……何だ? 舎弟か?」

「……え、ぇえと……」

 自己紹介しようとしながら、最後は疑問形である。両親の横暴さもあってサラは反応に困った。このかたは使い走りでもさせられていたのかもしれない。

「父さんと母さんからウィルさんのお名前は聞いています。……普通に親友って言ってましたけど……」

「いや、そんな同格ってもんじゃねぇ。俺はいじられるかパシられるかどっちかだった」

「……は、はは」

 やはり、と、サラは複雑な気分になってしまう。

「……まぁお前に文句言うのは筋違いでしかないし、気にしないでくれ」

 ウィルはサラの反応から、両親あのふたりのような破戒的な性格をしていないと判断する。

 ガタン……

 奥で小さな物音がした。

「……何でお前らは揃いも揃って皆タイミングがいいんだよ」

 そんなウィルの小さな小さな呟きは、小さすぎて誰にも届かない。

 千里眼を持つグレンだけは、聞こえなくとも知っているのかもしれない。

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