第19話 地下迷宮への誘い

 昼過ぎ。空は雲も疎らに晴れ渡っている。日中では一番温かくなるような時間でも、まだ冬の明けていない今は肌寒い。

 エルフの彼は、森の中を二人に連れられて歩いていた。

「おにーさんの言葉が通じないのは、きっと訛りが強すぎる感じだからだと思うよー。人間の世界標準語に対してあんなにエルフの言葉が近いものだなんて思ってなかったー」

 突然少女がそう話しかけてきた。さきほどは鷹揚な固い口調だったので、砕けた口調と雰囲気に少し面食らう。

「俺の言葉が分かるのか?」

「……うん。ちょっとだけ考えなきゃいけないけど」

 その言葉通り、彼女の科白せりふは少し間を置いて発せられた。

「すーぐこっちの言葉に慣れるじゃないかなー? こっちの言ってること理解はしてるみたいだし」

「……お前ら、何で俺がエルフだと知ってる? それにあそこにいたのは偶然じゃなさそうだ」

「……あぁ、こっちには、千里眼持ってる人がいるから」

「千里眼?」

「……今から会いに行く人ですよ」

 少年の方が口を開いた。こちらはずっと変わらぬ丁寧語……だがそれが反対に鼻持ちならない印象を与える。

「俺をどこへ連れて行く気だ?」

 千里眼持ちなどそうそういるものではないので尋ねる。

「我々の……指南役というのでしょうかね? そういう人に会ってもらいます」

「断ったら?」

「貴方がその辺でのたれ死ぬか叩き殺されるかというだけですから、別に僕は構わないんですが」

「何だと?」

 その横柄さに彼はさすがに気色ばむ。だが少年は彼の反応など気にも留めていない様子でさらりと続ける。

「ばば様が連れて来いとおっしゃったので、連れて行かない訳にはいかないんですよ。当身をしてでも連れて行きます」

「……ケッ」

 彼は小さく舌打ちした。

「まったく、シィには思いやりってもんがないわけ?」

 そうこうしているうちに三人は岸壁に到着した。少女がある一点にコン、と拳を押し付けると、彼女の手は岩壁に吸い込まれた──いや、その一部分だけ四角く凹んでいく。すると、ゴゥ、と鈍い音がし始め、少女より右の方の岩壁が移動していく。

「隠し扉……」

 ぽっかりと開いた道の先は暗くて見通せない。

「ちょっと危険だから、ちゃんと後を着いて来てね」

 振り返りそう告げた少女の仮面から除く金色の瞳の中には、本当に真剣な光があった。

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