第11話 決意と決断と決行

 それから──皇帝が変貌した原因は、調べれば調べるほど分からない、というよりも、そもそもそんなものどこにも無いようにさえしか見えず、≪望月衆もちづきしゅう≫一同は頭を悩ませるばかりだった。

 それでも切実に信じていたくて。皆それほどに国王を愛していたのだけれど。

 ──あれから三か月ほど経っている。

 そろそろ潮時なのかもしれない。

 こうして、例えば本当の王はどこかに監禁されていて、偽者が乱行をしているのではないかとか、そう言った陳腐な期待を持って遅々と蜂起から逃げている間に、一億の国民の中にどんどん被害が拡大していく。

 増税、無理な公共事業、連日の宴、平和同盟破棄、独裁国家などとの新たな同盟、もとの重臣の追放、より私欲に走る人間を、より取立てる……。

 たった三か月程のうちにこの国の性質は正反対の方向へと豹変してしまっていた。

 ウィルは大きく溜め息をついた。

 一体何が起こっている?

 頭の中は未だに整理できない。

 冷静沈着かつ慎重──それが求められる組織だというのに。

 今の自分は明らかに一員失格だ。この≪望月衆もちづきしゅう≫の存在する意味は、取り立ててもらえたときにしっかりと聞かされているというのに。

 けれど────

 が活きるコトは、絶対にありえないと、どこかで楽観していた、ということだろう。

 もう、腹を括らねば。

 そうは思いつつも、今まではそうさせてくれるきっかけに欠乏していた。

 でも今は……。




 言った通りに、指輪が壊れた次の日の昼過ぎ、ウィルはぼんやりと地下通路に現れた。お世辞にも良く眠ったとは言い難い顔をしている。

「……ウィルさん……?」

 思わずエリディアが心配そうに顔を覗き込んできた。

「何だ?」

「何だ、って……大丈夫ですの? 顔色がお悪いですわ」

「そうか……? まぁ、あまり気分がいいとは言えんが、な……」

 ふぅ、と一息つくと、彼はクッションの乗った石製の椅子に腰を下ろした。

 余談ではあるが、この地下の四角い部屋の中にある長方形の広い石製の机や、その周りを囲うようにぽつぽつと点在する背もたれもある石製の椅子は、この部屋の発見時には既にあったものらしい。もちろんクッションは現代のものであるが。

「ぁあ言っておきながらあまり寝なかったんですね。一体何なんですか」

 ラズが詰問すると。

「ぁあって……あぁ、昨日のアレか……ありゃぁ、気にすんな。俺のプライベートだからな……」

「……まぁ、何にしろ、何て顔してんですか」

 納得してはいなさそうだったが、プライベートと言われれば詮索するまでの興味はないらしい。彼はあっさりと話題を転化した。

「…………さっき、通常通り国王に謁見してきたんだが……」

 そう言うウィルの顔が歪む。

「クラフナー公と、アーヴィンズ公と、ビヅー卿。旧財務大臣と、旧総務大臣と旧外務大臣だったな。三大トップだった」

「あぁ……先日追放された方々ですね……」

 ウィルがつらつらと挙げた三人の人物に対し、ラズはそう形容した。

「まさかまた…………?」

 察しのいいシリウスが何かピンときたようで、ぽつりとこぼす。

「ん? お前ら何でココにいる」

 シリウスの声に思わずそちらを向いて、彼の周囲にまだ養成所に通っているはずの若い少年少女までこの場にいることに気付き、ウィルは怪訝な顔をした。

「暫くは自主トレをしていろと言われたらしいですよ。教授に何か急用ができたと聞きましたが」

 シリウス──彼は既に卒業している──が答える。ウィルはふむと頷いた。

「ウィルさん、それよりクラフナー公方が一体どうされたっていうんだ」

 アレンが話の先を催促してくる。

「あ、あぁ……また、だ。暗殺を命じられた」

 そう言うウィルの表情は暗いものだった。その暗さは『暗殺』という行為に対する抵抗感からくるというよりは、そのような命令を国王が下したコトに対する驚愕からくるという方が大きいようである。

「やっぱり……従うものとみなされてたってコトか……?」

 ラズがひとりでぼそぼそと呟いた。

「……では、今まで通りに」

 エリディアがキリっとして言った。

「あぁ。ラズはクラフナー邸の周辺と公のスケジュールを調べてくれ。アレンはアーヴィンズ公、エリディアはビズー卿の。今回は第三班と第四班をメインにして動いてもらう、備えておいてくれ。それから……」

 ウィルはテキパキと指示を出していった。そして最後に。

「では解散! ……あ、第六班はちょっと残ってくれ」

 一番平均年齢の若い班を、彼は呼び止めた。

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