師走
カタカタカタ……という、無機質な音が暗い部屋に響きわたる。
「よし、今回のはいい感じに出来てる気がする……!」
その少女はパソコンの画面に映し出されている作品を見て、嬉しそうに笑った。
師走。街はだんだんと寒くなり、マフラーやコートを着ている人の姿が多くなってきた。
だが、そんな下界の様子はサラス達上界の神には関係ない。
「ほら、サラス様!またお仕事ですよー!」
遠くから聞こえてきたカフカの叫び声に、サラスは泣きそうになる。
「もう!やっと仕事に一区切りついた所だったのに……」
「サラス様ー!どこにおられるのですか!?」
「ほら、サラス。カフカが呼んでいますよ」
サラスと共にお茶を飲んでいたウズメはふわりと笑った。
「久しぶりにウズメ様とゆっくりお話ししていたのに……」
「話ならまたいつでも出来ますよ。ほら、お行きなさい」
ウズメの声に押し出され、サラスは渋々自分の部屋に戻った。
そして、大きなため息が口から漏れる。
「すごい量……」
「なんですか、その顔は。仕事を任された最初の頃はあんなにイキイキとしてらっしゃったのに」
「あの頃とはまた違うの!仕事に慣れてきて、それを片端から片付ける作業を繰り返していると……」
思わず弱音を吐くサラスを、カフカがじっとりした目で見てくる。
「お言葉ですがサラス様?仕事に、『慣れた』なんていう事があるのですか?」
「うっ!それは……」
「カフカはウズメ様にお仕えしてもう何百年となりますが、これまで一度もウズメ様のお口からは、『慣れた』なんていう言葉は聞いた事がございません」
「ううっ!」
カフカの言葉がまるで大きな石となって、サラスに積み上がっていくように感じる。
「さ!お仕事を!」
「はい……分かりました……」
結局、サラスはカフカに促されて席に着いた。
「それでは、あとは宜しくお願いしますね!」
それだけ言い残すと、カフカも忙しそうに部屋を出て行く。
その背中を眺めた後、サラスは大きく伸びをして目の前に広がる書類を見つめた。
「……多いな……」
もう一度大きなため息をつくと、サラスはバチン!と頬を両手で叩いた。
「こうしてても仕方ない!もう、腹を括ろう!」
……サラスはここ何日も、この言葉を叫んでは仕事をしている。
サラスは一番上に載っている書類を手に取った。
数時間後。あれだけ積み上がっていた書類の山を片付けたサラスは部屋を出た。
「ううう……疲れた……」
フラフラとしながら、ふと大きな窓の外を眺める。
「サラス。そこで何をしているのですか?」
振り向くと、ウズメが立っていた。
「ちょっと休憩です」
苦笑すると、ウズメも「そうですか」と言いながら隣へ来た。
「サラスを見ていると、まるで若かりし頃の自分を見ているようですね」
「ウズメ様も、私みたいな時期があったんですか?」
「ええもちろん。仕事がこんなに大変だなんて思わなくて、逃げ出したいと思った時もありましたよ」
今の私だ……!とサラスの顔がぱあっと明るくなる。
「そういう時、ウズメ様はどうしてたんですか?」
質問すると、ウズメはうーんと少し考えてから答えた。
「私は決まって、下界に行っていました」
「下界ですか?」
「そう。願いを叶える仕事を、その日だけはお休みするんです。何もしないで、ただフラフラと下界を歩いてみる。良い気分転換になりますよ」
「そうなんですか?」
「サラス、あなたも今日は下界へ行ってみてはどうですか?少しだけ、もう仕事をしてしまいましたがあとは私がやっておきます」
「良いんですか!?」
ウズメは頷くとサラスに背を向けた。
「その代わり、暗くなる前に帰ってきなさい。カフカが、今日は腕によりをかけて料理を作ると言っていましたから」
「分かりました!行ってきます!」
サラスは勢いよく一礼すると、外に走り出た。
その様子を見て、ウズメはうっすらと微笑む。
「変わりませんね、あの子は」
呟くと、愛娘より何倍もの量がある書類が積み上げられている仕事場に入っていった。
「久しぶりに……ウズメ様のお社に来た……!」
何の用事もなく下界に来たのは初めてだし、ウズメの社にも来たのは久々だ。
ウズメはウキウキとしながらお社を出ると、周辺を歩き始めた。
「うわ!すっごく綺麗!!」
和菓子屋のショーケースを覗いてみたり、最近の若い女の子が着るらしい服を見てみたりと、まさに人間の女の子がとるような行動をしながらサラスは歩き回った。
「なんだか、すっごく楽しい!」
次はどこへ行こうかな?とキョロキョロしていると、カフェでノートパソコンを構っている女子を見つけた。
興味本位で、チラリと中をのぞきこんでみる。びっしりと文字が打たれていて、内容はどうやら小説のようだ。
「うーん……この言葉じゃ、あんまり伝わらないかなぁ……」
そう言って打っては消し、打っては消しを繰り返している。
唸っていた女子の目の前に、別の女子が突然座った。
「アキ!」
「……カナ」
アキ、と呼ばれたその少女は顔を明るくさせると、パソコンを閉じた。
「小説?」
相手の女子は店員にカフェオレとコーヒーを頼むと、パソコンを指差してそう言った。
「うん、そう」
「見せて見せて!」
「えー、まだ出来てないし……」
「またそんな事言って……アキの作る小説、カナすっごく好きなの!前の作品だって、夢中になってすぐに読んじゃったし!」
「ほんと?……カナだけだよ。うちが作った、こんな趣味丸出しの小説読んで興奮しながら感想言ってくれるの」
アキが頬杖をついてそういった後、店員が飲み物を運んできた。
「はい、これアキの」
受け取ったカフェオレを飲みながら、カナがコーヒーを差し出す。
「アキはコーヒー、でしょ?」
「ありがと」
湯気が立ち上るコーヒーを軽く冷ましてから、アキはそれを一口飲んだ。
「……美味しい」
「だよね!ここのカフェ、とにかく美味しいんだよ!来てよかったでしょ?」
「うん。1人ででも来たいかも。雰囲気とか、うちも好きな感じ」
笑いあうと、カナが再びパソコンを指差した。
「それで?今度の小説もまたコンクールか何か?」
「うん。文芸部で出品しようって言ってるコンクールで、ファンタジーなんだけどね。ちょっと煮詰まってて……」
「そうなの?」
「うん」
「でもこのコンクールで最優秀賞とったら、何かすごいんだよね?」
「そう。賞金ももらえるし、書籍化されるんだ。……もし最優秀賞もらえたら、うちが小説家として生きていける大きな一歩になるかもしれない」
「そっかぁ。……見たいなぁ」
「何が?」
「アキがサイン会開いてる所。アキが出した本をカナが一番に買って、カナが一番にサインしてもらうの」
「そんな事現実に起こらないよ。作家として食べていける人なんてほんの一握りだし……」
「そんなこと、やってみなくちゃ分かんないじゃん!」
「そうかな」
「そうだよ!……アキは、もっと自分に自信持っていいと思うよ?」
カナがそう言うと、アキは照れたように笑って「ありがと」と言った。
「カナこそ、絵の方はどんな感じなの?」
「うーん……」
カナはバッグからスケッチブックを取り出すと、パラパラと開いた。
「美術部では今はこんな感じの絵を描いてる。でも、全然ダメで……」
「え!?何言ってるの!?カナこそ、相変わらず上手なのに!」
アキの言葉にサラスは大きく頷いた。カナのスケッチブックには動物やスイーツをモチーフにした可愛らしい絵が描かれていて、黒鉛筆しか使っていないのに色がついて見えるようだ。
「いや、全然だよ!他の子はコンクールに出品したりしてるんだけど、私は出せるようなクオリティのものじゃないし……」
「カナこそ自分に自信持てばいいのに。私、今まで見た漫画家さんよりもカナの絵が一番好きなのに」
その風景を眺めていてサラスはふと思った。
カナがアキを褒めても、アキがカナを褒めても、彼女達の中には自信なんて現れない。あるのは、漠然とした将来への不安だけ。
「お互いの事、本当に心の底から尊敬してるのに……」
サラスは少し寂しい気持ちになった。
「あ!それ、『月村 光司』さんの新作?」
カナが指差したのはアキのバッグから覗く一冊の本だった。タイトルと、『月村 光司』という名前が見てとれた。
「うんそう!もうすっごく面白くて!カナ、もうこれ読んだ?」
「カナ、月村さんの本ってあんまり読んだことないんだよね。どんな感じだった?」
「月村先生の真骨頂って感じの作品だった!あの、ふいに人間の核の部分をついてくるような発言とか、『分かる分かる!』って頷いちゃう感じの表現とか!うちも、月村先生みたいになりたいなぁ……」
「アキ、ホント月村さん好きだよねー。いつから好きなんだっけ?」
「中2から。本が映画化されてから気になってて、一度は読みたいと思ってたんだけど、学校の図書室に新刊で入ってきてから常に誰かに借りられててね。やっと手に取れたのは、だいぶ遅くなってからだったの」
そう語るアキの目がキラキラと輝く。
「あの時の感動は本当に、未だに忘れられないの。正に、雷が自分に落ちてきたような感覚だった。月村先生の表現とか登場人物達の発言とか、『うちの事言ってる』って思ったの。『月村先生は、ちゃんとうちの事を理解してくれてる』って。あれ以来、月村先生を超えるような小説家には出会ってないんだ。というより、これから先もそんな小説家には巡り会えないと思う」
「……いつも思うんだけどさ」
「うん?」
「アキがそう語ってるの、カナはすごく羨ましいと思うんだよね」
カナがもう冷めてしまったカフェオレをぐいっと飲む。
「心底好きな小説家とか、尊敬する人とかに出会えるのってすごい事じゃない?実際カナはそんな人にはまだ出会ってないし、人生の中でそんな人に出会える事ってものすごい確率でしょ?だから、カナはアキが羨ましい」
へへっと笑うカナが、パラパラと本を捲る。
「カナもこれ、買ってみようかなー。アキがどんな世界に惚れてるのか、カナも知りたい」
「まぁ、うちが好きな人だからってカナにもハマるとは限らないんだけどね。そりゃあもちろん、うちが好きな小説家ならカナにも好きになって欲しいけど」
「まあ確かに。好きな物が共有できるって、すごく嬉しいもんね」
「うん。……ねぇカナ、文房具買いに行かない?」
ふいに、アキがそう言った。
「文房具?どうして」
「ちょっと買いたい物があるの。カナも、この前色鉛筆か何か買いたいって言ってなかったっけ?」
「あ!そうそう!もうだいぶ無くなっちゃって……じゃ、行こ!」
カナは立ち上がると、バッグを持ってスタスタと外へ出て行く。アキは今度こそパソコンを閉じると、その後を追っていった。
「私も、ついて行ってみようかな……」
ただ会話を聞いているだけだけど、高校生の2人の会話は聞いていて飽きなかった。
「ねぇカナ、色鉛筆こっちだよ」
「ホントだ!すっごいいっぱいあるー!」
やって来た文房具店は、1階から3階まである大きな店だった。色鉛筆と一口に言っても、右から左までずらりと並んでいる。
「これと、これと……あとこれも欲しくて……」
カナはピンク系の色を中心に選んでいるようだが、ピンクだけでも様々な色がある。サラスは違いが分からずにぽかんとしていたが、アキもアキでよく分かっていないようだ。
「ねぇカナ。色鉛筆買う時って何を基準に買ってるの?うちには全部同じに見えるんだけど……」
「何言ってるの!全然違うよ!?」
そう言って2つの色鉛筆のセットを手に取ると、カナは力説し始めた。
「例えば、こっちのセットは暗くて深めの色が多いのが特徴なの。だから、林檎とか鮮やかなものをこのセットで描いた時には全体的には深めに仕上がるんだ。一方でこっちのセットは、芯が硬めだから単色で使うには少し不向きかも。だから、細かい部分を描く時にはこっちのセットが向いてるかな?でも混色で使うととても綺麗だし、グラデーションもすごくなめらかに仕上がるんだよ」
「そうなの?」
「そうなの!」
色鉛筆の違いをイキイキと語る彼女は、この時間が心底楽しそうだった。
結局、色鉛筆を数本だけ買って店を出る。
「アキ、欲しいものがあったんじゃなかったの?」
「んー?やっぱりいいやって思ってさ」
「ふーん、そうなんだ」
「それよりさ、そろそろお腹空いてきたよねー」
「確かに。じゃあ、適当にどこかファミレスでも寄る?」
「そうしよっか!」
アキとカナは2人連れ立って、丁度近くにあったファミレスへと入った。2人共注文には時間をかけない性格のようで、席について手早く注文を済ませると、話題はまた本の話になった。
「ねぇ、他にオススメの本とか無いの?」
「うーん……最近は本当忙しくて、本読む時間が全然ないんだよね……」
「そっか。アキ、国立大志望だもんね」
「そ。カナはイラスト系の学校でしょ?」
「もち!早く周りの子に追いつけるくらいの画力が欲しいんだけど」
「十分持ってると思うけどね」
「ホントにそんな事ないんだって!みんな凄いんだから!」
「凄いって、具体的には?」
「なんて言うか……行動力?さっきも話したけど、大手出版社が主催してる大きなコンクールに出品したりとか!」
カナがそう言うと同時に、2人が注文した料理が運ばれてきた。
「美味しそ〜!いただきます!」
「……うん!美味しい」
「美味しい!!」
肉汁溢れるハンバーグを切りながら、「カナも出品したらいいのに」とアキが言う。
カナは「無理無理!」とナイフを振って否定した。
「ナイフ、危ないでしょ。……どうして出品しないの?」
「ごめんごめん。……だってホントにそんな画力はまだ無いし、そもそも間に合わないんだよね」
「何に?」
「コンクールの締切日に」
「え、どうして?描くのが間に合わないの?」
「そう。みんなより何倍も時間かかっちゃうんだよね」
へへっと笑うと、カナはアキのハンバーグを一瞬で奪っていく。
「あ!うちのハンバーグ!」
「隙ありー。……そうだ、アキって会いたい人とかいるの?」
「会いたい人?」
「そう。あ、深く考えなくてもいいよ。ちょっと聞いてみたかっただけだから」
「月村先生」
「うわ、即答」
「だって会ってみたいもん。会ってみたいっていうか、一目でいいから見てみたい」
「そうなの?」
そんな話をしながら食べ終えて、アキが伝票を持って立ち上がった。
「先行ってて」
「じゃあ、カナの分のお金渡しとくね」
「いいよ、ここはうちが払うから」
「それはダメ!お金の事はキッチリしてたいの!」
「本当に大丈夫だから。……じゃあそのかわり、後で何か奢って。それでチャラでしょ?」
カナはしばらく膨れていたが、やがて頷いた。
支払いを終えてファミレスを出ると、今度はカナがアキの腕を掴んでスタスタと歩き始めた。
「ちょっと、どこ行くの?カナ」
「さっき奢ってくれたお礼しに行くの。すぐに返さなきゃ、カナの気が済まない
から!」
カナはオシャレなカフェに入って席につくと、メニュー表を開いた。
「何食べたい?」
「うーん、そうだな……」
「何でもいいよー」
「じゃあ……コーヒー」
「それ飲んだばっかじゃん」
「好きなの。いいでしょ?」
「他には?」
「うちのばっかり聞いてないで、カナはどうするの?」
「カナはね、イチゴパフェとカフェオレとショートケーキと……」
「え!?そんなに食べるの!?」
「だって甘いもの大好きだもーん」
「じゃ、じゃあうちもパフェ食べる!」
注文を済ませ、また女子高生達の賑やかな会話が始まる。
「ね、知ってる?」
「何が?」
「カナ達の学校、○○君と△△ちゃんって付き合ってるらしいよ」
「え!そうなの?」
「うん」
「あー、でも最近は異様に仲良いなって思ってた」
「でしょ?」
運ばれてきたパフェを食べながら、女の子らしく恋の話に花を咲かせる。
サラスはそんな会話を微笑ましく思いながら、どんどん無くなっていくパフェをじっと見つめる。
そんな2人の空気が崩れたのは、突然だった。
「……ち、ちょっとアキ!」
「ん?何」
「あ、あれって」
カナが小声で言って、指差す方を見るとアキは目を見開いた。
サラスもそちらを見ると、そこには丸メガネをかけた少しくせっ毛な男性が座っていた。
「……月村、先生……?」
男性はノートパソコンの前でじっと腕を組んで考えこんでいると、いきなりものすごいスピードでキーボードを打つ。かと思えば、ぴたりとその指が止まってまた腕を組んでしまう。
「ほら、やっぱり月村さんだよ!アキ、何ぼーっとしてんの!行くよ!」
「ちょ、ちょっと待って!」
腕を掴んで走ろうとしたカナを、アキが全力で止めた。
「なに!?月村さんに出会えるようなこんなチャンス、二度とないよ!握手くらいしてもらおうよ」
「ダメ!」
「え?」
「ダメなの。今はダメ」
「ダメって……話しかけないってこと?」
カナがそう聞くと、アキはこくりと頷いた。
「どうして?サイン会にでも行かない限り、もう二度と会えないかも知れないのに」
「……ここから見てるだけで十分なの。憧れの人が仕事してるのを見れただけでいい」
そう語るアキを見て、カナは座った。
「……本当にいいの?」
「うん。きっとベストセラーになるであろう次回作を生み出してる所を、邪魔したくないの。邪魔するくらいなら見ていたい」
「でも、あんなに会いたがってたのに」
「『会いたいっていうか、一目でいいから見てみたい』って言ったの、忘れたの?」
「忘れたわけじゃないけどさ」
「……うちね、実は将来がずっと不安で仕方ないんだ。小説家になる夢はもちろん諦めてないけど、売れなかったらどうしようとか、デビュー出来るような機会がなかったらどうしようとか。そんなこと考えちゃうの」
「……」
「だから、小説界の最前線で輝く人を見てみたかったの。見て、勇気をもらいたかった」
「勇気?」
そう、とアキが頷く。
「自分の夢を叶える勇気」
その瞬間、サラスを何かが貫いた。
『夢を叶えたい』と将来を見つめる瞳には、一点の曇りも無かった。
『叶えてあげたい』という思いがサラスの胸を満たしていく。
「……そっか」
しばらく3人で見ていると、月村光司はパソコンを閉じてカフェを出て行った。
それから何十分かカフェに居座り、どちらからともなく席を立つ。
バスで帰るというアキを見送る為に、バス停のベンチに腰掛けてバスを待った。
「あのね、カナ」
「うん?」
「うち、小説家になるっていう夢の他にもう一つ夢があるの」
「え?」
「カナにね、イラスト系の仕事に就いて欲しい」
「……」
「そして、うちの小説の表紙を描いて欲しい」
カナは黙ってアキを見つめた。
「表紙だけじゃないんだよ。扉絵とか挿絵とかも描いて欲しいし、うちがもっと有名になったらうちの小説を漫画化して欲しい」
「アキ……」
「カナとコラボしたいの。それが、うちの夢」
カナは、ゆっくりとアキの肩に頭を預けた。
アキは何も言わないでそのままじっとしている。
「……アキ、ありがと」
ゆったりとした時間を過ごしていると、遠くからやって来たバスが目の前に止まり、ドアが開いた。
アキはバスに乗り込み窓側の席に座ると、カナに手を振った。バスは何の躊躇いもなく前に進んでいく。
小さくなっていくバスを見て、サラスは思った。
「私、この子達の願いを叶えてあげたい。……この子達だけじゃない。みんなの願いを、叶えてあげたい」
そして同時に思う。
「それが出来るようになりたいなら、私が神様になるしかない」
サラスはくるっと向きを変えると、少し涙目になっているカナを残して歩き出した。
「……多分ウズメ様は、私に神であることを自覚させる為に私を下界に下ろしてくれたんだ」
もしそれが本当なら、ウズメの作戦は成功したといえる。サラスの目は、しっかりと前を向いていた。
辺りは夕日に照らされ、暖かい赤に染まっていた。
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