第8話
彼女は、僕の部屋の窓を叩いた。彼女がこの部屋の窓を叩くのは、あるいはもうこれで最後になるのかもしれない。
「私、あと一週間で引っ越しするの」
唐突だった。けれど、あまり驚かなかった。
「そっか。淋しくなるね」
確か、そんなふうに返した。
「私がいないと淋しいの?」
「うん。僕の話をあんなに熱心に聞いてくれるのは君だけだよ」
「そんなふうに言ってくれるのもあなただけなんだよ?」
なんだか意外な返しだった。
「私…ずっとひとりぼっちだったんだ」
彼女は、赤ん坊のころから、両親と距離を感じていたという。愛情表現もなくはなかったが、それは子供への愛というよりは子供を持つ自分たちの愛に近かったらしい。幼い心にも、そんなことがわかるんだなあと変に感心してしまった。
「だから、ここに来ると楽しくて」
彼女は笑った。僕も微笑んだ。
僕が笑ったのも、だいぶ久しぶりな気がした。いろんなことに対する強い後悔の思いが頭に残った。
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