第5話

 少女が帰って行ったあと、やおら怒鳴り声が聞こえた。

「またあの男と喋ったの!」

 えてして母親というものは勘が良い。しかし、あの男本人に対する配慮はゼロに等しい。なにしろ、僕の家の中から聞こえる音量で僕の悪口を言っているのだから。

「あの男に何か吹き込まれたの?」

 少女の声は聞き取れない。泣き声のような声が聞こえないこともない。

「何を吹き込まれたのか、言ってごらんなさい!」

 少女は、泣きじゃくって何も言わなかった。少なくとも、僕にはそう聴こえた。

 子供は、何も知らない代わりに何でも知ることができるのだ。

 パン、という音が鳴った。平手打ちをするときの音だった。

 少女は、黙った。

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