第11話 無限蛇箱―始動

全校スピーチから数日後、また学園長に呼び出された

今日は前とは違って雪風会長と東十郎先輩も同席している

「一つ聞きたい事がある、あの発言は本当か?」

「何を聞きたいかと思ったらそんな事でしたか、あの発言は本当です。俺は野上家当主になりました」

「そうか、潔重の言って通りか。そうなると『あの術式』も使えるのか?」

「あの術式?分かりませんね?」

「君の分からないは分からないって事だろうね。そうだな、君が無意識に使っていた方だよ」

「両方共無意識でしたが、まぁ分かりました。あれは確かに使えます」

それだけを確認するとコード編入申請書と筆記用具を用意する

「前も言ったがファーストになる気はないかな?」

「答えは変わらずです」

「そうか、でも君をこのままセカンドに置いておくのも多くの問題を抱える」

この言葉に反応して東十郎さんが組んでいた腕を解いた

「凱斗くんがかなり暴れた性で最小だと言われていたバススロット問題もバレちゃったみたいだし」

「それは会長の性じゃないですか」

「それだけじゃない、祠堂、いや野神の血筋がセカンドコードにいるっていうのも問題となっている」

「それで考えたのが『ハーフコード』という新コード」

ファーストには及ばないがそれなりの実力があると判断された物が進級できるコード

逆にファーストから落とされるという可能性もあるからさらに差別がなくなることが期待されている

「君にはここに所属してもらう事にして、教師と共に判断して欲しい」

「ここに入れる人達は教師達の選別ですか?つまりコネがあっても入る可能性がある、それを見るのが俺の仕事」

「適任だと思うんだよね、凱斗くんは人の事をよく見てその人に合った改善策が出来るから」

「俺も推薦しておいた、最も本当ならファーストコードの上を作りたかったのだがな」

「東十郎くん、それだと入れる人数が限られますよ」

少なくともここに居る3人は入る事は出来るだろう

「ハーフコードですか、俺以外のメンバーって誰ですか?先輩は居ますか?」

「今の所君一人だ、君が言うのならセカンドから連れてきてもいい」

「セカンドの中で実力を見た事がないので分からないですね、元々それをメリットとして入った自分がいますし」

だがまぁそんな人材がいないという訳じゃない

「ですが、まだ正確な答えは出せませんが一人だけそんな様な素質を兼ね備えた人物がいます」

「野神がそこまで言う奴がまだいたのか」

「まだ確信には至ってないですけど、少なくとも上手く伸ばしていけば良い人材になる奴がね」

「とりあえず保留という事かな?」

「そうですね、今はそうしましょう」

一息入れるためにコーヒーブレイクタイムに入る

「君は本当にイレギュラーですね」

「いきなりなんですか」

「七豪戦の戦いを見たが、君が普通にやっている事で他の人に出来ない事が多過ぎだ」

まずは、普通に術式だ

あの高度で長い術式を普通の術式と変わらない速さで組み上げる程の演算能力

特に術式破壊系は例がないから長くなっているのは当たり前だ

そしてもう一つが―――

「『不和術式』私も使っている所を初めて見たよ」

「不和術式?何ですかそれは?」

「術式に波長があるというのは固有振動の時に説明しましたよね?その波長を崩さすに二つの術式を正確に発動するのは、簡単な物でもなかなか出来るものではない。だが、それが唯一出来るのが野神家が使える不和の術式です」

「相容れない物を一つに纏めてしまう術式だ。それによって一人で何個の術式を一度に一つとして出す事が出来る、西十郎も同じ様な事をやっていたがあれは二重であって一つではない」

つまりは悠は直列で凱斗は並列みたいなものだ、直列な分発動に時間が掛かるが並列では短時間に大きな力を複数出せる

術式破壊では同じく壊すのは一つだが凱斗の場合は破壊できない物を混ぜているから壊す事は不可能だ

「普通の人が出来なかったMMDの二機同時発動が出来たのもこの術式のお陰でもあります」

「固有振動と黒炎を同時に使ったと聞いた時にもしやと思っていたが本当に野神の家の者だとは思わなかった」

「これでこの学校には七術家の内の3人の当主が集まっている事になりますね」

「だからどうという訳じゃないが、まぁ戦力としては十分すぎるな」

そんな時にドアをノックされる

入ってきた人物は保険医の先生で神辺環弧、服装は普段の白衣とは違ってスーツを着ている

「凱斗くん、彼女が誰だか分かるね」

「保険医の先生ですよね、でもどうしてコード変えるのに保険医の許可がいるんですか?」

「いいや、私が聞いているのはだよ」

他の二人の表情からもう知っているのか

「クロワガイストの工作員の一人、正確には保険医として俺の見張り役をさせられている人です」

「ガイストの存在は日本にとっても貴重な戦力なのだから、特に彼は無茶をよくするからこうして私がいるの」

「すみませんね、でも工作員と特別手当と保険医の給料貰っているんだから文句はないでしょう」

「私がそんな現金な人だと思っているの?」

「まぁまぁ二人共落ち着いて、それよりも凱斗くんに話す事があって来たんですよね」

「そう、本部からの正式な依頼よ。まずは君が使った術式の報告、それにキルティーチェの正式な解体作業依頼、その他には技術依頼と専用MMDの制作など―――」

「多い!!技術面の仕事多過ぎだろ、リンツ呼び戻せ!!」

「文句なら龍永さんに言って」

「キルティーチェの一件、確かにあの組織があっさりやられたのは少しおかしいですからね」

「えぇ、この件は龍永さんも一目置いているわ」

国際指名手配されているグループが簡単に崩壊に追い込めた

あのハロウィンって子も充分強かったがあの程度ならいつか挫折していたはずだ

なら、何者かが裏に手を回していたと考えれば説明がつく

「あと最重要の任務が『ウロヴォロスキュ―ブ』の護衛回収よ」

「『無限蛇箱』完成していたんですか」

「えぇ、それも七豪戦の最中にわざと埋もれてね。大きなニュースは、君が起こしたから一般的には知られていない」

「その責任を取れと」

「聞いていいか?その『無限蛇箱』とは何なのだ?」

「俺が作った『半永久的エネルギー術式』あれは一応既に企業用と確定されていますが、それは術者がいて成り立つ物です。しかし術者無しで発動出来る様にした物が『無限蛇箱(ウロヴォロスキューブ)』です」

「つまり、兵器の中にも入れる事が出来るって訳ね」

「作った企業は偶然出来た物だと言っていたから悪い集団ではない。しかしこれがそのやばい奴等の手に渡ってしまうと、かなりまずいですからね」

「特にワイガルも動いているからより厳重に戦力を固めないといけないんです」

「俺以外に誰がやるんですか?」

「黒炎の他にリーダー、後は『イズル』が参加を命じられている」

「イズル、あいつもう大丈夫なのか?」

「君よりも高度な術式が自動発動するから死ぬ事はないよ、君のMMDもある事だし十分に動ける」

イズルは七泉と同じで睡眠症候群に罹っている

だから俺のMMDが無いと自動展開術式が発動した瞬間に眠りに落ちて使い物にならなくなってしまう

「じゃあ学校どうすればいいんですか?普通に考えてこのタイミングで休むのも少しおかしくないですか?」

「そうでもないよ、正式にはこの一条学校とIKUSAコーポレーションが特許を持っているので、キューブはこの場所に持ってこられる。その間は絶対に手出しは出来ない状況になっている」

「もし襲われるとしたらこの場所って事ですか」

「それに、ここには『彼女』がいるし」

その単語だけで凱斗くんは理解したのか少し笑みをこぼした

多分その子が凱斗くんが言っていた素質のある子なのだろう

「じゃあそれまでは普通に生活してていいんですね」

「忘れてんじゃないでしょうね、先に言った物をちゃんとやるのよ」

「はいはい、分かりましたよ」

「では、もうそろそろ授業なので雪風、東十郎もう行きなさい」

「因みに俺はどこに行けば・・・?」

「まだ出来たばかりなので授業も決まってないのでここに居ても構わないですよ」

「生徒会室にいてもいいよ、鍵は持っているよね」

「まぁ時間まで仕事をこなしますよ」

昼休みまで俺は外でガイストの仕事をこなした

生徒会室に行くと先客が約一人、主任の妹で俺等のリーダー

「何で居るんだよ、仕事はどうした?」

「正直な事を言うと全部凱斗に任せちゃった♪」

一気に殺意まで湧いちゃう位の開き直りだ

「大丈夫、凱斗が怒らないで笑って許してくれる事を信じている」

「そう言われると怒る気にならないな、もう終わった事だしいいよ」

「ありがとう、来た理由はキューブの件で詳しい事を説明しに来た」

「環弧さんが説明役だから話す事はないはずだろ?何で来た?」

「そんなの、凱斗に会いに来たに決まっているじゃん!」

しかし凱斗には術式破壊の様に麻里奈のデレは通用しなかった

何か俺が悪いみたいに女子同士て俺をチラチラ見ながら何かを話している

「それでそのイズルくんってどういう子なの?」

「俺等の2個上で学校に行っていれば3年生位の先輩です、本名じゃないですけど本名みたいな物です」

「具体的に言うと数年前まで病気で行けなかったらしいです」

「イズルのデタラメ感は半端ないからな、何を話せばいいのか言葉を選びますね」

「屋上に降り立った時にターゲットが真下にいる時にビル事壊したからね」

「あの時はバザードに感謝したな」

「隠れて様子見だった時とかも囲んだ50人くらい一気に倒したしね」

聞いている限りではとんでもない化物らしい

「それで現在イズルはどこにいるんだ?」

「キューブを守っている、まぁ後3日くらいすれば会えるんじゃないの?」

「ふ~ん、まぁ何も起きなければ良いんだけどな」

「それよりもどうして本家に戻ろうと思ったの?」

「確かに本家に戻るのは少し躊躇ったけど、潔重さんが心配してくれたから・・・あともうそろそろ引退させてあげないと身が持たなそうだったので」

七術家の会合に出なかったのもこの性だと俺は思っていた

所々足を引きずっていて食事もあまり取っていなかった、正直危機感を覚えた

「それで理事長さんは、もしかして・・・」

「いや、俺を騙そうとしていた演技だった。あの人は今でも元気だぞ、じゃなかったら銃持った男を倒せる訳がない」

「あぁ~そうね、でも何か生き生きしだしたね。凱斗」

「そうか?そうかもしれないな、本家に戻るのもいい気分だったし」

「じゃあさ、今度野神本家に連れて行ってくれないかしら?」

「それはまずくないですか?野神家は円従前と同じで極秘術式使いの名家ですからあまり情報漏えいは避けるので」

そのために全員が正体を隠している、その名残がガイストにも影響している

少なくとも極級術式を2個も持っているのだから、戦力的なモノも避けたいだろうし

そう言いながらも銃型MMD『アウサラー・シルバー』をオーバーホールさせる

手袋は作り直したがこれは作ったから一回も部品交換をしていなかった良い機会だ

「ではその技術をくれないかな?」

「これは別にいいですよ、時代が進歩してくれればの話ですがね」

「全く、君には本当に敵わないな、俺の家にも知られなくないものもあるしな。叉條院の家もそうだろう」

「そうだけど・・・」

会長は違う意味もあったようだけどそれが何かまでは分からなかった

分解しているとちょうど壊れている部品が多く出てきた

七豪戦の時にかなり酷使していたみたいでまた組み直すにしてもヒビが深く入りすぎている

「麻里奈、今日雨宮主任居るか?」

「今日イズル君と共にキューブの所に行っているからいないよ」

「そうか、じゃあ交換は無理か。帰ってくるまで銃は無理か・・・」

「普通にIKUSAに行けばいいじゃない」

「いや、これ部品達もうないからどう考えても徹夜になるから許可取らないと」

「大丈夫、私の家があるじゃない?私は別に泊まってもらっていいと思っているよ」

「お前二人で生活していると不純とか言うじゃねぇか、自分で言ったことを覆すのか?」

難しい話だ

ここで肯定してしまったら私の立ち位置が崩れて、否定しちゃったら自分の信用を失う

それを凱斗は分かりきって言っている

「まぁ冗談だ、IKUSAに機材の準備をお願いしておいてくれ」

「うん、じゃあこっちも準備しておく」

先に帰らすとすぐに準備を済ませる

「凱斗、今日は帰らないのか」

「冷蔵庫の中に夕御飯が入っているからそれを食べておいてくれ」

「了解した、明日には帰ってくる?」

「それまでには終わらせるから、それにもうすぐ八宵さんが帰ってくるだろ?」

「それじゃあ本家に戻るのか?」

「それは考え中です」

「一応当主が別の所で生活しているっていうのもおかしい話だし、私は戻った方が良いと思うわよ」

「だが、それは野神が決める事だから自分の意思を尊重しろ。俺は別にそんな特例があっても良いとは思っている」

「前例は覆すものですから」

「為になりました、考えておきます」

ケースの中に部品と軽留めしておいたMMDを入れる

一旦家に戻って待たせてはいけないと思ってバイクでIKUSAまで急いだ

『プロフェッサー、準備は整っています』

「そうですか、仕事を頼んでしまって済みません」

白衣に着替えて部品の材料を用意してもらっていたから早く終わりそうだ

俺が作っている時は気を散らせない為か誰も入る事はなかった

集中していて気が付かなかったが完成するまでにかなりの時間を有していた

作業室のドアを開けて見ると既に10時を回っていて、研究員の数名は帰っていた

待っていたのか部屋の前に置いてある椅子に麻里奈が横になっている

「4時間も入っていたのか、汗もすげぇかいてるし」

「終わったの?じゃあ帰ろうか」

「まぁ組立てとテスト作業もあったがそれは明日でいいか」

お腹も空いてそうだったから後回しだ

気を効かせてくれた人に雨宮さんの家に運んでもらった

リビングに通されると予想通り、雨宮さんがいたであろう形跡が残っている

散乱された研究書、多くの部品が地面に転がり白衣が脱ぎ捨てられている

一通りの部品用具を下ろすとすぐにエプロンを付ける

「何食べたい?どうせ出前取ろうと思っていたんだろ?」

「何故それを・・・」

「お前は料理が出来ないって雨宮さんに何回か聞かされていたから」

「バカ兄貴が、無駄口が多いな」

「それで何がいい?作れるものなら何でも作ってやれるぞ」

「じゃあオムライスで」

「了解したよ、リーダーさん」

俺が作り終える頃にはテーブルの上は綺麗になっていた

「おいしい、いつでも主夫になれるじゃん」

「俺将来主夫になるのか」

「結婚する相手によるよ、私は主夫にしないけどね」

「まずお前は料理が出来ないとな、嫁にもらってくれる奴もいないだろう」

「ごもっともです・・・」

夕ご飯を食べ終わるとさっきの様に資料を一面に広げる

その全てが今回の無限蛇箱の資料である

「このキューブがあれば術者無しでエネルギー供給ができるのか」

「構造は分かる?」

「詳しい事はよく調べてみないと分からないが、普通の奴は陰と陽を媒介にして作り出すがこれはその媒介自体を新しい物へと繰り返す事によって無限に作り出しているのだろう」

「つまり作り出した物を変換して陰と陽を自ら作り出しているって事?」

「そういう事だろうな、俺が使っているものは両手でずっと陰と陽を流し続けて作り出しているけどこれなら俺等よりも少ない力で大きい力を作り出す事が可能となっている」

「しかも起動したら無限に作り出す事が出来る、凱斗はこれを壊せる?」

「難しいな、俺が壊せるのは術式だけでもうこれは機能に変わっている可能性が高い。さらに壊した時の破損範囲が予想出来ないから壊すのはあまりオススメできない」

「最悪の場合は、どうすればいいのかしら」

「その為にあいつをメンバーに入れたんじゃないのか?」

「彼の術式は確かに強いけどその分、反動は大きいよ」

「本格的に睡眠症候群の治療方法を作らないといけないのか」

「それが七泉ちゃんの為にもなるしね」

「そうしたら長瀬の家にいる意味もなくなるな、そして俺は本家に戻る事になるな」

「その時はいつでも私の家に遊びに来てもいいよ」

「はいはい、でも今はこの事を考えないと」

「余念がないね、凱斗は」

最悪の場合を想定して作戦会議は夜遅くまで続いた

「いや~、それにしても暇だね」

両手いっぱいに食べ物を抱えながらそれを食べている

Yシャツに深緑のジャンパーを着て右目には大きな泣きボクロがついている

キューブを見ながら雨宮さんの入れたココアを飲んでいる

「『無限蛇箱』これがあれば多分凱斗くんと僕の力を併合すればあの病気も治せるかもしれないね」

「それは本当?それならかなり多くの人を助けられる」

「まぁ可能性の話ですからね、だけど何も影響がないという事は起きないだろうし」

あの病気、それは僕もなっているミスイム・シンドローム、通称睡眠症候群

大きな術式を使う事によって人よりも大きく疲れが溜まる性質がある

対応としては凱斗くんがしている様にMMDによる補助の強化しかない

だが、術式を使う疲労感を何とかすればこの症状はなくなる

つまり疲労感が溜まらない様に魔力を生産しキープさせ続ければいい

それを可能に出来る可能性があるのがこれだ

「じゃあ凱斗くんに連絡しよう」

「少なくとも凱斗くんならこういう想定も既に至っていると思いますよ、そして最悪の場合もね」

最悪な場合、これは破壊しなくてはいけなくなる

しかしその破壊の時に生じる威力は計り知れない

だから破壊せずに壊す、それしかない

「それにしてもこう暇だと眠っちゃいそうだよ」

「君は七泉ちゃんと同じでミスイム・シンドロームだったね」

「凱斗くんがいなかったら戦力としていなかったからね」

十字架のネックレス、人によって色は様々だがこれがガイストの印でもある

そしてもう一つ首にヘットホンを付けている、これが僕のMMDだ

「作っているのは凱斗くんだけどハードは僕達が作ったものだけどね」

「それは感謝していますよ、一個食べます」

「遠慮しておく、それにしても麻里奈は生き延びているかな?やっぱり電話しようか」

「僕じゃないんだから一食抜いたくらいじゃあ死なないでしょう」

「君、一緒でも抜いたら死んじゃうの・・・」

「冗談ですよ、僕の問題は睡眠症候群だけです」

しかし心配なのは変わらず電話をかける

『もしもし?何?』

「夕御飯どうした?」

『凱斗くんが作りにきてくれたんだよ』

「えっ?もうそんな関係になったの?」

『紛らわしいことを言うな、MMDの部品を作りに行ったついでですよ。部品と機材勝手に借りました』

「いいよ、自由に使ってよ」

『イズルいます?』

「ここにいるよ~」

『話は聞いていますね、俺等がやることはキューブの護衛、だが最悪の場合は破壊をしなくてはいけないです』

「それは分かっているよ、そして君が言いたいこともね。でもそれをやっていいの?」

『リーダー、やっていいの?』

『聞かされてないから許可は出来ないよ、でも二人を信じる!』 

『じゃあお願いします、まぁ一人分は賄える様になりますし、いいデータが得られる確率も高い』

「了解したよ、リーダーちゃん黒炎くん」

『それと妹に会わなくていいの?』

少し表情を暗ませたが落ち込んでいる訳じゃない

「僕は忌み子をして家から出されたからね、それに彼女だって僕の事を知らない訳だし」

『ですが・・・』

「いいんだよ、凱斗くん。それに僕には仲間がいる」

『そうですか、イズルがそういうのなら』

「でも、僕も覚悟を決めないとね」

『頑張ってください、明後日には合流するので』

「分かっているよ、君も麻里奈ちゃんもそれまでに準備しておいてね」

「妹に手出すんじゃないぞ」

「俺がそんな人に見えます?」

確かにと思って黙り込んでしまう、これは僕にはフォローできない

電話が切れると楽しそうに笑っていた

「それにしても、君の名前って誰か知っているの?」

「少なくともあの二人とシオンくんは知っていますよ、始めの3人だし登録の時に苗字と共にね」

「黒い炎を使うから『黒炎』隕石という意味の『バザード』そして君が放出の術式を使うから『イズル(出流)』」

「貴方の妹が付けてくれたんですよ。里親以外に名前も曖昧で、なかった様な僕に初めて付けてくれた」

「君の本名聞いていいかな?」

「今の名前だと九頭龍イズル、本名というか名乗るはずだった名前は―――」

「そうか、じゃあ彼女が・・・」

「でも今の名前は結構気に入っているんですよ」

施設病院で寝たきりだった僕を見つけて、MMDを作ってくれてちゃんと居場所も用意してくれた

僕の前には凱斗くんや麻里奈ちゃん、そしてシオンくんが居てくれた

彼等は年下だけど僕に多くの物をくれた、その恩返しがしたくてクロワガイストに在籍している

だから僕は、やれる事はやるつもりだ。もし死ぬことになってもね 

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