第10話 七豪戦―ファイナルデイズ
大決戦の次の日、今日まで仕事があるので急いで着替えて本部に向かう
力と傷の影響で右目がまだボヤけているし、手は素早く動かせないが日常生活に支障が無いまでは回復できた
俺が本部に行くと役員や他のメンバーが俺の事を見て、何かを話をしている。
本部だけじゃなく、日本全土でセカンドながらあの桐原西十郎を倒した人として、かなり噂の中心になっている
そして会長の口から漏らされたであろう野神家血縁者と言う事も全員に知られている
「桜坂先輩、何か手伝えることありますか?」
「え!?いや、君はもう十分頑張ったからもう何も頑張らなくていいよ。休みたい時に休んで」
「そういう訳には・・・」
技術者としても選手としても俺の存在は大きかった様だ
優越感でセカンドを下に見ていたがその下の奴に自分等でも勝てない完全無欠と言われていた西十郎を倒された
ガイストや名家育ちの事を差し引いても、その結果は今までの肩書きを覆すには十分すぎた
セカンドの中にも凄い奴はいる、その結果だけで両方共更に前に進む事が出来る
「最終日なので選手達には全力を出してもらいたいですから」
「だけど、まだ昨日の後遺症が残っているでしょ?」
「これ(右目)は大丈夫ですよ、腕も動きますし支障はないので問題ないです」
何を言って良いのか分からなくなったのか少し黙ってしまった
そんな時に最高責任者である雪風会長が帰ってくる
「確かに気持ちは分かるけど、先輩達の顔を立てるのも仕事って言っていたのは君よ」
「ですけど、今日の担当は俺だったので先輩方にはしなくていい仕事をさせている状況ですよ」
「そうだけど、君は一人でMMDの調整や設定をやっていて頼らなかっただけで本当は皆、君の事を支えたかったんだよ」
その場にいた全員がそう頷き掛けてくれた
「それが今に変わっているだけ。いや、これだけだと不十分過ぎる位だよ」
「それに君の作戦や勝利のおかげで得点は安泰しているからね、私達はヘマを起こさない様にするだけだから簡単だよ」
「だから今日は何も気にしないでしっかり休みなさい」
あの戦いでは誰も補助出来なかったからこういう時に支えたいのは当然だ
もう弱者の地位ではないことが分かりきっている
お言葉に甘えて今日は要件が終わったら休息を取ろう
その為に早く要件を済ませたい、外を歩くと全員が俺の事を見て色んな声をかけている
そんな時に東十郎先輩にばったり会う
怪我も医者の許可がちゃんと出るまで回復しており、リハビリを兼ねて歩いていたらしい
一応、自己再生術式を使うことも視野に入れていたが大丈夫みたいだ
「コーヒーでよかったか?」
「あぁ、紅茶以外なら何でも大丈夫です」
近くのテーブルで正面に座られる
こうして二人だけで話すのは初めてで何か新鮮味を感じる
「西十郎に勝利してお前は一躍有名人になったな」
「まぁ後悔はしてないですよ、黒炎の正体もバレている心配もないことですし」
「それならいい、こっちは西十郎が負けて大いに混乱が出始めた。戦う前に宣言した通りになったな」
西部最強と言われてきた神童西十郎、それが負けたことは家の中でもかなりの騒動だ
「マジですみません!!まさか本当にこんな事になるとは・・・」
「騒いでいる奴等は全く成っていないな、確かに負けたことは驚きではあるだろうが何も得なかったという訳じゃないだろう。それに勝敗によって騒いでいるのはただの完全理想の持ち主だ」
東西混同と言う新しい術式に西十郎自体が大きく変わった
負ける事は悔しい事だが恥ではない
そこでに何を学ぶかによってその負けは勝利に変わる事だってある
「分家が何を言おうとも現当主は俺達なのだから何も文句は言わせないつもりだ、勝利や名誉だけが全てじゃない」
「まぁ俺も名家育ちの長男ですけど、そんな事考えた事はないですね」
「お前の大変なんだな『野神』」
「いつも通り『祠堂』って呼んでくださいよ」
ふと俺の言葉を聞くと表情を変えた、言いたい事は分かっている
「松下家当主として助言しよう―――お前は野神に戻るべきだ」
冗談じゃない、先輩は本気でそう言っている
「現在七術家の中でトップを張っていたのが私達の東西名家だ、だが西十郎が負けた事によってこの均衡は崩れようとしている。あいつに勝ったことはお前が思っている以上に深刻な問題だ」
七術家は東十郎先輩や悠の松下桐原家、雪風会長の叉條院家も入っている日本で7組の魔術法名家
野神家は、ずっと当主を潔重さんがやって来た為に子供などにまだ当主の座を譲っていない
「七術家は日本の中でも頂点にいなくちゃけない存在、それが負けた事の代償は大きいって事ですね」
「お前は実力の通り野神家の血を引いているという事実がある、だが当主もお前自身もそれを隠している。言い方は悪いが七術家の中での戦いならそれだけの資格を持っていたという事でこんな事は起こらなかった筈だ」
「野神の家の問題が多くの人を混乱に陥らせたのか」
「だがそれは『祠堂』お前が決める事だ。さっきも言ったが混乱はなんとかなる、だから責任を感じてとかは思わな―――いや責任は一切取らないのだったな」
嫌味ではなく冗談として受け取っていてもらいたいみたいだ
その方が冗談でも言った事に責任を感じていたから安心する
「俺にとってもメリットは一応ありますしね、考えておきます」
「そうだな祠堂、これだけは言いたかった。あいつに勝ってくれてありがとう」
確かに俺と戦って変わったがあいつが一番影響を受けたのは祠堂だ
あいつもただ浮かれているだけじゃなくなって、ちゃんとした強さを求める様になった
「どういたしまして、それで悠の方は?」
「あいつはまだ安静にしている、術式も強引に使ったから流動が酷かったのだろう」
「それに一回はダイレクト使っていたから俺以上に体に負担がかかっている可能性がありますからね」
「だが、その心配もないだろう。今度からはお前から貰ったMMDを使うらしい」
「一応フィジカルは反映させてますが細かい設定は全部透任せですけど大丈夫ですか?」
それを何とかしてしまうのが専属技術者だ
調整方法は独自だがその方法を何とかすることは簡単だ
「少なくともデバイス2世代分位は進んだらしい」
「そりゃどうも、IKUSAメンバーの技術も入っているからきっと喜びますよ」
「あの戦いは多くの人に多くの物を渡した戦いだった、頑張ったな祠堂」
「ありがとうございます、だけど俺は呼び出しをもらって理事様の所に行かなくちゃいけないんですよ・・・」
「頑張ってこい、今お前を怒る奴なんていないだろうし」
先輩の一言で少しは楽になった
別れると潔重さんの指定された場所にやってくる
門の前にいた警備員に一瞬警戒されるがすぐに俺だと分かり、案内された
大きなホールの中、その中心に一つだけあるテーブルに理事様は座っていた
「やっと来たかね、あまり老人を待たせる物ではないぞ。凱斗よ」
「すみません、松下当主と少しお話をしていたもので」
「松下の家もかなりの名家だったな、関係者だし負けたとなっては少し大変だろうな」
「そう言っていました」
座ると軽く食べれるものを出される
「怪我は大丈夫か?その右目もそれが原因だろ」
「これはもうそろそろ治りきると思うから大丈夫ですよ」
雑談は要らない、そう感じ取ったのかここに呼び出した本題に入る
「凱斗、戻ってくる気はないかね?」
「戻るって、野神家にですか?」
「時哉に聞いた話だと企業と学校名義で出された『半永久的エネルギー術式』あれを作ったのは君らしいな」
そこまで話されているのか
時哉(ときなり)というのは雪風先輩の祖父、つまりは学園長だ。まさか知り合いだとは思わなかった。
でも白巫女の正体は知っていたから素振りはあったな
「それでその功績を野神家の物にしたいと」
「いいや、全く関係ない。と言うよりかは興味がない、その功績があった所で野神家としては何も変わらないからな」
「俺、潔重さんのそういう性格結構好きです」
「ただ単に心配なんだ、お前が」
「心配・・・ですか?」
「これはただ単に私のエゴも入っている、目の前で家族を失って自分だけが生かされた。だけど家族であった私は何もしてやれなかった、せめてもの罪滅ぼしかもしれないがな」
「深く考えないでください、そんな事は一度も思ったことはないですよ」
俺をクロワガイストに入れてくれたのもこの人のおかげだ
それに研究費用も振り込まれていて十分役にたった
それに十分良くしてもらっている
「本家の件は東十郎さんにも言われたので少し考えます、それで一つ質問いいですか?」
「何かね?」
「西十郎との戦いで俺が最後に使った術式の正体って分かりますか?」
最後圧倒的な力を持って倒したがあれがなかったら正直相打ちになっていた
それにあの力は興味がある
「・・・いつかは話そうと思っていた、確か時哉からノートは貰っていたな」
「あれは何ですか?不明用語がずらっと並んでいただけですが」
「まずは質問の答えからだな。凱斗が最後に使ったのは、まだ名前がないが霞が名付けた物だと『光撃術式』でそれは特定の人しか使う事の出来ない『全ての魔法術の根本たる元素術式』だ」
ノートに書かれていたものはこの術式の解剖式、黒炎と同じくコードが長く解明に時間が掛かっている
「つまり元々姉さんの術式だったものがシンクロファクター(使用権利)が俺に移行された」
「その通りだ、それと元素術式を使う者達を我々の間では『特異点』と呼ぶ」
「『達』と言う事は複数居るんですね」
「お前を含めると全員で6人いるという事だけは言える」
「七術家ですか?」
「それなら西十郎くんも使える筈だろう、だが覚醒しない限りないとは言えないな」
「それもそうですね」
「あと、術式は霞の回復や治療魔法、そして逆にお前さんの黒炎も影響しているとも言えるな」
炎を用いて全てを破壊してその後から再生をもたらす術式、完全に一致している
黒炎の破壊に治癒の再生、それがあの術式の正体か
「それとノートに書かれている物だったな、あれは『光撃術式』を解明しようとしたコードだ。本物を持っている凱斗には必要ない物だ」
しかし必要だった人がいた事は分かる、その人が使う術式には疑似特異点術式が組み込まれているのだから
その人物は俺のよく知る人で彼はその術式だけで頂点になった程だ
「では、こちらからも質問をさせてもらおう」
「答えられる事であれば」
「桐原西十郎、彼は強かったか?」
潔重さんの質問に思わず口噤んでしまう、だが正直に思った事を述べるしかない
「・・・正直な事を言ってしまえばまだまだ甘い所が多すぎる人でした。東十郎さんよりも使用術式レベルは高いですが、戦闘スキルに関しては勝利し続けていた性かスカスカでした」
「お前さんが『得意術式』を使わなかったのもその性か」
「それは否定できませんね。俺がハンデ無しで『半永久』や『自己再生』を使ってしまえば3倍位の速さで試合を終わらせられましたでしょうし」
「本気は出さなかったんだな」
「出していたら七術家だけの問題では済まされなくなりますからね」
敢えていい勝負な様に戦っていれば接戦の中での勝利でバランスが崩れなくて済む
それにあの時は祠堂として戦っていたのだから、その位がちょうど良かった
「本来の力にもハンデを抱えているのに、そこまで言えるのか」
「この状態でも一回世界を救っている身ですから」
「まぁお前さんにはあまり術式を使わせなかったから心配していたが、これからは野神家の術式も取り入れてもらいたい」
昔、俺は術式を習わせてもらえなかった使わせてくれなかった期間が在った
少しでも使えば潔重さんに酷く叱られた思い出がある
だが俺以外の家族が亡くなり、俺が姉の術式を使えると分かった途端そんな事を言わなくなった
姉の術式に何か意味がある訳ではなく、俺自身に問題が在った。それを配慮して使わせなかったのを俺は後で知った
「他に聞いたいことはあるかな?」
「いえ、もう大丈夫です。それじゃあ競技が始まるのでそろそろ行きます」
「無理をするんじゃないぞ、年寄りの言うことは聞いた方がいいぞ」
「分かりました、気を付けます」
席を立つとお見送りなのか着いて来てくれる
俺も覚悟を決めて話しだした
「潔重さん、本家の話ですが―――」
俺の話に潔重さんも少し笑って『そうか・・・』と呟いた
◇
『それでは!少しハプニングはありましたが七豪戦終了を祝して、乾杯!!』
カンパ~イと言って一斉に学校関係なく騒ぎ出す
結局総合優勝は一条高校で収め、一躍学校の名前が売れたことだろう
そして俺は絶賛逃げられる状況じゃなくなっている
『いや、凄かったよ。あの西十郎様をあそこまで追い詰めて倒しちゃうなんて』
『エンジニアとしても大いに役に立っていたって聞いたよ』
『それに士燮くんが使った『固有振動術式』も凱斗くんが作ったんでしょ』
『私のMMDも調整してもらいたいな』
『それなら私もして欲しい』
男ならこの状況を良いなと思ってしまうくらい、キャッキャされている
しかし俺以外の男子はこの光景を妬んでいるのか誰一人助けてくれない
だけど助けてくれたのが約2人
「凱斗、今いいか?それともまだ話していたいか?」
「西十郎と話すけどいいかな?」
『二人とも仲が良いのね』
『戦いの後に芽生えた友情、青春だね』
何かよく分からない言葉を言いながら女子達が去っていく
「陸の孤島状態から救出してくれてありがとう、助かった」
「そんな大袈裟な、君はもっと自信を持った方がいいよ」
「いや、自信持って何かをやると目立つから」
「そういえば凱斗は目立つ事が嫌いだったな」
「まぁな、既に色々とやらかしてから言う事じゃないが凄い事はするものじゃないな」
今となっては少し後悔している
当の本人もこんな奴に負けたのかと思うと笑うしかない様だ
本家は騒動になっているが東十郎さんが何とかしてくれたみたいだ。悠も負けて色んなものを得たから先に進める
「透、悠のMMD調整できるか?なにか改善とか有ったら言ってな」
「改善点か、少しソフト面に偏っている気がしたけど君が作ったのならそれも頷ける。それは自分で直す事が出来るから、特にないですかね」
「ならいいが、壊したらいつでも言えよな。ハードの予備を準備しておくから」
「そもそもあの性能自体を教えてくれないかな?」
「ソフト面は教えられるがハードは、企業の人のだから教えることは出来ない」
「冗談だよ、でもあのソフトを一人で作ったのなら天才と認めざるを得ないね。良いビジネスライバルになりそう」
「俺的には共同制作者になってほしい位だよ」
グータッチをすると空気を読んでその場から立ち去っていった
「怪我は大丈夫か?まぁ張本人が言うものじゃないが」
「また多少痛む所はあるが、問題ない。昨日の戦いだが、本当に完敗だった」
「俺のあの時は結構やばかったからたまたまだ」
「優しいな凱斗は、まだ使っていない術式があっただろ?しかも2つ共『極級術式ランク』の物だ」
上級の上、その術式を極めた者しか使えない術式。それが極級だ
『半永久術式』や『自己再生術式』はこれに該当している
単体でも厄介と言われている物をまだ二つ持っている、それを使わずに相討ちギリギリとなった
「東十郎さんか、あの人はそういう事を言う人だとは思っていなかったから油断したな」
「だから次戦う時はお前にその術式を使わせるいくら位強くなってくる、覚悟しておけよ」
まっすぐ、その視線と指先が俺をさしていた
「じゃあその時を待ってるぜ、西十郎」
「すぐにお前に追い着いてやるよ、黒炎」
あいつはもう大丈夫だ、先輩が言った通りちゃんと前も向いている
この先本当に俺の最大の敵にも最高の味方にもなる
「だけど次に会うって言っても、それはいつだろう?来年か?」
「お前は『ウォーズ・ピラメスト』に出ないのか?」
「海外との戦いにはあまり興味がないな、それに実験台みたいになるのは少し嫌いだ」
メンバーを戦力の様に換算してそれぞれの国が戦争を仮定した様にやる競技
学生同士が集められて良い経験にはなるだろうが掛かる負担が重すぎる
「そうなのか、じゃあ本当に来年のこの大会になるのか?」
「いや、お互いに進んでいたら近い内にまた会えるだろ」
「そうだな、お互い立ち止まんじゃねぇよ」
「突き進むさ、何があってもな」
しっかりと握手をするとお互いに各高校のメンバーの所に戻っていく
次に俺等が正面同士で見る時は、最高の奴等になっている筈だ
◇
パーティーが終わり、自室に戻った
一通りの装備を机の上に置いといて、シャワーを浴びる
体に巻いてある包帯を全て取って傷口を確認する
特に問題はなかったが一番の難関が右目だ
自己再生術式と言っても傷が綺麗に治るのではなく治癒を高速化するだけだから残るものは残る
しかも昨日は魔力が切れかかっていたから完全に治っているかが心配だ
恐る恐る傷口を止めていたガーゼを取り外す
「おし!!特に問題なかった」
まぶたは綺麗に治っていて右目もちゃんと見えている、変色もしてないし完治と言える。
着替え終わり部屋を出るとそこには会長と須郷先輩、それに七泉がいた。上半身着ておいて良かった、勿論下も穿いているぞ
「・・・何でいるんですか?」
「いや、話があって来たんだけど開いてないから強引に開けてもらったのよ」
「それ普通に犯罪ですよ」
「いいのいいの、それよりも大丈夫みたいね」
「ちゃんと見えますよ、だから俺のMMDを弄るな。お前壊したら直せるのか?」
聞いた話だと俺が使った事によってIKUSAの物だというのが広く知られて、今はかなり稼働しているらしい
弓弦透もその技術を認めたからかなり注文が来ている
「それで何の用ですか?もう明日の準備をしなくてはいけないんですが?」
「簡単に終わらせるわよ」
はいって出されたのは、今日の新聞だ
目が見えなかったし忙しかったから見ていなかった
「これがどうしたんですか?」
「よく見てみろ、君の事が載っているぞ」
驚いてパッと一面を見てみると大きく俺と西十郎の戦いが載っていた、勿論大きく張り出されている
眉が既に切れて流血している所から見ると最後の方に取られた写真だ
「なんだと・・・!」
「これがあった事によってね、学校でもう大騒ぎになっているらしいのよ」
「それの収集をつけてほしいって事ですか?」
「風紀委員でも対処がしづらい問題でな、当本人が出た方が何かと都合がいい」
「勝手にエンジニアにされて、知らない間に予備選手として出されて、勝手に騒ぎの中心人物にされるとは・・・」
「まぁそう言わずに、君は凄い事したんだから」
「させられたの間違いでは?」
「だけど、凱斗も何も得なかったという訳じゃないでしょ?」
「そうだけどさ」
その間に凱斗の股の間に自然と座り込む
いつもの事なのか全く何も言わないであすなろの様に肩に腕をかけて少し体重をかける
「それで俺は何をすればいいんですか?」
「軽くスピーチをしてくれればいいと思う」
「東十郎先輩でも勝てなかった奴に俺は勝ちました、的な?」
「着かず離れずって所ね」
「冗談で言ったのに・・・」
「とりあえずは君の功績のお陰で差別的な事はなく成りかけている、そこは誇っていいのだと思う」
「そうよ、確かに君はファーストコード以上の持ち主だけど決して差別はしなかった。セカンド生の為に良く働いてくれました、生徒会長として感謝します」
「そう言われると恥ずかしいものですね、でもじゃあ条件があります」
「条件?」
「何でも言ってね、協力は惜しまないから」
「生徒会メンバーだけでいいのでこれ以上褒めるのはやめてください」
俺の言葉が理解できないと思っていたがすぐに納得してくれた
これは、恥ずかしいとかあの戦いを否定したいんじゃなく、自分自身のけじめだ
まだまだ俺の前には道が残っている、これでチヤホヤされて先に進めなくなるのは多くの人に悪い
だから俺は先に進む、その道の先まで
「分かったわ、じゃあこの話は終わりね」
「なら出てってください、まだまだやる事は残っているんですから」
「しかし、君のお姫様は持病で寝てしまっているぞ」
道理で静かだと思った、揺すっても起きないから完全に爆睡していやがる
いつも付けている所にMMDはない、こいつ本当に学習しないな
「起こすしかないな」
「やめなさい、可哀想でしょう?」
「君はもっと女性に優しくすることだな」
「何かめっちゃ責められている!」
「まぁ、でも女子の所に男子が行くっていうのも問題があるわね」
「なんなら、もうここに置いておくっていうのもいい手でもあるな」
「そうですか、じゃあそうしますか」
必要な荷物を持って何も言われない内に退散した
予想していた事と違っていたから先輩達は少し驚いていた
「・・・あいつ、本当に男か?」
「でもそういう所が可愛いんじゃないの」
「そういう物なのか?」
ホテルの人からキャンプ用のテントを借りて、外で作業をはじめる
昨日の戦いでグローブ型MMDは大破して今はリペアを使っている状態だ
代理品でも使えない事はないが設定が一からだから、桜坂先輩が前に言っていた通り戦闘用になっていない
布の部分も噛みちぎってボロボロだから新しいものに変えなくちゃいけない
俺が黒炎として使って5分持てば良い所だ
正直今戦って勝てる見込みはない、勿論相手を安全にって言うのが前提でだ
ハードは何とかなっているが問題は、ソフト面だ
いつもの機械じゃないし、この中には『黒炎』の補助ソフトが簡単にしか入っていない
開放時の同一化や定期放出などがソフトの中に入っていないから補助が無いと俺の力に耐え切れない
それにあの『光撃術式』が加わってさらに強度をつけなくちゃいけなくなった
そしてその作業を普通のソフトで一から作り出さなくちゃいけない
「ごめんなみんな、あの時に『頑張れ』と言ってくれた大切な物なのに壊しちまった」
黒炎のこのグローブは調整はしているが初めに作ったのは俺じゃない
1年位前、俺が黒炎を使える様になって、その力を上手く使える様にってハード、ソフト、手袋を作ってくれた俺の最高でかけがえのない3人の仲間がくれた物だ
だが、これがないと黒炎が使えないから俺が作り直すしかない
これは徹夜になりそうだ・・・
◇
次の日、バスの中で爆睡している間に無事学校に戻ってくる事が出来た
学校にはお出迎えの生徒達が既に待っていた
会長と共に先に降りると歓声はいっきに最高潮に達した
「ちょっと待ってね、今から彼がスピーチしてくれるから」
「そういえばそんな話ありましたね」
「忘れてた?」
「昨日は眠かったし徹夜したもんですから、時間までには間に合わせますよ」
放送委員の呼びかけによって全員が体育館に集められる
こうして学生全員が集められるのは全校集会や式の数回のみだ
生徒の他にも記者が何十人もいてカメラも多く設置されている
まず始めに会長の雪風さんが軽い七豪戦の話をして俺の話に触れずにバトンタッチされる
昨日の約束を守ってくれているみたいですね
俺が壇上に立つと一気にシャッタ―が切られて眩しい
『彼は選手としてじゃなくてもエンジニアとしても大いに役に立ってくれました』
脳波や光の屈折で鍵を見つけたことを話されるが空気を読んだのか『固有振動術式』の事は話されなかった
あれは既にレボレーションに士燮先輩の名前で登録されて、企業の注目の的になっている
『では、本人に話してもらいましょう』
深呼吸をして心を整える
「紹介に預かりました、まずは自己紹介からですね。俺は―――」
少し吐息が漏れるが自分の事を話す
自分の事なんだから自分が分からない訳がない。俺は俺で俺しかいない、それが自分だ
「七術家の一つ、野神家現当主『野神凱斗』です。以後よろしくお願いします」
雪風会長も東十郎先輩も話す事は予測していたのか、少し笑っただけで表情は変わらなかった
隠れ一家、それが表出た事によってかなりインパクトがあったみたいだ
だがこれで西十郎の敗戦の理由も付いて丸く収まるはずだ
今日からは潔重さんの代わりに俺が七術家野神の当主として引っ張っていく側になる
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