第6話 七豪戦―本選

朝食を食べ終わると本部があるプレハブ小屋へ向かう

ホテルからでも出来るがここが一番会場に近い

俺が来た時には既に中には桜坂先輩と数名の選手がディスプレイを見ていた

「どんな感じですか?」

「ディスティネーション・スケートの一回戦がちょうど始まるよ」

簡単に説明すればスピードスケートと同じだがただゴールに向かうのではなく、鍵を入手してゴールに向かう競技

東京ドーム6つ分位のフィールドに鍵はあり、基本何かの中に埋め込められてカモフラージュも大量にある

その中から鍵を見つけた人がゴールまで持って行った瞬間勝敗が決まる

妨害もして良い事となっていてゴール付近で襲撃してそのまま鍵を奪ってゴールすることも問題にはならない

移動するものは認定されたものであれば何でもいい、ボードでも靴でもソリもいい

「凱斗くん、君はこの勝負どうなると思う?」

「相手がどんな術式を使うか、そして他の試合とこの試合で誰が抜けるかによりますね」

一目置いているのは、六条高校の選手だ

あそこは寒地にある高校なのでこの競技は得意分野だろう

一方この種目に出場するのは、風紀委員長の須郷先輩だ

あの人の力をちゃんと見た事がないからしっかりと見たい

全員位置についてMMDを微調整する

このフィールドに隠されている鍵は1つ、そして選手は3人

合図と共に全員が構える

高い機器音によって一斉に飛び出す

「短距離型瞬速術式、そんな術式を使えたんですか」

「僕が入れたんだけどね、ボードの上だと少し危険かと思ったけど大丈夫だったみたいだ」

「危険な事しますね」

目の前にある氷山を片っ端から崩していく

「ないか、一体どこにあるんだ」

ひたすらに壊し続けるが全く見つからない

早く見つけなければ相手に取られる可能性も高くなる

焦っては見つからないと分かっているがどうしても気持ちが前に行ってしまう

「これって通信出来ますか?」

「基本許されているけど場所が分かったの?」

「いいえ、分かる方法だけならありますよ。本当は本戦まで取っておきたかったんですがあの表情だとまずいですから」

通信器具の準備をしてもらい、通信機に発信する

「聞こえますか、須郷先輩」

『何だ君か、どうかしたのか?』

「今から俺の言う通りにしてください」

『いきなりだな、だが君の言う事なら何でも信じるよ。それで何をすればいい』

「まずは―――」

ある程度の事を聞き終わると氷山が密集している所から離れた

ほかの選手はそれを良い事に自分の周りの氷山を崩すペースを早くした

「この辺だな」

全ての氷山が見える場所まで行くと氷山地帯の上に閃光式の術式を展開する

真上に展開したから妨害行為にはならない

だが光が強くなったことである物が見えやすくなった、それは反射と屈折だ

氷と金属で反射の威力と角度が大きく違う、氷の屈折率は低くそれはまっすぐ金属の鍵に反射される

そして真上から光が当たったことによってその場所にまっすぐ光の目印が立つ

「あそこか」

加速術式を使ってその場所まで移動する

そこには本当に本物の鍵が入った氷山が立っていた

氷山を破壊するとアナウンスで他の選手にも知らされる

「妨害は遠慮しておくよ、私はこのまま進むから」

迫り来る他の選手を掻い潜ってゴール間際まで接近する

ゴールに到着する間際で電撃系統の術式、それもかなり危険度のあるランクの術式が放射される

氷山は衝撃によって吹き飛ばされて大きな氷塊が須郷先輩を襲った

「まだだな、私は風紀委員なのだから」

ボードに氷塊をぶつけるとその威力と脚力でゴールまで一直線に飛び出した

風の術式で自分を受け止めて怪我はなかった

鍵を持ったままゴールした為に正式と認められた

予選はこれで終了、次は本戦となる

とりあえずなんの逃れたのでさっきの焦っている顔が嘘の様にとてもいい表情で戻って来た

「いや~助かったよ、君のアイデアがなかったら不利な状況に立たされていた」

「ですが今回ので本選での秘策がなくなったのも不利な状況ではあります」

同じ手は通用しないだろう、トリックが知れた以上二度と使えない

他の選手が使う可能性もあるからまずいことになっている

「君ならもっと凄い方法が思いつきそうだがな」

「ハードルを上げないでください」

「次は確かサテラ・スナイプだったな、MMDの調整はいいのか」

「まだ三時間は余裕がありますけど、そうですね仕事は早く終わらせておいた方が柔軟に動けそうですね」

実習室へと行ってみると桜坂先輩しかいなかった

俺が担当する選手は、俺の事を引き入れる時に使われていた如月さん

しかしまだ時間じゃない為、来る気配がない

サテラ・スナイプは、射的の要領で自分方向に発射される的を射る物である

的自体に術式をかけるのは反則だが的に干渉しなければどんな術式を展開しても許可されている

スナイプと言っているが武器はスナイパーでなくても良いらしい

暇なので機材を用意して手袋型MMDの調整作業に入る

このMMDはガイストの時のみしか使用しないものだが基本いつでも使える様に装着している

銃型は遠距離、手袋は近距離として使い分ける事によって無駄な魔力の消費を抑えている

「凄いねこのMMD、定期放射型に整備されている。生半可な術式じゃあ発動もしなさそうだね」

桜坂先輩に高評価を貰って、この手袋だけは自分で作った訳じゃないが少し自分の事の様に嬉しくなる

「そのMMDで使う術式は一つしかないですからね、その術式を最大限発動できる様な設計ですから」

「でもこの術式戦闘用にはあまり出来ていない様だね。開放しながらその威力で相手に攻撃するタイプだけど、本体の強度としてはかなり不安定な状態になるよ」

「開放時に上から同一性に設定していますからその心配はないですよ」

つまり黒炎を纏っている開放状態を一つの個体として凝縮して普通の物質と変わらない状態にさせている

だが不安な部分があるから調整は欠かせない

その後も議論を続けていると後ろから声をかけられる

「あの~いいですか?」

「如月さん、じゃあ調整を始めますか」

「舞でいいですよ」

自前のスナイプ型MMDをスタンド型の接続機に入れる

おやつとして棒付きキャンディーを加えながら調整を始める

「すみませんでした」

「なぜ謝る?」

「私の性でこんな大会に出る事になっちゃったんですよね」

「あれの主犯は生徒会だから気にしなくていい」

「そうだけど、共犯だったし」

「セカンドの技術者が本当にあの腕を出せるとは思っていなかっただろ?だからただ騙されていただけだ」

「そう言って貰えると助かります」

「それで自信の程は?」

「まっ、全く無いですよ。もしかしたら足を引っ張ってしまうかもしれないと不安で」

「サテラ・スナイプは集中力が一番の要だからな、切れた瞬間に負けが決まるといっても過言じゃない」

「集中力はありますけど、ちゃんと当たるかどうか心配です」

的は大きいから大丈夫だとは思うんだが今は何を言っても聞く耳は持っていないだろうな

「良いですよね凱斗さんは、結構強いじゃないですか」

「強かったらセカンドじゃないからな」

「でも既にファーストの人を何人も倒しているって聞いてますよ、昨日だってあの状況で動けましたし」

「受け取り方の違いで悪者にも聞こえるな・・・」

「そうですよ、代わりに出てくださいよ」

「予備選手になってないから無理だよ、ふざけた事が言えるのなら大丈夫そうだな」

「あと一時間後には本番ですよ、緊張しますよ」

「緊張か・・・うん使えるな」

「どうしたんですか?」

「ゴーグルも貸して、調整するから」

本当は調整する程の事じゃないがまぁ正直時間稼ぎだ

「俺が整備したんだからMMDは保証できる、後は舞の実力次第だ」

「な、何でそんなプレッシャー与えるんですか!?」

「えっ?本当の事だよ?だって選手全員を黙らせた程の技術者だぜ、それを引き出せるかは使用者次第だ」

「凱斗さんって結構嫌な人ですね」

「それは否定しないが『本戦』に行く時には感謝していてもらいたい所だな」

一層プレッシャーを掛けておいた

俺が出来るのはここまでで、あとは本当に使用者の実力次第だ

本戦と言っておいたがあの状況で聞いていたのかも確かめ様がない

そして一時間後、舞は自分が予想していた以上に緊張していた

「もう、凱斗さんが言っている事は本当だけどもっというセリフがあったでしょう」

確かに実力は認められているけど人としてどうかと思いますね

あがりやすい正確なんだからもっと、こう優しい言葉をかけて欲しかった

やっぱりまだファーストとの壁は厚いのかな・・・

緊張とどうしようもない衝動で強く握ってしまう

愚痴を溢しながら色んなことを考えるが前の選手が居なくなっていくに連れて一層パニック状態になっていた

そしてそのプレッシャーとパニックの中、入場していく

構えるとすんなり術式が発動する、これは凱斗さんのおかげだ

ピストル音と共に的が自分に向かってくる

そして引き金を引いて撃ち落としていく

術式にも機能的にも問題はないが何か不思議な感じだ、的がどこから来ても狙い撃てる気がする

観客席、黒炎の格好ではないが制服でも作業着でもない服に着替えて見ている人がいた

望遠鏡で見る限りどうやら俺の作戦は見事成功したみたいだ

「中々面白いことをするじゃないか、凱斗」

「須郷先輩、見ていたんですか」

「お前に話があって技術ルームに行ってみたら女の子を虐めている声が聞こえてな」

「虐めているとは人聞きの悪いですね」

「まぁそれも彼女の為だろ?策士くん」

須郷先輩には俺が何であんな事をしていたか理解出来ていたみたいだ

人は緊張状態になると無意識に戦う為に必要なエネルギーを集中させる特性がある

緊張すると脳波は緊張を示すβ波になり、意識は分散して考えなくてもいい様な雑多なことが頭に浮かぶ様になる

その代わりどの方向からの攻撃にも対応でき、あらゆる戦闘方法の対応策を瞬時に探り、選択することが可能になる

原始人の時からある人間が本来備わっている本能的な能力だ

終了音が鳴った時には点数を表示しているディスプレイには『perfect』と書かれていた

「よくやったじゃないか、舞」

「いや、なんか夢中で撃っていたらこうなっていてまだ実感がないです」

「すべての的を撃ち落とすとは予想以上だったな」

「もしかして、あんなこと言っていたのも―――」

「俺は技術的な面でしか手伝っていないからな、この結果は紛れもなく舞の実力だ」

「凱斗さんのMMDのお陰も入ってますよ」

確かに競技に出て、この結果を出したのは紛れもなく私だ

だけどそれを完全に調整して作り上げたのは全てこの人のおかげだ

結局気が付くと全部凱斗さんの思った通りに進んでいた

やっぱりこの人はすごい人だと実感しました

次の日、今日はトーテム・アウトとターゲットクリアの種目の予選だ

七泉は一回戦二回戦共に相手に圧倒的な差をつけて完勝した

「いやぁ~楽勝だったね」

「何が楽勝だ、上級術式ばっか使いやがって連続処理速度と解読変換ソフトにどんだけ負担掛かってると思ってんだよ!お

前はMMDを破壊したいのか?」

「こ、壊れたらまた眠っちゃうよ」

「おう分かっているのなら大事に使え、この前みたいに代理はないんだからな」

「そもそも代用器は、他のMMDじゃ駄目なのか?」

「士燮先輩が使っている3~4倍の容量と処理速度が必要ですからね。ハード自体が特殊な作りで出来てますから」

「そんなに凄いものなのか、なら大事に使わないと」

「分かったよ、全部凱斗の言う通りにしますよ」

「じゃあ俺のも調整頼むわ」

「分かりましたよ、先輩」

MMDの調整に入る為にさっきまで使用していた銃型MMDを繋いだまま違う場所に置き換えた

新しいコードを繋げると調整に入る

「先輩はターゲットクリア出場するんですよね?勝率は何%位ですか?」

「せめて何十%か何割にしてくれよ、ディスティネーション・スケートと同じで的を見つけなくちゃいけないんだけどな」

フィールドに配置された的を攻撃してその的の点数によって順位をつける

良い点数の的はその分破壊しにくい物となっている

「ターゲットクリアか~、私も去年一年の時は出たわね」

「会長も出ていたんですか、それで結果は?」

「準優勝だったわ、一位との差は2点だった」

総ポイント数は1000、そんな数字の争いだとそれ以下の点数は低い事になる

「アレを壊す事が出来たのなら優勝出来たんだろうね」

「なんですかそのアレと言うのは?」

「『アブソリュート・ロック』術式で作り出された硬度の高い岩」

「それがどうかしたんですか?」

「流石ガイスト最強の黒炎様は驚かないね、もしかしたら凱斗くんなら壊せるかもね」

「壊せられない大岩ですか」

「えぇ、学生では誰一人として壊した人はいない」

「因みに壊すと何点なんですか?」

「一応ヒビを入れると500点だったけど、最近になってあまりにも難題条件という事で壊せたらその瞬間にそのチームが優勝っていうルールに改変になったのよね」

「それだけクリアするのは不可能なんですか・・・」

「ダイヤモンドの数十倍もの固さをしているらしからな、プロでも壊せる奴はほんのひと握りだ」

それも時間無制限で何人もの人が交代しつつ、上級術式を十数発展開してやっとヒビが入ったらしい

つまりそんなバススロットを持っていない学生には本当に不可能の話だ

「凱斗くんなら出来そうじゃない?あの黒い奴使えばあっという間になりそうだし」

「聞いた所によると術式の使用後なのであまり黒炎は意味ないですね、俺の使える術式では壊せないですよ」

黒炎は術式とその攻撃を破壊するもので術式が使用完了した物は効果を出さない

傷口を治した所に黒炎を当てたらまだ怪我をするっていう訳じゃないのと同じだ

「そう、また凱斗くんが何とかしてくれるかと思ってた」

「俺は神様じゃないので出来ない事だってありますよ」

少し無駄話をしていた為に作業が上手く行っていない

「時間がないですね」

「間に合うのか?凱斗」

「そこまでの時間は大丈夫です、士燮先輩のMMDはもうすぐ完了します」

ここが凱斗の凄い所だ

高速で使用者に的確な流動方法や術式の補助の切り替えができる

到底普通の奴じゃあ真似はできない

「出来ましたね、ではまた後ほど」

「あぁ、凱斗はこれで今日の作業は終わりか」

「今日はゆっくり休みたいものです、特に明日は集中しているから一つでも無くなってくれればいいんですけどね」

「何なら有菜ちゃんと代わる?」

「まぁそうなったら良いなっていう欲望ですよ、不具合はないですか?」

「大丈夫だ、起動時間も短くなっているし良い出来だ」

俺の言葉を聞くと繋いでいたMMDを離してケースの中に入れた

「じゃあ先に失礼させていただきます」

「ゆっくり休んでね」

「ターゲットクリアは見に行きますよ」

開始時刻までは時間がある為か、会場とは全く違う方面に行った

ホテルの一室、廊下に立っていたガードマンに身分証明をして通してもらう

凱斗はゆっくりと辺りに人がいないのを確認して、会場の一室の前でノックする

「失礼します」

『そんなにかしこまるな、まぁ掛けろ』

部屋の中には3人の男性と若い女性一人がいる

この人達は『クロワガイスト』発足の第一人者として働いてくれた人達

4人とも魔術法の世界では有名な人達であり、そんな人達に選ばれたのが俺達クロワガイストだ

「失礼いたします」

「まぁ何も用意していなかったがゆっくりしてくれ」

「君のエンジニアとして働いているのだろ」

「はい、今日だけで結構頭を使った気がします」

頭を使ったときは甘いものに限る

飴だけじゃあ流石に賄いきれないから後で休憩をもらう

「氷結屈折にアドレナリンに着目した射撃方法、君は本当に頭がいいですね。団子をどうぞ」

「そう言われると恐縮です」

「さて、そろそろ呼び出した理由を話さないとな。一昨日の奴等はキルティーチェに雇われたのは確かなようだ」

「ではやはり狙いはこの大会・・・」

「その理由まではまだ分かっていない、分かり次第すぐに報告する」

「それでメンバーは君がガイストだという事は知っているのか?」

「いえ、あの学校で知っているのは生徒会メンバー6人と七瀬七泉ともう一人です」

あと一人は学校で再会した結城司

あいつは俺がガイストになって初めて遭った事件の俺と共に唯一の生存者だ

「信用出来る人達なのか?」

「理事長の娘がいると聞いたことがある、それに信用が出来る奴等なのだから彼が協力しているのだろう」

「えぇ、その通りです」

あまり好きじゃないが紅茶を口に含む、正直緊張して喉がカラカラだ

美佳子さんが茶菓子で団子を出してくれるがこの空気じゃあ喉に詰まらせるかもしれない

その美佳子さんは司の名前を出した瞬間に嬉しそうにしていた

「そういえば、そのケースって何ですか?」

「これは、俺のと同期のMMDですよ」

「ハードが同じなのか?」

「性能は落ちますが普通以上のものです」

「そういえば君は『半永久的なエネルギー術式』を提出したんだったな、それも学校と企業名義で」

「少し行き違いで登録が遅れただけですよ、それに本当の使い方をしているのは俺と麻里奈だけですから」

「そうだな、そういえば君はシオンが今どこにいるのか分かっているかい?」

巧都たくとシオン、上位3人の残り一人で複製術式を使う俺と同期で初めからいたガイスト

天体観測が趣味で転々としている雲の様な人だ

実力は認めてもらってガイストとなっているが俺が一時抜けた途端にどこかへ消え、俺と入れ違いになってここ1年全くガイストとして働いていない

「1ヶ月前にカナダにいたという情報を聞いたことがありますがアイツが一箇所にじっとしている訳がないですから」

「そうか、まぁ一応調査隊を送っておこう」

「でもシオンはちゃんと役目の時は帰ってきますから、心配しなくてもいいと思いますが」

「仲間だからといって肩を持つのは良いことだが彼は自由すぎる、仕事と自分の立場を理解してもらいたいものだ」

そう言われてしまうと俺からはもう反論が出来ない

俺は何であいつがそんな行動をしているのか理由を知っている、だがもうそろそろ庇い切れる事は出来なそうだ

「そういえば君の『大伯父』も来ている様だが挨拶はもうしたのか?」

「いいえ、でもあまり人前で俺とは話す様な人じゃあないですからね」

そう言いつつ、会ったらどんな事を話して良いのか分からないのが俺の本音だ

タブレットを操作しつつ、少し作業をさせてもらう

「MMDの調整が終わっていなかったのか、もうすぐターゲットクリアの開始時刻だぞ」

「それは俺の学校の人は出場していないですから」

「データ調査はしないのか」

「この競技は勝てる自信があるので、副会長程の人材なら問題はないです」

「強気だな、なら君が出した選手がどれだけの人材か見極めさせてもらおうか」

MMDを作り終えるとすぐにその場から立ち去った

観客席に入ると手を振って合図してくれた

そこには生徒会メンバーとクラスのロウ達が一緒に座っていた

「会長、それに司達も一緒だったのか」

「まぁね、ちょうど席を探している時に会って少し話していただけよ」

「クラスでは結構大人しい子なんだってね」

「俺は基本大人しいですよ、騒がしているのは会長達じゃないですか」

「凱斗くん、それでこの試合の勝率は何十%位で勝利できますか?」

「それは誰にも分からないですよ」

「凱斗さんの調整ならきっと勝てますよ」

「あまり持ち上げないでくれ、もしもの場合落ち込むのは俺だから」

少し前に先輩へと少し贈り物を送っておいた

『間に合いましたか、これを使ってください』

『これは、凱斗が使っているMMDじゃないか』

『同機種ですよ、俺のはちゃんと自分用で持ってます』

『それでどうして俺に?』

『全員にアイデアを出しているのに先輩には出さないのは不公平だと思いましてね』

『それでこれがアイデアか、俺はどうしたらいい?』

『話が早くて助かります、始まったら―――』

伝え終わると観客席に来て今に至るって事だ

全員がバラバラの位置からの出発で各自確認作業に取り掛かった

ピストル音と共に全員が駆け抜ける

その間に見つけた的を撃ち落としていく

「士燮くん、点数が思う様に行っていない様ですね」

「まだ大丈夫よ、まだまだ的は残っているんですから」

「ですけど、何か急いでどこかに向かっている様にも見えますが」

士燮が辿りついた場所、その目の前には『アブソリュート・ロック』があった

「士燮くん、何しているのかしら」

腰の所からさっき渡された銃型MMDを取り出すと一発撃ち込む、だがビクともしない

「凱斗くんと同じMMD、いつの間にあんなものを」

「まさか壊そうとしているのか?」

「不可能ですよ、あれは簡単に壊れるような物じゃないです」

全員がそう思っていた、ただ一人の人物を除いては・・・

一発撃ち終わるとすぐに銃を仕舞って、腕に付けている自分の物で術式を最大限開放する

次に放たれた術式によってその大岩は簡単に、それも粉々に砕け散った

そして全てを理解してセッティングした凱斗の顔がニヤリと笑った

試合終了の合図が鳴り響き会場は観客が立ち上がるほど一気に盛り上がった

会長も立ち上がったがその顔は喜びよりも先に驚きが出ていた

「何で、あれは絶対に壊れるものじゃないのに」

「絶対と思っているから壊れなかったんですよ、壊そうと思えば幾らでも手は有った筈です」

「まさか、凱斗くんがこのトリックを」

「ロウ、お前の得意術式は岩石系だよな。どういう仕組みだか分かるか?」

「予想からしたら、振動か?」

「もしかすると『パーソナル・ウェーブ』ですか?」

「正解です須賀谷先輩」

パーソナル・ウェーブ

物には固有な波長があり、音によって火が消えるのと同じで振動によって崩壊する性質がある

その術式は『固有振動』を調査して、別の術式の攻撃をその振動に合わせるように調整される

現行ではまだ存在していない術式、凱斗オリジナルだ

『アブソリュート・ロック』が壊れた事によって無条件でターゲットクリアは、一条高校の優勝で終わった

「これで明日の仕事が一つ無くなりましたね」

「まさか、その為にあの術式を作ったんですか!?」

「好きな風に捉えてください、でも俺は『絶対』という言葉が嫌いですからね」

それだけを言うとその場から立ち去ってしまった

一条高校は未知の術式を使用したことになり、記者が集まり出す

そんな時でも結局彼は最後まで現れる事はなかった、彼は本当に欲がない

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