第4話 少年は奇々怪々な金を得る

【4-1】

「蓮介さん、けんもほろろってどういう意味ですか?」


「……けんもほろろ?」


9月7日。正午。

僕こと夏目蓮介は、彩色堂にて香帆ちゃんと談笑していた。

真帆さんは何やら私用とのことで、今日の朝から店を留守にしている。僕はその間の店番を仰せつかったわけなのだが、1日張り付いて改めて分かる。この店に訪れる客の驚異的な少なさを。

どうやら真帆さんに本業で生計を立てていく気はさらさら無いようで、近頃は骨董に対する開き直りすら窺える(鍋にして食べようとしたのがいい例だ)。


「急にどうしてまた、そんなことを」


「いや特に意味は無いですよ。ただ、あ〜確かそんな言葉があったなあ、どういう意味だったっけなあと不意に思ってしまっただけです」


「人の頼みを無愛想に受け流すことだよ」


「ああ、今の蓮介さんみたいな人のことですね」


「い……いやいや、僕はちゃんと答えたじゃないか。上司の妹にけんもほろろ呼ばわりされる覚えは無いぞ」


「それじゃあけんもほろろの『けん』ってどういう意味ですか?」


「それは……つっけんどんとかの『けん』でいいんじゃないかな。ほら、つっけんどんって『突っ慳貪』って書くじゃん。慳貪の慳から取ってきてるみたいなことを、昔聞いたことがあるけれど」


「『ほろろ』は?」


「え、ええと……」


そう言えばほろろってなんだ。

擬音にしては随分と気の抜けた感じだし、ほろろと表したくなる状況なんてものが果たしてあるのだろうか。


「そ……そうだなあ。ほ、ほろほろ笑うとか?」


「それだと『ほろろ』じゃなくて『ほろほろ』になっちゃいますよ」


「分かってるけどさ。それ以上ほろろの使い方なんて出てこな……」


「まったく。私の中にあった蓮介さんの博学なイメージががらがらと崩れていきますよ。あ、ほろほろ崩れたほうがよかったですか?」


「ほろほろ崩れるってなんだよ……」

鳥そぼろを白米に振り掛ける絵面を、思わず僕は連想してしまった。


「まだまだですね蓮介さん。ほろろって言うのは、キジが羽ばたく時の羽音と考えられているのですよ。つっけんどんの『けん』からキジの鳴き声を連想し、こいつをほどよくその後ろにくっつけてあげたというわけです。それにしても、そんな擬音と共に羽ばたく羽って、一体どんな羽なんでしょうね、蓮介さん」


「知ってんのかよ!」

僕がそう言うと、香帆ちゃんはセーラー服の両裾をぱたぱたと動かし、笑った。



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