第21話
二人が去るなり静かになった敵地の医務室。ここにも長い間はいられない。一刻も早く場所を移すべきだ。そう思っていたが、ラヴェンダーの忘れていった煙草を手にとり咥える。
だが、ライターがないことに気付き顔をしかめ・・・
『EA機動 出力一パーセント以下に限定』
指先に炎が灯った。その炎を使って煙草の穂先に火を灯す。そして、大きく息を吸って吐き出した。途端にたなびく紫煙。
「さて」
一息ついて足のギブスを握り込み力を込め、
バカン! と快音がなった。小さな白煙が舞い紫煙に混じる。
「頃合だな」
ギブスの破片を手で払いながら、添え木でない事に感謝する。でなかったらばれていた。
「・・・・・。」
ゆっくりと、ゆっくりとベットから足を下ろす。折れていたはずの右足から。そして、問題ないといわんばかりに踏みしめる。
良く見れば足はおろか、全身にあった微細な傷さえも跡形もなく治癒していた。
「この呪われた身体に感謝・・・だな」
吸いかけの煙草を中に放り腕を一閃。
刹那、目に見えぬ空気の渦が発生し、宙のそれは四方に引き千切られて消滅する。
「あいつにはあいつの・・・ラヴェンダーにはラヴェンダーの理由がある」
少女が自らの言葉を言ったのは以外だったがそれを思い出して小さく笑っている自分に尚更驚いた。
「なら俺は俺の理由を果たす。ウォンを倒して犠牲の上で成り立つ狂った世界を滅ぼす」
歩きながら窓の外に目を移し、わずかな間だけ尖塔を見詰め、
「今いくぞ。ウォン・クーフーリン」
『コード・イミテーション起動します。現在までの経験を再入力 最適化完了・機動条件は任意 リミッター全解除の為 自己崩壊………』
「補助脳の動作オフ」
その言葉を聞くなり、頭の中で鳴り響くイメージ上の擬似音声が沈黙する。
「興奮状態も解除。冷静な判断が出来ないからな」
思考がクリヤーになっていく。先鋭化していく精神は、心の炎を鋭利で冷たい刃に変えて磨ぎすんでいく。そして、押さえつけていたものに対する開放感。しかし、一つだけ終わった事がある。
「今まで隠してしまってきた呪の力。振るうからには相応の覚悟も必要か」
全てを隠し通しひたすら牙を磨いてきた日々。そのおかげもあって、今なら何が相手だろうと喉笛を食い千切る牙を手に入れた。全てを等しく破壊する力。全てを切り裂く氷刃の牙。
「カルノ・セパイドとしての日常はこれで終わる。俺もお前ら二人の仲間入りだ。同時にイミテーションとしての・・・現代の魔法使いとしての始まりだ」
目指すは一つ。
現代のバベル・・・バートンへ。
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