青春に必要なあれ

 遅刻して先生に「すいません」と謝りながら入ったのに授業中は爆睡。

 昼休みになると優美がトランプの件を勇太に謝りにきた。

 美香も一緒に来ていたので美香にも謝ったのだろう。

 そのままみんなで弁当を食べて、放課後になると美香と優美がまた教室に来て一緒に帰ろうと言ってきた。

 優美が美香と勇太にちゃんと謝って弁当も一緒に食べてこうやって一緒に帰る。

 それは悪いことではないのだが、やはり周りの視線はどこか冷たい。

 平凡だった俺の学園生活は優美と出会ってから少しずつ変わってきているようだ。


 「隼人、あんた優美と一緒に漫画作るの?」


 「なんで知ってるんだ?」


 「私が普通に美香さんに話しました」


 「おい! 親友の俺に何の相談もなしにかよ!?」


 「勇太さんは隼人さんの親友だったのですか?」


 「あったりまえだ! なぁ、隼人!」


 「うん、友達だ」


 「親友だよな!?」


 「うん、友達だ」


 「そんなのどっちでもいいじゃない。 そんなことより隼人って漫画とか描けるの?」


 「いや、俺は物語考える担当だ」


 「うちも何か手伝おうか?」


 「美香って漫画とか読むのか?」


 「うちだって漫画ぐらい読んだりするわよ! 絵も昔は下手だったけど今ではけっこう自信ある!」


 「じゃあ、手伝ってもらうのもありかもな。 優美はどう思う?」


 「私のアシスタントということなら構いませんよ」


 「俺も手伝うぜ!」


 「漫画作りでお前にできること何かあるのか?」


 「読んでやる! そして感想を言う!」


 「それは手伝うっていうのだろうか?」 


 「まぁ、細かいことは気にするな!」 


 こうやって帰り道の雑談が盛り上がるのは良いことだ。

 みんなで共同作業をするというのも素晴らしいことだと思う。

 しかし、4人で作業するとなると俺には心配事がある。

 優美にはばれてしまっているが、俺がノーパソで妄想小説を書いているという秘密を美香と勇太に知られてしまう可能性についてだ。

 そもそも、なんで俺が優美の漫画作りのストーリーを一緒に考えることになっているかを聞かれた場合の対処手段がないのだ。

 小説を優美に見られて成り行きでこうなりましたっていう事実を告げたら美香は「隼人が小説書いてるん? 見せてよ!」便乗して勇太が「見せろよ! 親友だろ?」的な流れになるだろう…… 聞かれる前に何か対策を考えないといけないな。


 「そういえば、なんで隼人が漫画作りを手伝うことになったんだ?」


 自称、俺の親友の勇太は実はエスパーなのではないだろうか?

 そんなタイミングだった。


 「あれだ。 本気で頑張るという優美の決意を聞いて胸を打たれたんだ」


 嘘ではない。

 これは断じて嘘ではないのだ。


 「ふーん」


 少し間を開けて美香と勇太がハモるように口にした言葉は同じだったが、二人の表情は全然違う感じがした。

 勇太は納得していた表情だが、美香はどうやら何か裏があると思っているようだ。

 しかし、俺の経験上ここで「なんだよその顔は?」とか聞くのは危険だ。

 ここは、無難に話題を変えてしまおう。


 「そういえば共同作業するなら毎日集まれる場所が欲しいよな」


 「隼人の家でいいじゃない」


 「私達の家に毎日来るつもりなんですか?」


 「あんたの家じゃないでしょ!」


 美香と俺の家は隣だし、優美は俺の家に住んでいる。

 親もほとんど家にいないから俺の家が集まる場所としては最適なのかもしれない。

 しかし、優美の部屋はオタクグッズが散乱しているし、俺の部屋にはノートパソコンがあるから毎日来られたら例の秘密がばれてしまう危険がある。 

 さぁ、どうしたものか……


 「ふっふっふ……」


 「どうした、勇太?」


 意味深に笑う勇太が俺の肩に手を回してきた。

 なんだか嫌な予感しかしない。


 「部活だ!!」


 「は?」


 「え?」


 「ん?」


 「誰かの家に集まるより、部活として学校で活動すればいいんだよ。 そしたら、漫画を書くための道具やパソコンも全部学校にあるから使い放題だ」 


 「なるほど! たしかに、部活なら学校の機材は使えるし、作業場所としてはありね!」


 「私も賛成ですよ。 隼人さんはどうですか?」


 ドヤ顔で提案する勇太の案に美香と優美は賛成のようだ。

 俺も拒む理由はないのだが、部活動の申請をするにはいくつかルールがある。


 「部活動として申請するには、部員が5人以上と顧問も必要なんだぞ」


 「心配するな! 勧誘活動から我々の部活は始まるのだ!」


 勇太は何やら楽しそうだ。

 漫画を作りたいというより、部活を作りたいようにしか見えない。


 「なんで急にそんなやる気になってんのよ?」


 「青春といえば、部活だ! なぁ、兄弟!」


 「いつから俺とお前は兄弟になったんだ?」


 「兄弟みたいなもんじゃねぇか!」


 「いや、ただのクラスメートだ」


 「とりあえず、明日から勧誘活動だ!」


 「まぁ、反対する理由もないしやってみるか」


 「そうですね。 私達の家に毎日来られるのも迷惑ですし」


 「だから、あんたの家じゃないでしょ!」


 「明日から頑張ろうな!」


 

 こうして、俺達は部活を創設することになった。

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