【永 遠】(終)
――貴女、名前はなんて言うの?
エオニオティタと申します。
――そう、じゃあ『エオニア』と呼ぶわ。ワタシのことは『エフィ』と呼んでね。
滅相もない、女王陛下に対しそのような不敬を働けるはずがありません。
――ちぇー、つまんないの。
昔の夢を見た。
まだわたしが、国のため、女王のために仕え、理想に燃える騎士だった頃の夢……。
彼女を守る大勢の騎士達――その一人に過ぎなかったわたしは、いつも遠くから、あの方の美しい見目形を眺めていた。
それだけで幸せだった。
彼女は女王、わたしは騎士。
彼女に仕え、彼女と共に理想を追うことが、わたしの全てなのだから。
シェディムは温厚な一族だが、それでも、王族・貴族内での権力闘争は常に伏在していた。彼女の信用を失墜させ、玉座から引き摺り下ろそうとする狡猾な輩はどうしたって出てくるし、その醜いいざこざに、ただの騎士であるわたしが口出しできるはずはなかった。
しかし、当の女王エフィアルティス様は、権力や名誉に頓着する性格ではなかった。
平民に大人気だった彼女は、いったい何が気に入ったのか、わたしを目にかけてくれた。
エオニアと呼ばれるたびに、わたしはますます彼女に魅入られ、密かに胸を躍らせた。
女王と騎士。
本来なら、決して縮まることのない二人の距離。
けれど彼女は――寂しいからという理由で、わたしを寵愛してくださった。
甘く、熱く、秘めやかなその行為に、彼女のどんな想いが籠められていたのかを、当時のわたしは深く理解していなかった。
ただ彼女がわたしを必要としてくれて、頼ってくれて――それだけで幸せだった。
本当なら、彼女の気持ちに正面から向き合わなければならなかったのに。
わたしにとって、彼女は眩しすぎた。
ある日、二人きりの時。
恋がしたいと彼女は言った。
天真爛漫な彼女は、時たま突拍子もないことを言い出す。
わたしはなんと返しただろう。
いつもの戯れだと思って、うやむやな返事をした気がする。
まさか本当に、彼女がいなくなってしまうなんて想像もせずに。
もしあの時――『エフィ』と呼んでと言われて、畏まりましたと頷いていたら、未来は変わっていたのだろうか。
恋がしたいと言った彼女を、そっと抱き締めていれば、未来は――彼女の隣にいたのは、人間の娘ではなくわたしだったのではないか。
不相応な妄想に過ぎないのはわかっている。
それでも、結局わたしの心は、とっくの昔にあの方に魅了されていたのだ。
きっと初めて逢った瞬間から、わたしは貴女に恋をしていたのだと思います。
貴女がアリサ様に恋をしたように、わたしは、ただ貴女だけを。
気づくのに時間がかかってしまいました。本当に悔やまれます。
取り返しのつかないことをしてしまいました。
一刻も早く貴女に謝りたいのですが――その前に、貴女が遺した言葉を、貴女に託された二人を、最後まで見守らせてください。
わたしはもう、未来から逃げません。恋を怖れません。アリサ様に伝えてください。わたしは貴女が嫌いです。嫌いでした。ですが、今は少しだけ嫌いじゃなくなりました。
そちらへ行くのは、貴女への償いと、あの子達への罪滅ぼしを、もう少ししてから――
すぐに貴女のあとを追わなかったことを、どうかお許しください。
けれど、これだけは真実です。
愛しています。
ずっと、いつまでも、愛しています。
あの子達がわたしの名を呼んでいる。
サラ様と――
ああ。
そこにいらっしゃったのですね。
エフィ様。
わたしの永遠は、貴女と共に――
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