【永 遠】(三)

 酷いことをしている、と思う。

 真実を知っているのは、きっとわたしだけだ。

 ほかに真実を知っている彼女達は、もうこの世にいないのだから。

 そして今、わたしの前には一人の少女がいる。

 わたしはずっと勘違いしていたのだ。

 現王園の屋敷で初めてこの子を見た時、ようやく理解した。

 あの女にそっくりな容貌。白い肌に黒い髪。氷のような冷たさと月のような静けさに揺れる黒い瞳。

 この子は――わたしが置き去りにしたはずの王女とは違う女の子だった。

 どうしてその可能性に考えが至らなかったのだろう。

 酷いことをしている、と思う。

 確かに、彼女に託された命だ。

 しかしわたしは、結局己の願望を果たすために、この子を利用することにしたのだ。

 月日が流れ、わたしはどんどん空っぽになっていった。

 わたしから彼女を奪ったあの女への復讐心などというものは、もうない。

 そもそも、復讐しようと思った時には既に――あの女は死んでいたのだ。

 気になるのは、昔わたしが捨てた赤子――〈夢魔と人間が遺したもう一つの命あの子〉の存在。

 今どうしているだろう。

 元気にしているだろうか。

 満ち足りているだろうか。

 気になるが――しかし、捜さないほうがいいに決まっている。

 わたしたちと関わり合わなければ、幸せになれるはずだから。

 運命から、悪夢から解放されたのだ、あの子は。


 それなのに、あの夜の悪夢が二人を廻り合わせてしまった。


 なんて運命なのだろう。

 けれど心のどこかで、やはりそうなのかと、二本の線はいずれ交わる――いや、元から絡み合って離れない運命だったのだと、どこか得心が行く部分もあった。

 あの子を巻き込んだわたしは、あまつさえ全てを打ち明け、繋がりを持とうとしてしまった。

 わたしは魅入られてしまったのだ。

 見違えるほど大きくなった、あの子の瞳に、笑顔に、言葉に。

 わたしが愛したあのお方に――よく似た魅力を持つ、プリンセスに。

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