第3話

【2116年 8月30日 23時45分】


「目標はあの建物の中か……」


「はい。やはり目的地に近づくにつれてExSエクスの数も増えてます」


 索敵班と合流し、目標の位置を改めて確認する。


 建物前の大通りでは、無線を聞いた兵士が続々と集まり、建物を守るExSエクスと戦闘を繰り広げている。


 しかし、ExSエクスの数が減るより人間の数が減る方が遥かに早い。


人類側の兵力は残りどれくらいだろうか……


 ここまで来るまでに何体ものExSエクスを見かけたが戦闘は全て回避してきた。


 モニターに映る時間を見ると作戦開始からすでに45分が経過していた。


「残り15分……」


 時間がない。



「作戦内容を簡単にもう一度伝えておきます。

 今回の作戦は、ExSエクスの動力に使われている燃料が入った容器。つまり、エネルギータンクの破壊です。

 ExSエクスを一体一体倒していたら切りが無いですし、そんな戦力、人類にはありません。

 ここで、エネルギータンクを破壊することに成功すれば、残ったExSエクスのエネルギー供給が止まり活動を停止させられます」


「時間がない……」


「あ、はい! 失礼しました」


 ExSエクスは戦闘を開始してから1時間が経過すると順番に燃料補充のためにエネルギータンクに戻ってくる。


 ExSエクスが補給に入り回復してしまうと、その分作戦を成功させるのは難しくなる。

 今回の作戦を失敗させれば、予備兵力のない人類は絶滅するだろう。


 つまり、あと15分でエネルギータンクを破壊しなければ僕達はゲームオーバーなわけだ。


「行ってくる」


 身体を屈めクラウチングスタートの姿勢をとる。


「検討を祈ります」


 僕は地面を蹴り、目標に向かってまた走り始めた。





 建物前の大通りは、地面が血で紅く染まっていた。


 その上で、人類とExSエクスは戦闘を行っている。


 ExSエクスとの戦闘は1対1ならまず勝ち目はない。


 ExSエクスは攻撃の前に必ず1人をロックオンするからだ。

 ロックオンされたらそいつの命はそこまで。

 なので人間は如何にロックオンされないかが重要である。


 だが、逆に考えるとそれはチャンスでもある。


 ExSエクスは誰かをロックオンしている間は他のやつには攻撃をしない。


 つまり、兵士がいる限り僕は狙われずに済む。


 兵士を囮として使いつつ、建物までの道を走り抜ける。


 幸いにも建物の周辺のExSエクスは兵士との戦闘中のためこちらには気づいていないようだ。


 正面扉の前はExSエクスも守りを固めていて侵入するのは難しい。

 

 どこから侵入するべきかと辺りを見渡していると、丁度第一陣として斬り込みに行った部隊が正面扉の前までたどり着いた。


 扉前を守っていたExSエクスもそれに気付き動き始める。


 息つく間も無く戦闘が始まった。


 その部隊のおかげで扉は完全にノーマークになった。

 僕は堂々と正面扉から突入することにした。







「静かだ……」


 建物の中は外の喧騒が嘘のように静かだった。


 建物内はいたる所に装飾が施されていた。


 僕は一歩前にでる。


 刹那、一筋の光が弧を描き上から振り下ろされる。


 紙一重で横に回避する。


「チッ」


 思わず舌打ちをする。


 目の前には一体のExSエクスが大剣を振り下ろした所だった。


 攻撃してきたということはすでに僕をロックオン済み。


 このExSエクスを倒さない限り永遠に追いかけてくるだろう。


 ふと、視線を感じ上を見ると、吹き抜けの天井付近に2体のExSエクスが宙に浮いたままこちらを見ていた。


 大剣を構えているところから、すでにロックオンされているとみていいだろう。


「敵の本拠地だし、そう簡単にはいかないか……」


 宙に浮くExSエクスの一体が大剣を振り下ろしながら飛んでくる。


 素早く右手を右肩に持ってくる。

 システムが反応し背中に背負われたバックパックから機械音と共に柄が現れる。


 抜刀。


 銀に輝くファイティングナイフ『五月雨さみだれ』を抜き放ち、勢いそのままに体を右に傾け、切っ先を突き上げる。


 敵の攻撃を交わしながらも五月雨さみだれExSエクスの中心に深々と刺さっていた。


 その姿勢のまま足に力を込めて、地面を思いっきり蹴る。ExSエクスを突き刺しながら飛び上がる。


 丁度その時に宙に浮いていたもう一体のExSエクスが大剣を振り下ろしながら突っ込んでくるところだった。


 突き刺したままのExSエクスを盾として使い、振り下ろされた一撃を受け止める。


 大剣とExSエクスが交わる時に緑の火花が散る。


 その時に一瞬の隙ができたことを僕は見逃さない。


 五月雨さみだれを引き抜きながら体を捻り、勢いをつける。


 大剣を振り下ろしたことで完全な無防備になったExSエクスの顔面に五月雨さみだれを突き刺す。


 五月雨さみだれから手を離し、今突き刺したExSエクスの右手に持っていた大剣を奪い取り、宙に浮くExSエクスを足場とし、今度は重力と同じ方向、つまり地面に向かって蹴り加速する。


 下では、最初に切りつけてきたExSエクスが大剣を下段に構えている。


 僕は奪い取った大剣を地面をも切断する勢いで振り下ろす。


 敵が切り上げるよりも早く全体重をかけた一撃が放たれる。


 鳴り響く衝撃音。


 地面は振り下ろした場所を中心に蜘蛛の巣のように亀裂が入り陥没していた。


 ExSエクスは頭から股にかけて、緑の火花を散らし、左右にズレて崩れ落ちた。


「終了」


 僕の後ろには空中で倒した2体のExSエクスが落ちてきて、地面に亀裂が走る。


「時間が無いっていうのに……」


 僕は後ろに落ちてきたExSエクスの顔面に突き刺さった五月雨さみだれを引き抜きバックパックにある鞘に戻した。


「先を急ぐか」






 建物内の地図マップは無いのだがで道を進む。

 自慢ではないのだが僕の勘は結構当たる。

 特に戦闘中だと僕の勘の的中率は100%だ。


 正直自分でも気持ち悪いと思う。


 例えば、今僕がおかれている状況だと、道の突き当たり。

 道は左右に分かれている。


 見た目は全く同じで違いはないが、違う方に進むと時間をかなり無駄にしてしまう。


 残り時間がほとんどない今の状況で、時間のロスは絶対に許されない。


 僕は目を閉じ集中する。


 右の道……。

 ExSエクスの数は数体。

 エネルギータンクなし。


 ただ、妙な違和感……。


 左の道……。

 ExSエクスの数は……たくさん。

 エネルギータンクあり。

 

 どう考えても後者。左の道に目標がある。


 いつもなら何の違和感もなく左に進むだろうが、右の違和感が気になる。


 しかし、時間がない。

 右の道はエネルギータンクを破壊してからでも遅くはないだろう。


 僕は左の道を進む。





 しばらく進んだがExSエクスと鉢合わせすることはなく、見るからに何かがありそうな扉の前に行き着いた。


 この扉の奥にエネルギータンクはあると確信する。


 モニターに映る時間を確認すると23時57分。作戦開始から57分経過。


 残り3分。


「思ってたより早く着いたな」


 今から、何十体というExSエクスと戦闘があり、その後にエネルギータンクの破壊を3分でしなければならない。


 しかし、時間がないという焦りはもうなくなった。


「僕は機械だ……」


 僕はそうつぶやき目の前の扉を開け放った。





 目の前に映る光景。

 部屋は半円の形をしていて、椅子と机が中心を向くように半円を作っていた。

 部屋の中心は一段高くなっている。


 昔のこの場所は何か集会の演説場だったりしたのだろうか。


 今はそんなことを考えてる時間ではなかった。


 部屋の高台の上に、周りの風景とは不釣り合いの機械の塊が一つ。

 その機械の中心で水晶のような球体が緑色の光を放っている。

 これが破壊目標であるExSエクスのエネルギータンクだ。


 ExSエクスは地面に降り立っているのと宙に浮いているのを合わせて30体ぐらいはいるだろうか……。


「予想通り」


 ExSエクスは手に持つ大剣を構える。


「さぁ。始めようか」


 僕は目をつぶり深く深呼吸をする。


 ExSエクス達は一斉に僕の方に飛びかかってくる。

 普通の人なら目で追えずに消えたと錯覚するだろう。

 そして、次に目にする時には既に身体は真っ二つというのが一般的なExSエクスによる殺され方だ。


 ただ、それはだった場合である。

 僕は普通ではない。




 目を開けると世界は止まっていた。


 飛びかかってきたExSエクスは大剣を振り下ろしながら空中で止まっている。


 正確に言うと時は完全には止まっていない。

 ただ、時が進むスピードが極端に遅くなったのだ。


 これが僕の力。僕の能力。


 そして、僕にはもう一つ力がある。


 バックパックから五月雨さみだれを抜き放つ。


 止まった世界で、唯一動ける僕。


 止まっているExSエクスを片っ端から切り刻んでいく。


 宙に浮いたまま止まっているExSエクスにも、跳んで上に乗り滅多刺しにする。


「あとはお前だけだよ」


 僕は緑色の光を放つ球体。ExSエクスのエネルギータンクに五月雨さみだれを突き刺した。


 止まった世界で唯一動く事を可能にしてくれたこの身体。

 銃弾が効かないExSエクスをも貫くこのナイフ。


 僕のもう一つの力。


 人類の科学技術の結晶。

 対ExSエクス殲滅用パワードスーツ。


 僕は能力を解除する。


 世界は息を吸うのを忘れていたかのように動き始める。


 切りつけたExSエクスは切られたところから緑色の火花を散らしながら地面に崩れ落ちる。


「何があったかお前らにはわからないだろう?」


 僕はExSエクスに問いかける。


「人間はお前らExSエクスにこうやって何をされたか分からないまま殺されてるんだよ」


 やがてExSエクスは目から光が消え動かなくなった。


 エネルギータンクは、突き刺した所から緑色の光が漏れ出てきて、次の瞬間水晶が砕け光となって消えた。


「作戦完了」


 僕は人間ではない。

 このパワードスーツの下は皆と同じ肉体を持っている。

 しかし、僕は一度死んでいる。

 二度目の人生は姉さんの為に使うと決めた。

 僕は、僕自身を何かに例えるならば……


「僕は機械だ……」


 そこで、僕の意識は途切れた。

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神ノ魂 炭酸すい @tansansui

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