第43話 前哨戦(?)

「ああ、それと」

 俺にはもうひとつ言っておきたいことがあった。というか、言わなくてはいけないことがあった。これはケジメだ。

「たしかにお前のしていることはいけないことなのかもしれない。お前がそれをどう思うかはお前の勝手だ。でも、間接的であれ俺はそれに救われた。だから俺も勝手に感謝させてもらうぞ」

 羽込が持ってきてくれた薬がなければ、俺は倦怠期から抜け出すことは出来なかった。そのまま一生を終えていたかもしれないと思うと、寒気がする。

「友達いないのに、義理深い人ね」

「おい今何つった」

 関係ないよね? 全然関係ないよね?

 悲しさに浸っていると「あ、そうそう」と思い出したように羽込は指を立てる。

「ところで飛沫くんにはあいつを倒す策があるのかしら?」

「……ない」

「よくもまあ、”必ず戻ってくる”なんて大口を叩けたものね……。ほんと、口だけは半人前ね」

「一人前だろ。その理論だと、口意外は何人前なんだよ……」

「さあね。とりあえず口が五十パーセント、残りの要素五十パーセントで清水飛沫くんは構成されているわ」

 口の割合高すぎんだろ。残りの要素、水分で終わるわ。

「まあとにかく、案はないってことね」

「だってしょうがねぇだろ。なんかいくらディスクぶっ放しても効かなさそうだしよ。しかも今度は真澄人質に取られてるし……」

「必殺技とか無いの? 特定の敵だけぶっ飛ばすとか」

「それ何メタルパニック? あるわけねぇだろ」

「そのネタを知っているとは、なかなかやるわね」

 割と有名だと思うけどなぁ。

 俺の技量に頼るのを諦めた羽込は、立てた指をこめかみに持って行き数秒思案すると

「じゃあしょうがないわね。そうね、これでいきましょう」

「何か案があるのか!?」

 問うと羽込はウフフと不敵に微笑む。本当に敵に回したら怖そうだ。

「これ、学校休んでる間にあるご老人からお礼としていただいた品なんだけど」

 それは一枚のディスク。俺が今まで何度も見てきたそれと外面は何ら変わらない。というかやっぱり来なくなった理由はそういう感じなのね?

 羽込はそのディスクをリーダーに差し込むと、中のデータを出力した。

 そして出力したオブジェクトに手をかける。

「これをこうしてね……」

 そこまで聞いて、俺は察する。

「おまえ、ヤバイこと考えるな」

「ここまでの説明で分かるなんて凄いわね。そう、出力したこれを持ち上げてぶん投げるのよ」

「物理的!」

 知的戦略(物理)。たしかに攻撃力高そうだけど、それじゃあいつは倒せない。というかぶん投げるとか、非力な俺には無理。

「冗談よ。あなたの考えているとおりだわ」

 作戦は固まった。たしかにこれなら、あいつを出し抜けるかもしれない。

「しかし凄いな……。前から考えていたのか?」

「いや、今思いついたわ」

「正確の悪さがにじみ出てるな……」

「ほっときなさい。じゃ、異論はないわね?」

「ああ。じゃあそれで」

「テキトーね……。いつもファミレスに行ったとき『おすすめは何ですか?』って聞いて、『ああ、じゃあそれで』って答えているでしょう? 始めたばかりで経験の浅いバイトさんかもしれないのに、迷惑な客ね」

「んなことしてねぇ!」

「そうね、あなたに一緒にファミレスに行く友達もいないだろうし、一人で入る勇気があるとも思えないわ」

「お前最終決戦前に俺を轟沈させる気?」

 迷惑行為とかしないから。ファミレスも普通に行くから。一人だけど。

 わざわざ「一名様ですか?」って聞くのやめてほしいよね。見ればわかるじゃん。追い討ちかけたいの?

 俺には「え?ww ちょw マジ?www ホントに一名様なんですか?www」っていう煽りにしか聞こえないよ。

 このまま話してると真澄を助ける前に俺のHPが危険域レッドゾーンに達しそうだったので歩き出す。

 前哨戦でダメージ受けすぎだ。

「さ、いっちょ世界救ったりますかぁー」

「なんてダサいセリフのチョイス。あなたらしいわ」

 いいと思ったのに、全否定された上に貶された。

 全俺が、めっちゃ泣いた。

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