第22話 リフレクション

「何なんだよこのルパン的展開は!」

 迫り来るパトカーと逃亡する俺たちの画は、B級映画に出てきそうなワンシーンを彷彿させる。

「でも戦車なんて使ってないわよ?」

「それルパンじゃなくて○ルパンだから! というか戦車とか使われてたまるか! まあそれ抜きにしても十分やばい状況ですけどね!」

「ルパンはいいぞ」

「危機的状況下だからって思考放棄発言やめて……」

「その世界では乙女たちが盗んだ車で競売バトルを繰り広げる『盗難車道』というたしなみが」

「混ぜるな! そんなたしなみがあってたまるか!」

「混ぜ込むだけで犯罪になるわ」

「ただ混ぜ込んでるだけなのに!? じゃねーよ! もういいから! 混ぜ込まなくていいから!」

「日常に溢れるありとあらゆるモノを混ぜて新しい可能性に挑戦する『混ぜ込みドットコム』略して『マゼコム』ってサイト作ろうかしら」

「微妙に面白そうでリアクションに困るからやめろ!」

「どうでもいいけど『まぜこむ』って漢字にすると『まぜ込む』と『まぜ混む』があるけれど、『混ぜ混む』というのは誤用なのか調べ」

「頼むから前向いてくれ! あとで気になって調べちゃうやつだからそれ!」

 羽込は片手を離し空中に文字を書いていたが、俺が会話を遮ったので頬を膨らまし不機嫌そうな顔をする。こいつ曰く、俺たちを追っている連中の実態は警察ではなく、この運搬により不利益を被る別の組織らしいが、俺は詳しくは知らなかった。

「くっ、徐々に行動パターンが読まれるようになってきているみたいね……」

「いつもと違うのか?」

「ええ、全然早いわ。日によってルートや時間帯を変えているんだけど、そのデータから割り出したのかしら……。もしくは背後に別の組織が……」

 羽込は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 刹那。

 ガシャン! という音が響いた。

 どうやら後方から放たれた銃撃が、バイクのフロントガラスを撃ちぬいたらしい。

「とうとう当ててきたわね……」

「無茶苦茶だ! 連中はさっきのディストルって世界の人間なのか?」

「ええ、そうよ。あの忌々しい名前で私を呼ぶのは、あの世界の人間よ」

 『運び魔』。

 それは『魔女』以上に悪を象徴したような印象を受ける呼び名だった。

 バイクに損傷がないところを見ると、過去にダメージを受けたことはないようだ。

 まだ距離はあるが、先ほどの銃撃は下手をすると心臓を貫きかねないものだった。

 サイレンからの音とメガホンからの声、そして銃声が入り混じり、何もないはずだった境界空間は騒々しさを極めていた。

「私は運転に集中する。応戦して、飛沫くん」

「俺の攻撃なんかが通用するかよ!」

「ここに来る前に渡したあれ、持ってるわよね?」

 マジ? あれ使うの?

 俺は肩掛けのエナメルバッグから、超絶ダサい武器、もとい玩具を取り出す。

「ここに戦士、しぶキングの誕生ね」

 ビジネスバッグ型のディスクケースとディスク飛ばすおもちゃで戦う戦士って……。

 ほんと、あり得ないんですけど。しかし羽込の反応はいつも予想の逆を行く。

「ヤバ、飛沫くんめっちゃかっこいい……。惚れる……」

「えっ」

 頬を染めながら、今まで見せたことないような表情をしている。

 こいつマジ? 感覚おかしいんじゃねーの。

 俺が目を合わせようとすると、キャッと声を上げて顔をそらす。

 こんなところでフラグ立てるとか……。面白すぎるね?

 面白いけど、今は取り合っている暇はない。

 こいつの場合はどこまでが冗談でどこまでがマジなのかわからないし、反応に困ることこの上ない。いや、十中八九冗談だろうけど。

「とても対抗できるとは思えないんだが……。だってあいつら、銃持ってやがるんだぞ!」

 本当にこんな玩具で、俺なんかの力で、この数の警官に対抗できるのか?

 銃をもった、追跡のプロを相手に、一男子高校生の俺なんかが?

「大丈夫、あなたのその武器の方が……フフッ……強力よ」

「今ちょっと笑ったよね!?」

「だって、フフッ……それを真面目に構えてる飛沫くんがなんだかシュールで……」

「お前が寄越したんじゃねーか!」

 真顔で構えたら滑稽とか、受け取った時から気づいてたわ! だってこれどう見てもおもちゃだもん!

 そして遠方からも聞こえる嘲笑の声。警察の方も俺の姿を見るなり、キープしていた真顔を崩壊させて吹き出した。

 もう、みんなから笑われてるじゃん俺。敵も味方もあったもんじゃないね!

「何だあいつ、おもちゃ構えてやがるぞ」「付き添いか? いや、もしかしてあれが今回の荷物とか」「お荷物だけにね! あんなのバイクに乗せるなんて運び魔もついにおかしくなったか」「だけどあいつの重量の分いつもより遅い! ラッキー。追い付けそうっすね」

 言いたい放題である。

「もうどうにでもなれ!」

 俺は激ダサシューターを右手首にしっかり固定し手持ちのディスクを三枚装填する。手のひらを上にして左手を添えると、指先を標的である警察たちの方へ向けた。

「それはたしかにどう見てもト○ザらス……いいえ、し○むらのちょっとしたおもちゃコーナーに半額で積まれているようなおもちゃよ」

 ひどい言い草だ……。と言うかお前、例えみたいに言ったけど絶対しま○らのワゴンセールで買っただろこれ。

 でも、と羽込は続ける。

「あなたの力は確かなものよ。だから、」

 語気を強める。そこにどんな感情が介入していたのか、俺は知らない。

 だが、その目は……。

「見せつけてやりなさいな」

「おうよ」

 一切の曇りのない信じきった目は、俺自身を信じさせる力みたいなものを有していた。

 俺はショベルカーのアームを破壊した時と同じ要領で意識をそちらに集中させる。

 フウッっと静かに息を吐き、俺はセルフリードを発動した!

「飛べえっ!」

 祈るように叫ぶ。

 次の瞬間、何かが起こったことを察知し面食らったような表情を並べる警察たち。

 ヒュッと風を切り放たれた三枚の円盤たちは、空中で何度か太陽の光を反射し煌めいたのち、彼らが構えていた拳銃を真ん中から真っ二つに切り裂いた。

「何だっ!?」

 目の前で起こったことに驚きを隠せない様子だ。

 そしてそれは俺も同じだった。本当に、できた。

 意図してこの力を発動したのはこれが初めてなのだ。

 できるはずのないこと。まだ釈然とせず、信じきれていなかったこと。

 それが、本当にできてしまった。俺は本当に普通じゃないんだと悟った瞬間であった。

 しかし、今はそういう方向に意識を向けている場合ではない。

「次っ!」

 俺は次々にディスクを装填し飛ばしては、拳銃を破壊していった。もちろんそれを構えている本人たちに当たってしまえば大怪我間違いなしだ。それに関しては最大限気を使ったが、当たってもやむなしという気持ちも少なからずチラつかせた。当ててほしくなければその銃を下ろせ、という威嚇の意味も込めて。

 何が起こっているのか全くわかっていない様子の警察たちは、各々驚嘆の声を上げ、焦りを隠せない様子だ。

 ページを捲るような仕様になっているボックス型のケース。二枚ほど捲ったところで、俺はすべての拳銃を破壊しきった。

 拳銃のストック等を取り出す素振りもないし、いつ胸を撃ち抜かれるかと心配をすることもなくなった。

「グッジョブ」

 羽込は前を見ながら、親指を立てた右手をこちらへ突き出す。

 クールを気どりながらも照れを隠せない俺は、彼女が今こちらを向けない状況であることがありがたかった。

 為す術なく歩みを止める警察たちを眺めながら、俺は誰にも見えないところで小さく親指を立てた。

 見えないはずなのだが、それに応じたように羽込の横顔は愉快そうな表情だ。

 不思議に思ってハンドル付近に目をやると、キラッと、バックミラーに光が反射した。

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