第13話 四人だけのヒミツ

「さて、これも重要なのだけど」

 先ほどのやり場のない表情を振り切るような苗加の発言によって、議題は別のものに移される。

「僕たちは今後どう動けばいいか、だね」

「そう、今日のことを踏まえてどうするべきかを考える必要があるわ」

 そうだ。俺たちがそこに居合わせて、それに出くわして、何があったか。それも確かに重要ではある。しかしそれより、まずなぜそんなことが起こったのかを先に知るべきだ。

 そしてそれを知って、俺たちが取るべき正しい行動は何かを考えなくてはならない。

「正直、いつかこうなるのではないかと……思っていたわ。リーダーという超科学機器が普及してしまった時点で、こういうことが起こるのは必然だった。悪用され、事件が起こる。いつの時代もそれを取り締まる機関というのはそれを凌駕する技術を持たなくてはいけないわ。いいえ、例えそれを有していたって相手の量やその他状況次第で手に負えなくなることだってある」

 まるで随分前からリーダーの存在を知っているかのような口調だが……。気のせいだろうか。

「いいかしら。恐らく今日のようなことはこれから日本各地で起こり得る。仮に大人たちが躍起になって取り締まったところで、他の犯罪と同じようにそれは穴をつくように実行されるでしょうね。つまり今の状況は、手のつけようがないの。そしてその、恐らく一件目の事件に遭遇したのは私たちと、事件をいまいち現実の出来事だと思い込んでいない小学生たちだけ。さて、私たちはどう動くのが正しいのかしら」

 苗加は自分の意見を持っている様子だが、念のためといった様子で俺たちに問いかける。

「第一に浮かぶのは、然るべき機関への連絡だよね」

「そうなるな。力量的にも範囲的にも、俺らだけでどうにかなる問題じゃない。警察に通報しよう」

 そこで苗加が、別の側面からの意見を述べる。

「一見妥当な意見だけど、それは安易だわ。前述したように、リーダー悪用については誰でも思いつく。その可能性は、リーダーが普及した時から政府や警察といった機関だって視野に入れているはずよ。その可能性を私たちが指摘したところで、状況が変わるとは思えないわ」

 彼女の発言には、妙な説得力がある。普通と違うことも言っても、その正しさに絶対性を感じてしまうから不思議だ。でも、と苗加は続ける。

「そんな誰でも思いつく悪用を世間、つまり民衆たちはそれほど恐れていない。これは半年前までほぼ絶対的だった警察への信頼の名残なのかもしれないわ。私がさっき、手のつけようがないと言ったのは、国家として事件に対処する明確な方法がないということ。警察がそれを一切知らないという意味ではないわ」

「よくわかんねぇな。つまり何が言いたいんだよ」

「今日のことは、その日本全国で起こり得ることのうちの一件に過ぎない、ということよ。狼にもきっと出力主がいるはず。そいつの顔どころか影も一切見てないんだから、私たちが提供できる情報なんて何一つないわ。そいつがどうして狼一匹だけを小学校に投入して、同時に数匹、もしくは第二波以降を放ってこなかったのは謎だけど、不幸中の幸いね。ここで考えて欲しいのだけど、私たちが警察に連絡したらどうなるかしら?」

「警察は高校生の戯言たわごとと判断する。または信用してそれを広い範囲にしろ狭い範囲にしろ、報道する。なんにせよ完全には隠蔽するわけにはいかず、ごまかしきれない事件の一つとして処理しなければいけなくなる……ってことか」

「そう。情報規制で報道を自粛するには、ことが少し大きすぎるわ。つまり、前者の場合は何も起こらない。後者の場合、社会的にリーダーへの不信感が世間に浸透する。でもそれが、犯人の目的だとしたら?」

 何度目かわからない問いかけだが、俺たちはその迫力故に皆動くことができない。

「私たちはリーダーへの不信感を煽って犯人の片棒を担ぐようなことになる。リーダーの悪用に対処する方法がないことが世間一般の常識になる。それはこの国の色々なバランスを崩壊させるわ。今この国は、国民の無意識な依存、リーダー取り締まりへの絶対的な信用によって成り立っている。事件が起こるのは恐らく時間の問題だったでしょうけど、さっきの件で被害者は結局一人も出なかった。でもそれは、犯人にとってそれほど予想外の事だったのかしら? これは本当に傷害未遂事件? そして仮にそうであるとして、私たちが一切の情報を持たずして報告することによる私たちへのメリットと、国へのメリットは?  警戒レベルも上がらないし、対処できないことも変わらない。上がるのはリーダーへの不信感のみ。さて、然るべきところへの報告、これって素直に良いことだと思う?」

 長い話を終えた苗加はふぅと一つ息をつく。よくそんな考えを咄嗟に思いつくものだ。

 どうやら普段の冷静さを取り戻したようで、安心する。

「要するに、報告してリーダーへの不信感を世間に持たせることが犯人の目的で、俺らが報告することがそいつの思う壺である可能性が僅かながらある。そして俺らには提供できる犯人に関する情報がない。だったらそれをしない方がいいかもしれないってことだな」

 自分の中で情報を整えながら、それを言葉にして脳に正しく認識させる。それがさらに反対意見を仰いでしまったようで、自分と真逆の意見をもつ苗加に対して、居鶴は声を上げる。

「そんな、僕は反対だよ! 僕たちが今日の件のわかる限りのことを報告することで、大人たちなら違う視点で何か気づいてくれるかもしれないじゃないか」

「朝霧くん、それは幻想よ。大人はそんなに有能じゃない。そもそもそれほど強い存在なら、私たちが今日の一件にあんな形で携わることはなかった。生徒たちも危険な目に遭わなかったかもしれない。でも、あの場には大人の一人も現れなかった。いたのは私たちも含めて未成年、子供だけ。それが現実なのよ」

 苗加のその言葉に、俺は妙に納得した。そうだ。大人だろうとなんだろうと所詮人間。成人と認められる二十歳で線引きされているのは人間の本質ではない。それは単に、生まれてから経過した時間を基準としたカテゴリ定義の線。クズはいつまでたっても、クズのままだ。

「だからといって、私たちでどうにかしようということではないわ。どうしようもないから報告しない。要はそれだけのことよ。次のターゲットもあの小学校かもしれないし、そうじゃないかもしれない。そんなの誰だってわかることで、誰もわからないことなのよ」

「あんなことがあって何もしない……? 本当にいいのか不安なの……。でも今の話を聞いた限りだと、安易にそれをすることが必ずしも良いことじゃないことはよく分かった」

 苗加の話を真剣な面持ちで聞いていた真澄は、釈然としないながらもその意見に納得したようだ。

「ダメだぁ。僕はムズムズして落ち着かないよ。まるで悪いことをしてるみたいな気分だ」

 妥当、当然、正しい。そう理解しながらも元々の考えからどうも脱却できない様子でいる居鶴は嘆く。

「でもしょうがないだろ。今苗加が言ったことが多分、少なくとも今俺たちが思いつく最善で、正論なんだからよ……」

 静まり返る客間。皆複雑な思いが脳内に渦巻いていることだろう。

 話していた当人も、本当にこれでよかったのだろうかと思っているに違いない。

 その不安からか、今までにない神妙な面持ちをしている。わずかに震えているようにも感じる。

「さて、真面目で長い話が終わったところで、みんなに言いたいことがあるわ。これが一番重要な案件よ」

 その真剣な面持ちに、皆息を呑んだ。部屋は異様な緊張感に包まれる。

 落ち着かない様子の苗加は一呼吸置いて、言い放った。

「せっかくのお泊りよ! 大富豪やりましょう!!!!!!!」

 あ、トランプ我慢できなくて震えてただけですか。

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