第12話 宇宙人的試験必勝法
もうすぐ夏休み、しかしその前には全ての高校生の敵、期末試験が立ちはだかっている。
パーソナルデータベースで大量の情報を閲覧できる星宮はさておき、普通の人間の頭脳しかないオレは、せいぜい試験前にヤマを張って暗記するくらいしか対抗策がなく、下手をすると夏休みを補講で過ごす可能性もある。
「なぁ、星宮さん」
オレは普段とは違う丁寧な言葉で星宮にお願いをする。普段はあいつのお願いを聞いてやっているのだから、こういうときくらいオレからのお願いを聞いてくれてもバチは当たらないだろう。
「何? 前田君」
「簡単に試験の成績が良くなる方法とか知らない?」
「ない」
前よりは柔らかくなったとはいえ、基本的に星宮は
「え~っ、いつも色々協力してるんだから、たまにはオレを助けてくれたっていいだろう?」
いや、星宮の言うことが正しいのはわかっているけど、ちょっと慰めてくれてもって思っただけだったんだけど……
「わかった。前田君が
「……いや、もうちょっと簡単な方法を」
「勉学に近道なし」
ひと言で切って捨てられ、けっきょく学校が終わってから毎日、星宮の家で勉強会をすることになった。
とはいえ、星宮は特に勉強しなくてもいいので、実質オレが勉強するように監視する役だ。
初日は数学。テスト範囲の最初のページを開いたところで先に進まない。そもそも理解するための下敷きになる知識がないので、そこで説明している内容もわからない。つまり数学というのはどこかでつまずいたらそれ以上先に進むのは難しい学問らしい。
「星宮、ここがわからない」
「これは、××△□で……」
「そもそも、そこがわからない」
「そこは、〇〇▽◇だから」
「う~ん、そっちの意味も分からない」
延々さかのぼった結果、ほぼ中学の数学を最初から復習し直すことになった。おかげで5時間も数学だけやり続けることになったが、ようやく問題の意味することがわかるようになった。
「今日は遅いからもう時間切れ」
「た、たすかった……」
くたくたの抜け殻のようになって自宅に戻り、夕食もそこそこにベッドに倒れ込む。オレの頭では星宮のスパルタ勉強法にはついていけない。次の日、学校で星宮にこのやり方ではムリだと告げた。
「……そんなことじゃあ地球は征服できない」
「いや地球を征服するつもりなんて、サラサラないんですけど……」
「……そんなことじゃあ、学年で
「学年でトップを獲るつもりもないんですけど……」
「……進級できない」
「そ、それは困るかな……」
ということで、進級できるくらいの力加減で、改めて協力をお願いすることになった。
「基本的に学習は、効果的に繰り返し行うことに尽きる」
「なるほど」
「脳科学的には、自分から好きで行うことが効果的」
「ほうほう」
「だから、繰り返し学習の手段と、やる気の出る
なんと、星宮は各教科ごとに模擬期末テストを多量に用意し、その成績が良かったらご褒美を出してくれるという。
ご褒美として用意されたのは、肩もみ券とか膝枕で耳掃除とか、そのうち面倒になったのか、上の方はデート券とか、何でも言うことをきく券とかになっている。
オレはご褒美につられて、片っ端から模擬テストをやったが、当然正解率は低く、最低ラインの肩もみ券しか貰えない。
「不正解の問題をちゃんと理解し直すこと」
そう言いながら、ぐったり疲れたオレを星宮は肩もみしてくれた。
それでも星宮の協力プランはちゃんと考えられているのか、オレのやる気が萎えないギリギリを維持し、次第に繰り返し学習の効果も出て来て正解率が上がっていった。しかし、もともとレベルが低いので上がったといっても安心できるレベルには程遠い。
「さらなるブーストが必要」
星宮はそう言うと、やおら胸元のボタンをひとつ外し、斜め45度から
しかし、写真を開こうとすると『パスワードを入力してください』と表示され見ることができない!
「その写真のパスワードは70点以上取ったら教える」
星宮はそういうと、さらにきわどい写真を撮り、
「これは80点」
「こっちは90点」
と、どんどん写真を送りつけてくる……くそっ、なんて
オレは教科書を食い入るように見て、模擬テストの不正解を理解し、テストを受け直し続けた!
家に帰ってからも必要な時間以外はすべて不正解の問題の理解に費やした。通学時間、休み時間、さらには授業時間中(!)も。おかげで、来週からは期末試験というその週末に、なんと最初のパスワードを入手できる点が取れる程になった。やったぜ! 期待のお宝写真は……えっ、なにこれ? たしかに第二ボタンまで外して胸は見えてるらしいだけど……ピントは星宮の顔に合っていて肝心のところはボケている(怒)!
星宮に抗議のメールを送ると、『そうだったの? ふふっ』ってヒドいぢゃないか!?
『次の写真はボケてないから』って、こうなったら意地でも80点をクリアしてやる!
さらに二日。もう試験期間に突入しているけど、その教科の試験があるまでは有効って言い張って模擬テストを受け続ける。夜の12時に『もう、これが最後の回』と言われながらやった模擬テストでなんと92点!!!ついに次の写真のパスワードGET!!
添付されていた写真をクリックしてパスワードを入れると……げっ! たしかに今度の写真はピントぴったりだった。でも、あんまりにもくっきりはっきり写っていたのはスカートの中に穿いていた黒のアンダーショーツ……色気も何もあったものじゃない!
傷心のままベッドに倒れ込み、何も考えず寝てしまった。翌朝は期末試験最終日、もう何も考えずに機械的に問題を解いて試験は終わった。試験も終わり後は夏休みを待つばかりの頃、授業は試験結果を返してそれを確認するというゆるい内容。順番に名前を呼ばれ、受け取った答案用紙が信じられないことになっていた。
ん、ぜろ?ぜろ?……げっ!
得点欄には下二桁が00。そして一番上の桁に1が付いていた。
ひゃ、ひゃくてんっ!!
その声を聞いてまわりの奴らが一瞬、ざわつく。そりゃそうだ、赤点取らなきゃOKというレベルの奴から聞ける数字じゃない。それこそカンニングか名前間違えを疑われるべきところだ。
「しずかにっ!」
先生の声にざわつきは収まりし~んとした。
「今回のテストは特別簡単にしたつもりはなかったが、思いがけず高得点を取ったものをいるだろう。反対に思ったより点が良くなかったというものもいるはずだ。それはひとえに普段の影の努力だと思う」
その後も何か話していたがオレの耳には入ってこなかった。がんばったのは事実だけど、百点!?……オレそんなにできる奴だったのか?! というかこれって、星宮……星宮の教え方の勝利だろっ! そう思って前を見ると、あいつが体を少し後ろに向けて、ニッコリ笑いながら小さくVサインをしてくれた。
下校の時間、星宮にお礼を言おうと思ったのに用事があるからの早く変えられてしまった。しかたなく、一人で帰る道の途中で携帯がメール着信を知らせた。
『おめでとう♡ 百点取れたのはタカシががんばったからだよ。ご褒美に教えてあげる。最後のパスワードはkissmeだよ』
あわてて、携帯を落としそうになりながら、前にもらった写真をクリックしてパスワードを打ち込む。出てきたのは……
はずかしそうに腕で、胸と下を隠しながらキスをするようにくちびるを近づけて撮った有希の
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