第9話 どきどき恋愛シミュレーション
というわけで、改めて付き合ってるカップルがやりそうなアレコレを、星宮といろいろ体験して感情の変化を記録するという、ある意味メチャクチャ恥ずかしい実験をすることになったんだけど、第一回目のテーマは、『登校時にパンを咥えて走っていて、曲がり角で異性とぶつかったのがクラスメートだった』というやつだ。こんなこと現実には絶対あり得ないとオレは抗議したが、『多くのマンガとかラノベに出てくるという事は、そこに普遍的意味があるはず』という星宮の主張を覆すことができず、やってみる破目になった。
『どこでぶつかるかわかっていたら意味がない』と何とか星宮を言いくるめ、ぶつかるタイミングはオレの好きな時にやっていいことになったが……なるべく学校から遠くて知り合いに見つからないという事で、星宮のマンションを出た最初の角で決行することにした。逆に近い方が意表をつけるかもしれないしな……おあつらえ向きに、あの場所はマンションの方からは立木に隠れているが、直交する坂の方からは足元が隙間になっていてタイミングを取りやすい。しかも少し下りで勢いも付けやすいしな。
朝6時23分。早めの時間なのは周りの人を巻き込まないためだ。星宮が食パンを咥えながら意味もなく(全然、遅刻しそうな時間じゃないのに)タッ、タッ、タッと走ってくる。よし、来たぞ!オレはそれに合わせて徐々に速度を上げながら走り込む。
「あっ!」
「(わ、ひゃつ)!」
ドンという衝撃と共に何か小柄な塊とぶつかった! 瞬間オレは気が付いた。星宮は宇宙人だから無意識に人間離れした能力を使ってくる可能性があるかも(気が付くのが遅せぇよ!オレ)後悔と共に、オレは宙を舞い車道に墜落し全身をしたたかに打った。
「ぐっ……」
オレはマンガと現実との違いを認識した。マンガじゃあ割と平気で立ち上がるけど、現実にはとても無理だ(後から考えたらこれって、リアルな交通事故なんだから当たり前だ)。
「だいじょうぶ?」
ぼやっとした意識の中で何か話しかけられてきた……気が付いたら、天使の顔が目の前に……いや、その他にも結構多くの天使じゃない顔もあった。ここは? 気がつくと大勢の人に覗きこまれながら路肩で星宮に頭を抱えられて倒れていた。
結局オレは脳しんとうを起こし10分程度意識が戻らなかったらしい。気が付いたら道路の脇に寄せられて、何人もの道行く人が心配そうに見つめる中、星宮の冷静な判断(まわりの人が救急車を呼ぼうとするのを『脳には問題がない。軽い脳しんとうだからしばらくこのままいれば大丈夫』と言って見守っていたそうだ)により、オオゴトにならずにすんだ。
後から聞いた話だが、星宮は宇宙人的な力など発動したことはなく、純粋に運動エネルギーの総和であれだけ吹っ飛んだらしい。オレは脳しんとうを起こしたのに星宮が何ともなかったのも宇宙人的何かではなく、(星宮曰く)ぶつかった瞬間、無意識にオレが星宮をかばって抱え込んでくれたので、どこもぶつけたりしなかったらしい(おかげでオレは背中から落下し、さらに頭を打った)。そう言われれば、オレのワイシャツの胸の辺りに星宮が食べてたパンのバターらしき油染みができていた(ワイシャツは星宮に強引に持って行かれて洗われてしまったが)ということは、その時はオレは星宮を力いっぱい抱きしめていたはずなのだが、ぜんぜん感触とか記憶がない。まさにぶつかり損だ(しいていうなら、その後の星宮の態度がなんとなく変わった気がする程度か……あくまで、なんとなく程度だけど)。
実験結果
オレの感想:『パンを咥えて走る人にぶつかるのは、めちゃくちゃ危険だから止めた方がいい』
星宮の感想:『バターの染みは、なかなか取れない』
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