第4話 祝、リア充デビュー!

「おまえらさー、付き合ってるの?」

翌日、自分の席で授業が始まるのを待っていると、突然となりの席の男が声をかけてきた。

「えっ、付き合うって誰と?」

「お前と星宮に決まってんだろー」

と言って、けだるそうに誰も座っていない星宮さんの席に視線を飛ばした。

そう、星宮さんは今日は休みらしい。

昨日の感じでは特におかしなところはなかったが(いや、おかしいところだらけだったという言い方もできるが……体調が悪そうだったかという意味では、特に問題はなさそうだった)欠席している。

「まあ、付き合っているっていうか……」

あいまいなセリフでお茶を濁す。客観的に見ると、すげー嫌なヤツって感じ? 『オレくらいになると、付き合ってるかなんてそういうのってあんまり気にしてないんだけど』って言ってるようだ。まさか自分がこんな優越感に浸れるセリフを言える日が来るとは思わなかった。実際にはアドレスを交換しただけでコクったわけでもコクられたわけでもないんだけど……まあ、バレるまでは思わせぶりな態度を取るのも許してもらおう。

「けっ、いいよなぁリア充めっ!」

「でも、どうしてバレたんだ?」

自分で言っていながら、どうしてこんなナチュラル嫌みなセリフがポンポン出るんだろうって驚いてしまう。

「……はぁ? あんな自己紹介をして、そのまま一緒に帰ったら、そう思わない方が不思議だろう……とにかく、これで我がクラスのフリーの女子枠がひとり減ったっていうことだ。 嘆かわしい!」

そんなセリフを聞きながら、星宮さんをホントに自分の彼女に出来たら……という小さな欲望あくまのささやきが浮かんできた。まだ知り合ったばかりなのに。


「前田君、これ星宮さんに渡しといてくれるかなぁ?」

放課後、帰ろうとするとクラスの女子からそう言われた。今日のホームルームでクラス委員に選ばれた、朝ナンチャラさんだ……なんだっけ? え~と。 アサクラ? アサクマ? いや、なんか違う……そう、アサクボさんだ。

「えっ、オレが? なんで?」

オレの不思議そうな顔に、朝窪さんは、さも隠したって知っているわよという笑みを浮かべて

「仲いいんでしょ? 彼女と。イヤだったら私が渡しに行ってもいいんだけど?」

まあ、住所は知ってるし帰り道だから別にいいけど……っていうかクラスメートの女子の家に行くなんて、今までの人生では絶対ありえなかったよな。なんか青春っていう感じでイイよなあ……そんなふうに思うと、これはすごいチャンスなような気がしてきた。

「……いや、いいよ。 オレが渡しとくよ!」

せっかくの機会を失ってナルモノカという衝動で、朝窪さんから連絡のプリントを受け取ると急いで帰ることにした。


 ちょっとドキドキしながら、昨日教えてもらったマンションへ向かう。この辺ではめずらしい高層マンションだから間違うはずはないけど、行ってみたら住んでいないということはありうる……『断るとやっかいだからウソの住所を教えちゃえ』っていうやつだ。軽い女子ヤツはわりと平気でそういうことをするのもいるらしい。人生のショッパイ経験ってやつだ……なんて余裕カマスのもありかもしれないが、もしそうならプリントが渡せない……明日、学校でプリントを渡すのをクラスメートに見られたら、さっそく付き合ってないのがバレてしまうかも……引き受けるのハヤまったかな? そんなことを考えながらマンションのエントランスまで来てみると……本当に星宮さんの表札がそこに出ていた。

インターホンを鳴らし、入口を開けてくれるように言うと『あなたを入れるべき理由は?』と冷たいことを言われてしまった。住所まで教えておいてそれはないだろうと思う反面、常識的に考えて彼氏でもない男をそう簡単に家に上げるわけないなとも思った。『連絡のプリントを持ってきたから』って言っても『じゃあ、1Fの集合ポストに入れておいて』で終わりのような気もする。せっかく家まで持ってきてやったのにそれだけじゃあちょっと悲しい気がする。何かないか……負けねぇぞチクショウ。オレはカイ・シデンにでもなったかのようにつぶやくと必死に考えをめぐらす。


「ま、まああれだ……表敬訪問ってやつだ。 ほら、国同士でもお互いに裏で変なことはしてませんよっていうのを見せるために、相手の国を訪問し合ったりするだろう?」

『相互友愛親交条約』を結んでいるんだから正当な理由だと思ったんだけど、……何も返事がない。もう結構長い間、インターフォン越しに待たされている。せめて何か一言、返してくれよぉ……ワザとらし過ぎたかなぁ、まぁ普通に考えればクラスの女の子の家に表敬訪問ていうのはヘンだよなぁ。……それが認められるんなら日本中の男子高校生がクラスの女子の家へ表敬訪問やら交流レセプション外交活動と称して訪問しまくりの、上がり入り込みまくりだよなぁ…………5分経過。考えがどんどん悪い方に向かう。ひょっとしたら、もう警察に『不審者が家の前にいます』って連絡されていたりして……『ごめんなさい! ちょっと悪ノリが過ぎました。もう帰りますから許して下さい』ってインターホン越しに土下座して叫びそうになった頃、『許可が下りた』という声とともにドアが開いた。



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