第2話 自己紹介という名の戦場

「それでは、これから自己紹介をしてもらう。クラスメートとして、また同じ学校の生徒として3年間過ごしていく仲間になるのだから、きちんと挨拶するように」

 入学式が終わり、クラスに分かれると担任の先生がそう告げた。そんなこと急に言われたって、気のきいた挨拶なんてできるはずない……というのは素人ダメなヤツの考え。オレはこの為に、ちゃんと準備練習トークの勉強をして、ここに臨んでいる。


 今の学校生活では、生徒同士の階層構造ハイアラキーが絶対だ。ごく少数の天才や運動部のエースのような評価が落ちることのない最上位者のうりょくしゃ、その次にはコミュニケーション能力に長け、学校生活を満喫できるリア充階級しはいしゃ。その下は、僅かな優劣やタイミングによる浮き沈みに汲々きゅうきゅうとして生きる一般レベルノーマル。さらに一般であることを諦め、自分たちだけの世界で生きることにした最下層おた○達がいる。

 そうした中で自分の地位ポジションを変えることのできる数少ない機会チャンスが入学直後の限られた時期だ。なかんずく最初の自己紹介は、過去を切り捨て新しい人間関係を作るための重要なイベントだ。人生のターニングポイントだと言ってもいい。


 とはいえ、あんまり気合を入れすぎてカラ回りしても逆効果になる。みんなにドン引きされ、変人の烙印を押されては、その後の学校生活に大きな支障をきたしてしまう。まわりのヤツの発言を聞きながら、うまく流れを捉まえてウケをとり、『出来るヤツ』という評価を得ることが大切だ。さて、このクラスの面々はどんな自己紹介話術スキルを見せてくれるのか……


「このクラスに宇宙人、未来人、超能力者がいたら……今すぐ名乗り出てください。 ちなみに私は宇宙人の朝倉 涼子ではなく、普通人の朝窪 涼子(あさくぼ りょうこ)です」

うぐっ……しょっぱなからこれか。古いけれど自分の名前が某アニメのキャラに似ているんで持ちネタにしてるんだろうな。出だしの一発目だしインパクトは十分ってわけか……


「あなたのハートはホットですか?クールですか?私のハートは限りなくクールに近い人肌。 あなたのハートで温めて欲しいな♡ さっしーこと斉藤志信(さいとう しのぶ)です」

……オレにはよく分からないが、どっかのアイドルの自己紹介のパクリらしく、一部の人間にはウケていた。惜しむらくは本人がカワイイ女の子ではなく、むさ苦しい男だという点だけど。


 みんな、それぞれガンバってネタを仕込んでいる。さて、どうするオレ? この流れで外さない自己紹介セルフアピールは何だ……やっぱり、名前ネタか? それとも前のヤツの話題に乗っかって話を盛り上げるか? それとも自分の得意分野でもアピールするか……でもそういうのは興味ないヤツには全然、刺さらないんだよなあ。そんなことを考えていたら、もう前の女子まで順番がまわって来ていた。そして、その女の子は立ち上がってまわりを見回してから、

「星宮 有希(ほしみや ゆき)です。黙っていようと思いましたが、私は本当は宇宙人です。隠そうとしてごめんなさい」

それだけ言うと、あっさりと話を終わって席についてしまう……当然、クラスの他のヤツはリアクションに困ってしーんと静まってしまっている。


 ああ、やっちまった……こういう流れをぶった切った話をすると周りが付いていけず、白けちゃうんだよな。めちゃくちゃ気まずい沈黙が漂う……どうすんだ?この展開。オレもあっけにとられて、そのまま対策を思いつかないうちに立ちあがってしまった。拡がる沈黙がつらい。こんな難しい状況を盛り返すなんてオレにはまだ難易度が高すぎだ……ええい、くそ。もう、どうでもなれ! オレはアタマに浮かんだままをしゃべることにした。

「前田 孝志(まえだ たかし)です。黙っていてスミマセン。オレも本当は宇宙人です……地球星人という意味で。 よろしくおねがいします」

さっきのに輪をかけた冷たい沈黙……ああ、みんなの視線が痛い。しかし一拍遅れた後、誰かの『くっだらねー』の一言で笑いが広がった。

ああよかった。結果オーライ、奇蹟の逆転ポテンヒットって感じか! オレは胸をなで下ろしながらイスに座った。

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