第3話 悪の生き様
その1
「ある宗教法人のセミナーに潜入調査?」
翌日、メールの依頼のための作戦会議が開かれ、資料を見て、怜が開口一番言った。
「はい。どうやら、犯罪者予備軍を育成しているという情報があるらしく、ワーストの面々にどうしても、やって欲しいと警察上層部から直々のメールが来てました」
「アイツら、俺たちを小間使いと勘違いしてないか? 俺たちはそういうことを素直にハイハイと言ってやるような人間じゃないということを重々承知だろうに」
ワーストには警察に因縁を付けられた者が数人いて、司法取引みたいな形で捜査協力をしたり、潜入調査をさせられたりしている。しかし、どれも内容は警察が嫌がるようなモノばかりで、ワーストの面々は嫌々やっている。
「潜入捜査なんて回りくどいことをせずとも、私の自白剤を飲ませれば一発だと思うのだが」
そうイリサは毒々しい蛍光ピンクの液体を見せ付ける。
「うわっ。イリサの作った薬なんて、生死の境を彷徨いそうで絶対飲みたくない」
「イリサさん、温厚にいきましょうよ。その自白剤で何人もの尊い犠牲が出てくると思うので」
纏がそう制止すると、イリサは舌打ちをして自白剤を白衣のポケットにしまった。
「まぁ、こっちの方が本業っちゃ本業なんだけどなぁ、なんか釈然としないなぁ。よし、後で上層部からは大金をふんだくることで決定」
怜が決定を決めたところで、纏が説明に入る。
「とりあえ、セミナーに入る潜入班と、潜んでいく隠密班。あとサポート班に分かれていきたいのですが」
「潜入班は、助手と新三郎くんで決まりだろ」
「えぇっ!? なんで我が!」
怜のご指名に納得のいかない新三郎が立ち上がる。
「だって、セミナーに潜入するってことは相手側に警戒心を植えつけられないようにしないといけない。ということは、いかにもカモそうな奴が行ったほうがスムーズに進むとおもうのだよ」
「我のどこが引っかかりそうな気がするのだ! 証明してみよ!」
怜はそんな新三郎に向けて、紐でくくりつけた五円玉を取り出した。振り子運動のように一定のリズムで揺らし始める。
「さぁさぁ、この五円玉をじっと見つめて。あなたはだんだん瞼が重くなっていき、やがて寝てしまう」
最近でもあまり見ない催眠術の方法に、新三郎が鼻で笑った。
「ハッ。そんな古典的な方法でこの我が寝るとd……Zzz……」
「早っ。いくらなんでも早すぎるよ、新三郎君!」
完全に寝てしまった新三郎の顔の前で、怜がパァンっと猫騙しの如く手を叩いた。
「ふ、ふえっ。ま、まさかこの世界のマスターであるこの我があの催眠術ごときで寝てしまうだ……と。まさか、コレは伝説のオーパーツなのでh」
「はいはい、新三郎くんは暗示にかかりやすいということで潜入役決定な」
新三郎の長くなるであろう話を途中で中断させ、強制的に潜入役に決定させた怜を、新三郎は涙目でポカポカ殴っていた。
「ポカポカ殴らないでよ全く……。助手も潜入役でいいな」
纏もあまり乗り気がしないらしく、嫌そうな目で怜を見た。
「助手なら大丈夫だろう? 万が一何かあったら奥の手を使えばいいし」
「その奥の手が嫌なんですよ。いつでも使えると思わないで下さい」
「はいはい。重々承知していますって。で、隠密班は俺と鈴花と芽衣で。頼むよ」
芽衣は張り切った様子で手をゴキゴキと鳴らす。
「久々に暴れていいんだろ? 腕がなるね」
「芽衣さん、出来るだけ攻撃する人は最小限にしてくださいね」
「分かってるって」
鈴花は芽衣に諭すと、芽衣は軽い口調で答えたので、イマイチ不安が抜けない鈴花。
「万が一のときは俺が止めるから大丈夫だよ、鈴花」
「いえ、いけません。怜様になにかあったらそれこそ私……」
やや屈んだ体勢で震える鈴花に怜は彼女の頭を軽く撫でた。
「大丈夫だから……ね?」
「怜様……」
二人だけの空間が広がりそうになった時、イリサの咳払いが聞こえた。
「コホン、私はこの甘い空間をぶっ壊せばいい役に回ったら良いのかねぇ? そういうことなら喜んで、今すぐにでもぶち壊して差し上げるが?」
イリサは白衣のポケットから色んな色の液体が入っている試験管を次々と取り出す。
「そんな物騒なものしか出せないから、女性にモテないんですよ。狂人風情さん」
「その口を塞ぐように接着剤も追加しようか?」
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて」
いつもの如く、誰かが喧嘩を始めようとすると纏が止めに入るという流れ。
「イリサと空音はとりあえず待機組だね。現状を見ておかないとどう動けばいいか分からないし」
「はいはい、りょーかい。何かあったら研究室の方へ電話を寄越せ。いいな」
イリサは試験管を再びポケットにしまい、研究室へと篭もっていった。
「とりあえず、潜入捜査を開始しようじゃないか。新三郎と纏は何か身の危険を感じたらすぐ逃げること、いいね」
「はーい」
「場所は纏から地図を貰ってくれ。それじゃあレッツゴー!」
ワーストの活動班の一同は宗教法人にむけて出発した。
***
ワーストが向かっている宗教法人の一室。白いポンチョを身に纏っている男が机に肘をつけてガタガタを震えていた。
その男の横で校章が縫いこんである紺ブレザーを着ている男子高校生らしき青年が男にやさしく笑いかける。
「どうしたんです? そんなに震えて」
「当たり前だ! こんな大事になると俺は考えてなかったぞ。警察がきたら俺は一貫の終わりだ」
「大丈夫ですよ、警察は絶対に来ないですから。来るのは、貴方が望んでいた不老の実験体ですよ」
青年の言葉に男の震えが止まった。
「それは本当なんだろうな?」
「えぇ、本当ですとも。貴方の長年の夢だった不老の研究がついに実を結ばれるのです。老いることなく1500年も行き続けている人間を実験台にすることによって夢は実現することでしょう」
「俺の、俺の夢が叶う……、俺の! 俺の!」
男は半狂乱で机をドンドンと叩く。
「おっと、興奮すると血圧が上がってしまいますよ。僕の言う通りにすればいいのです、しくじらないで下さいよ? 僕はこれで失礼するので」
「おぅ、分かった」
男に見送られ青年は部屋から出て行った。
「さて」
建物の薄気味悪いほど白い廊下を歩きながら青年が小声で呟く。
「不老の青年達のお手並み拝見と行きますか。弐沙、簡単に呪いが解けるなんておもうなよ?」
青年はそう言って、廊下の奥へと消えていった。
Worst 黒幕横丁 @kuromaku125
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