その2
洒落たオープンカフェが立ち並ぶ界隈。纏と新三郎は喫茶店で休憩を装って、道を隔てた隣のカフェにいるターゲットを観察していた。
「フン、こんな回りくどいことをせずとも、我の千里眼を駆使すれば、ターゲットの動向なんてあっという間に分かるものを」
「そういって、使えたことあったっけ?」
纏は頼んでいたカプチーノを啜りながら新三郎に聞くと、大量の冷や汗をかきながら新三郎はあさっての方向を向いた。
「それはたまたま調子が悪かったのだ。そうに決まっている」
新三郎はカフェオレを飲んだ。カップを持つ手はプルプルと震えており、中の液体が若干ではあるが零れる。
「ふーん。じゃあ、僕の今思っていることが分かるの?」
そう問われて、新三郎は纏の目をじっと見つめる。
「お主ほど、分かりやすい人間は居ないぞ! ズバリ当てて見せよう。お主は【ここの喫茶店のパフェが食べたくて仕方が無い】と思っている!」
新三郎がズバーンと纏を指差して答える。纏は冷めた目で新三郎を見つめるだけであった。
「あれ? ハズレ?」
「先生じゃないんだから。それに僕、甘いものそんなに得意じゃないし。正解は、『そろそろ夏フェスの時期だし、新しいバンドでも発掘しようかなぁ?』でしたー」
「くっ。我の千里眼さえも騙す能力の持ち主。卑怯なり!」
新三郎は悔しさで喫茶店のテーブルにおでこを何度もぶつける。
「お店の迷惑になるからやめなよ。って、そんなことしていたら、ターゲットに異性が接近しているよ、新三郎君」
纏と新三郎が隔てた隣のカフェのオープンスペースに視線を向けると、そこには依頼人とは違う女性がターゲットと仲良さそうに話しているように見えた。
距離とガラスに隔てられ会話は聞こえないが、纏はその会話の様子を見ながら、喫茶店に置かれていた紙ナプキンに何やらボールペンで文字を書き始める。
「お主、会話が分かるのか!? 我以上に千里眼の持ち主だったとは……、恐れ入った」
纏の摩訶不思議な能力に関心する新三郎。
「違うよ。読唇術って言ってね、唇の動きを見ながら会話の内容を紐解いていく技術だよ。それにしてもこの二人、これからプレゼントを選びに行くみたいだね」
纏が書き留めたメモには、【プレゼント・百貨店・予算・喜ぶ・嬉しい】などの単語が書き連ねていた。
「プレゼント? 一体誰の?」
「それは、尾行したら分かることだとして、それにしてもターゲットと一緒にいるあの女性、何処かで見たことあるような……」
纏が女性をまじまじと見つめながら考えると、ターゲット達が動き始めた。
「あ、動き始めた。新三郎君、僕たちも動くよ!」
「了解だ。我のさらなる能力を存分に……」
新三郎は前髪がかかったほうの目を右手で覆う。
「いや、そんな暇ないからっ! ご馳走様でした!」
レジへ伝票と代金を置いて、二人は尾行を始めようとした。しかし、入り口で黒服とサングラス姿の男性数名に先を阻まれる。
「すいません、通してください。急いでいるので」
纏の言葉に男たちは耳を貸そうともしない。それどころか、纏と新三郎の首根っこを掴んで、喫茶店の路地裏に連れ込む。
「なっ、何をするんですかっ!」
ゴミ袋の溜まったところに投げ込まれた二人。あまりの出来事に、新三郎は纏の横で子犬のように震えていた。
「こちらも依頼された身でね。君たちの行動を妨害するように言われているんだよ。真実には辿り着かせない。しばらくここで大人しくしていて貰いたい」
そういって男たちは、纏と新三郎の口にハンカチを被せる。
「まさかっ、クロロh」
言い切らない内に纏と新三郎は意識を失ったのであった。
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