第六話 パワーファイター

  第六話 パワーファイター


 四月三十日の夜、泰一は岐阜県A山を目指して車を飛ばしていた。車にはあまりこだわりのない泰一であるが、多少なりとも時代の流れに従って銀色のプリウスに乗っている。

 この車をA山麓の駐車場にめると、泰一はまず携帯電話を手に取った。

「どこかへご連絡ですか?」

 後部座席からのルナの問いかけに、泰一は首肯して答えた。

「病院で会った秋山警部を憶えておるか? あの警部殿にメールを打っておかねばならん」

 山に登れば電話が圏外になってしまうであろうから、今のうちである。泰一は不器用な手つきで携帯電話の小さな画面に文章を打ち始めた。

 ――今宵、覇剣戦争開幕につき、岐阜県A山にて血が流れまする。ついては後始末のほどよろしくお願い致します。

 泰一はそのメールを送信しようとして指を止めた。今さらながら警察の仕事ではないなと思ったのだ。だがこれももはや致し方なしである。

 泰一はメールを送信すると、携帯電話をグローブボックスにしまって車から降りた。するとまず夜風の涼しさを感じた。山から吹き下ろしてくる風で、夜でも緑がよく薫っている。

 泰一は動くのに邪魔なジャケットを脱いで運転席に抛り込み、そのドアを閉めた。それから太い左手首に巻いたデジタルの腕時計に視線をあてる。

「十時五十分か。頃合いだな」

 そう独りごちた泰一は、後部座席から降りてきたルナとソルを尻目にかけて、目の前に迫るほどの山を仰ぎ見た。夜空よりも黒い山容が目の前に聳えている。標高は五〇〇メートルにも満たない小さな山で、登山口の辺りこそ緑が街に蝕まれていて風情にけるが、この山を越えた先は山岳地帯になっている。たとえば稜線の向こう側は川の流れる谷になっているし、隣山の麓には温泉宿があるのだった。

 ロランやロランが声をかけた剣士たちは、この山にはや待ち伏せているのであろうか。さればいったい何人の血が流れるか。夜空に輝く上弦の月すら赤く染まるやもしれぬ。

「では、ゆこうか」

「はい」

 ルナとソルが声を揃えて返事をした。

 それから三人で登山道の入り口を指して歩いていく。

「誰もいませんね」

 ソルが辺りを見回してそう呟いた。

「うむ、夜であるからな」

 今宵は、正行のように余人を巻き込まずに済む。泰一はそう安堵をしながら歩を運んだ。

 その姿は灰色のタンクトップにケミカルウォッシュのジーンズ、茶の登山靴という格好である。タンクトップは肩胛骨のあいだに食い込み、X字を描いて筋肉のよくついた肩や腕があらわになっていた。一方のソルとルナはいつもの出で立ちである。

 登山道の入り口に達したとき、ルナが後ろから声をかけてきた。

「泰一様。泰一様は、この山に登ったことがおありでしょうや?」

「おうとも。さればこそ、ロランをここに呼び出したのよ」

「では地形も把握されていることですし、登山道ではなく、どこか山の斜面にとりついて山頂を目指した方が――」

「いやだ」

 言下にその提言を切って捨てた泰一は、足を止めてルナを振り返るや口をへの字に曲げた。

「山の斜面をよじ登るのはしんどい。俺は断固として、登山道を辿って展望台まで行くぞ」

「し、しかしそれでは……」

 ルナは泰一の身を案じて反駁を試みようとしたのであろうが、その機先を制するようにソルが傍からくつくつと笑った。

「諦めろ、ルナ。この御仁にはなにを云っても無駄だ。我らはそういう方を選んでしまった」

 ルナはそんなソルを睨みつけたあと、泰一に顔を戻してしばらく見つめていたが、やがて肩を落としてため息をついた。

「仕方ありません。ではせめて武装していってくださいな」

 ルナはそう云いながら泰一の左側に回り、その左手を取って自分の胸元へと導き、押し当てさせた。ささやかながらも柔かなふくらみの感触に、泰一は張り詰めていた気持ちがたちまち緩み出すのを感じた。

 ――いかんいかん。

 泰一が慌てて気を引き締めようとしたときだ。ルナの行為にちょっと柳眉を逆立てたソルが、泰一の右側に立ち、その手をやはり自分の胸元に抱き込んだ。ルナのものよりずっと柔かな感触が戦闘的な意志を萎えさせるのを、頑張ってこらえた泰一は、決然、二人を一喝した。

「はよう、剣になれ」

 一喝したのみならず、泰一は両手の指でそこにあるものを力強く掴んだ。

「ん……」

 そのあえかな声を漏らしたのはソルであったかルナであったか。ともかく二人はその瞬間に赤と青の光りに包まれて、黄金と白銀の剣にそれぞれ姿を変じていた。

 娘の柔かな肌が、手のなかで無骨な剣の柄に変わったのを感覚した泰一は、ティソナとコラーダをかわるがわるに見つめてわらった。

「これでいい」

 かくして泰一は意気揚々と、両手に双剣を引っ提げて登山道を上り始めた。


 展望台に辿り着いた泰一は拍子抜けしてしまった。ここまで一時間とかからなかったが、そのあいだ襲撃は一度もなく、展望台にもまた誰も待ち受けてはいなかったのである。

「なにごとも無くてようございました」

 ルナの言葉にそれはそうだと思い直した泰一は、やることもないので展望台から山岳地帯を眺望することにした。

 展望台とはいうものの、その実態は山の頂上付近のごく狭い平地に、標高の書かれた立て札があるだけの殺風景な場所だった。そんな平地の片側は懸崖になっており、しかも転落防止の措置が取られていない。柵も鎖もないのだった。ゆえにこんな夜では一歩間違えば崖下まで真っ逆さまだが、泰一は平気の平左でその崖っぷちに近づいていった。

 危険なだけあって、そこからの眺めは、昼間ならばなかなかのものである。いや、夜でも今宵は月が明るいので全てが闇黒に塗り潰されているということはなかった。むろんたたなわる山々の仔細は見極められないが、夜空は星が瞬いているのに山は漆黒であるから、稜線を見極めることは簡単だった。それから他に一箇所、白い煙の立ち上っているところがある。

「泰一様、あの煙は?」

 剣の姿であってもどこかに目がついているのか、ルナが左手からそう問いかけてきた。

「温泉だ。この近くに温泉宿があるのだ。こんなときでもなければ、ひとっ風呂浴びたいところだが……」

「敵は我らの様子をどこかで窺っているやもしれません」

 そのソルの言葉に泰一が首肯を返したとき、目の醒めるような強く冷たい風が吹いた。

 時刻は、午後十一時四十分になんなんとしていた。

 ……。

 心頭滅却すれば火もまた涼しというが、その反対も然りで、鬼丸泰一は崖っぷちから景色を眺めながら無心に相手が来るのを待っていた。頭のなかでは秒を正確無比に数えている。

 ――五、四、三、二、一。

「時間だ」

 この瞬間、時計の針は零時を回り、四月三十日が五月一日になり、覇剣戦争が始まった。

 そして初めて、跫音あしおとが聞こえた。それが一つではない。二つ、いや三つ四つ――。

「泰一様」

 ルナの張り詰めた声に促されるようにして、泰一はおもむろに振り返った。登山道から、あるいは山の斜面から、男たちが一人また一人と姿を現してくるではないか。

「ひの、ふの、みの……」

 泰一がそう数えているあいだに、男たちの方も出揃ったようだった。

「全部で六人か」

 いずれも成人している男たちである。人種は様々で、白人が四人、黒人が一人、東洋人が一人であった。それがそれぞれ西洋剣や日本刀や、あるいはそれ以外の異国の剣を手にしている。覇剣戦争に臨んだ者たちであることはあきらかだ。それがロランの呼びかけに応じて泰一を囲みにやってきたのであろう。しかし、その顔ぶれを見てソルが叫ぶ。

「泰一様、あの男が――」

「ロランが、おらんな」

 泰一はうっそりと呟きながら、ロランがフランス語しか話せないようであったのを思い出して、男たちにフランス語で呼びかけてみた。

「よう、おまえら。俺は今宵、ここでロランという男と待ち合わせをしておるのだが、見かけなんだか?」

「やっこさんは高みの見物だとよ」

 白人の一人がそう答えた。

「そうか……」

 してみるとロランは、この山にまでは来ているのだ。だが自分は姿を隠したまま、集めた仲間をけしかける策に出たらしい。いったい、なんたる小心者であろうか。

 ――肝の小さいやつめ。

 泰一は胸裡にそう罵りながら、男たちに対しては優しく微笑みかけた。

「ではひとつ探しに行こうと思うのだが、通してくれんか? 生憎と向こうの方が先約でな」

 だが泰一を間遠から半円状に囲む男たちには道を空けようという気配がない。それどころかおのがじし獲物を構え始めているではないか。泰一は目を細めた。

「なぜあの男に唯々として従う? 体よく使われているのがわからんか?」

「こりゃ点取りゲームだからな。出しゃばらねえってんならありがてえや」

「それにまだデュランダルとやるには早すぎる。他の剣を降してこっちの剣を強化するのが先だ」

 男たちの一人がそう口走ったのを聞いて、泰一はひそかに北叟ほくそ笑んだ。つまりこの六人の剣士が契約した剣は、いずれもデュランダルと比肩するものではない。剣を打ち合わせたところで、まさかティソナやコラーダが折れ飛んだりはしないであろう。

 ――よしよし、勝負になるな。

 泰一は肩を上下させ、男たちを右から左に睥睨して最後の問いを発した。

「では、ここで俺とるというのだな?」

 男たちは返事をせず、泰一への包囲を狭めてくる。やはり血は流れるのだ。

 ――まさかこの俺が、人を殺めることになろうとは!

 そうした泰一の憂いを、男たちはどうやら怯懦と解釈したらしかった。黒人の男がさも馬鹿にしたように白い歯並みを見せて笑う。

「こいつ、びびってやがるぜ」

「そう思うか?」

 意外そうに目を瞠った泰一であるが、しばし考えた末に相手の云う通りだと思い直し、微笑んで首肯した。

「そうだな、俺は怖い。これから人殺しになってしまうことが恐ろしい」

 すると今の言葉が癇に障ったのか、黒人の男はたちまち笑みを消して強面になった。

「最初から崖っぷちのくせに、でかい口を叩くんじゃねえ、間抜け」

 なるほど確かに泰一は崖っぷちである。展望台とは名ばかりの崖の際に立って景色を眺めていたところなので、泰一の踵のすぐ後ろにはもう大地はない。一歩も引けぬ。

 だが泰一はわらっているのだ。六人の男たちが徐々に徐々に近づいてくるなか、まったく余裕をもって構えている。男らの一人がそれを訝るのも当然だった。

「なにがおかしい?」

「ふふっ。なあに、たしかに後ろは崖だがな、これはこれで都合がよいのよ。四方八方から六人でかかられてはさすがの俺も万事休すだが、崖を背にしておればその心配はない。おまえらは前から半円状に攻めてくるしかないわけだ。となれば、六人同時に斬り掛かってはこれんよ」

 泰一のその言葉を裏書きするように、そのとき男と男の肩がぶつかった。泰一に近づくにつれて包囲が狭まった結果である。

「ほれ、そんな間合いで剣を振り回せば同士討ちだぞ」

「ちっ!」

 男の一人がそう舌打ちをして足を止めた。だが別の一人は歩みを止めない。彼らは運命の指に導かれるようにして、進む者と留まる者とに三人ずつ分かれた。

 攻めて来る者は、左と真ん中が白人、右にいるのが東洋人である。

 後ろに居残っていた先ほどの黒人がまた荒々しい声をあげた。

「やっぱりてめえは間抜けだぜ。こっちは三人、そっちは二刀流。数が合わねえじゃねえか」

「ところが二刀流というのはな、元来、乱戦向けの剣術なのよ」

 泰一は双の手に携えたティソナとコラーダを構え、今こそ鬼の面魂を剥き出しにして男たちに大見得を切った。

「さあ! 命のいらんやつから、かかってまいれ!」

 その声にこそ火蓋を切って落とされたように、寄せ手の三人が雄叫びをあげながら一斉に襲いかかってきた。それを泰一は小揺るぎもせず迎え撃つ。理屈で云えばティソナで右の相手を、コラーダで左の相手をしているあいだに、真ん中の男に頭を叩き割られるのが道理だ。しかし。

「ソルよ。おまえの剛剣、信じるぞ」

 そう呟いた泰一は、男たちが指呼の距離に迫るや剣を振りあげた。互いの体温や息遣いまでもが生々しく感じられる距離で、三方向から三つの刃が同時に閃く。だがそれより早く、黄金の光りが一閃した。

「オリャア!」

 泰一は右手のティソナで真ん中の男の胴体を横一文字にぶった切った。普通は、刃は肉に食い込んで止まる。よしんば肉を切り裂いたところで背骨に当たって止まる。ところが泰一のこの一撃は、正面の男の胴体を丸ごとぶった切って、しかも勢いを減じることなく右の相手に襲いかかった。

「なに!」

 右の東洋人の男が咄嗟に剣を立てて、鏘然しょうぜんたる音とともにその一撃を防いだ。

「ほお、よう止めた」

 そして元より左の相手が振り下ろしてきた剣はコラーダで防いでいる。また泰一に胴切りにされた男は、勢いをそのままに泰一の足元に突っ込んできて、そこに血と臓物をぶちまけた。

 戦慄が残る五人の男を打った。

「なんという剛力!」

 そう女の声で驚愕の叫びをあげたのは、ティソナをかろうじて受け止めた東洋人が使っている西洋剣である。名剣たる彼女が愕然と叫んだのもむべなるかな、人間の胴体を右腕一本でぶった切るなど、これは超人的な力であった。しかし泰一が長年取り組んできた剣道においては、竹刀を落とせばただちに反則を取られてしまう。ゆえに二刀流の剣士は、片腕一本で相手の打ち込みを堪えられるほどの剛力を具えていなければならない。

 この点でまさに泰一は天賦の才を与えられていた。

 豪腕。

 これこそ泰一の持つ、明快にして最強の力である。

「ぐっ、ぬっ……」

 右の男が脂汗を流していた。いささか無理な体勢で泰一の剣を受け止めていたせいか、泰一の力に押し負けそうになっている。

「うり」

 泰一がちょっと右手に力を入れると、男はたまらず後ろに飛び退いた。しかし血にあてられたのか、ただちに怪鳥のような雄叫びをあげてまた泰一に斬りつけてくる。その上段からの一撃を、泰一はティソナで楽々と受け止めてみせた。一方、左手のコラーダでも同じような鍔迫り合いを演じている。

 泰一は蟷螂のような体勢で、二人の男と力比べをしているのだった。

 このとき泰一の足元で息絶えていた男の手元で変化が起こった。男が死してなお握り締めていた日本刀が光りの砂になって崩れ去ったかと思うと、その光りの粒子は重力から解き放たれたようにふわりと浮かび上がって、ティソナに吸い込まれるようにして消えたのである。

「泰一様」

 ソルの声は興奮していた。

「今、相手の剣が私に降りました」

「ふむ、なるほど」

 これが覇剣戦争なのだ。こうして相手の剣を降して統合を繰り返していくうちに、剣は究極の剣に到達する。そしてティソナは、今降した剣の力を得てより強くなったに違いない。

「まず、一つか」

 泰一がそう呟いたとき、後方にいた黒人の男が、泰一と力の綱引きをしている二人に向かって叫んだ。

「おい! そのまま押して崖下に突き落とせ!」

 なるほど泰一の一歩後ろは崖である。二人がかりで押して押して押しまくれば、それだけで勝負は決まってしまう。しかし二人は、そんなことは云われるまでもなくやっていた。噛み合う剣を通して、渾身の力を込めて泰一を押していたのである。ところが。

「だ、だめだ! びくともしない!」

「巌のようだ!」

 腕の力のみならず足腰の力もまた超人的な泰一であった。大の男二人を相手にして、押しも押されもしない。

「くそっ! なら俺がやってやる! そのままそいつを押さえてろ!」

 黒人の男はそう吐き捨てて、巨大な剣を構えるや地を蹴った。最初に真ん中の男が倒されたわけだから道は空いている。ティソナとコラーダはそれぞれ左右の男の剣と鍔迫り合いをしている。今度こそ正面の敵に対してはどうしようもないかと思われた。下手に動けば均衡が破れて、泰一は崖下に転落すると誰もが予想した。

 ところがこの鬼丸泰一という男は、黒人の男がまっすぐ斬り込んでくるのを見て不敵な微笑みをうかべたのである。もしも黒人の男がその微笑みを見たのなら、なにかの勘が働いて突撃するのを止めたかもしれない。しかし彼は見落とした。それはまさしく死神の微笑であったのに。

 黒人の男に肉薄されたその刹那、泰一は腹の底に溜めていた力を一気に解放した。

「でやあっ!」

 まるで中国武術にあるとされる気功を使ったよう、実際には踏ん張りと双の腕の力だけで、泰一は自分の双剣を封じていた二人の男を弾き飛ばしたのである。その二人が尻餅をついたのと同時、黒人の男はたたらを踏んで踏みとどまろうとしたが、もう遅い。

「ふたーつ!」

 ティソナが閃いたかと思うと、黒人の男を脳天から股間まで唐竹割りにしていた。いったい真っ二つにされた人間はどうなるか。むろん即死であったが、二つにされた体が左右から互いを支え合っているため、立ち往生をしている。ただし縦に赤い線が走り、股間からは失禁したように赤い血がとめどもなく滴っていた。

 泰一は既に絶命している黒人の男を見て云った。

「踏みとどまっているのがやっとと思ったか? その気になればいつでも押し返せたのよ」

 それから、いつまでも目の前に立たれていても邪魔くさいので、その体を蹴ってやる。すると均衡が崩れて、男の体は二つに分かれて倒れていった。そして噎せ返るような血の臭いのなか、その男の剣がまたしても光りの砂となってティソナに吸い込まれていく。

「さて……」

 泰一は残る四人の男たちを見回した。だが彼らはいずれも驚懼して、もういたずらに向かってこようとはしない。

「さすがに警戒したか。それなら、こちらから動くしかあるまいな」

 泰一としては敵が二人になるまでは崖を背にして戦っていたかったのだが已むを得ない。そして泰一が一歩進むと、泰一を囲む輪が広がった。二歩進んでも同様である。このまま進み続ければ、一人か二人は泰一の背後に回るだろう。そうなると少しばかり厄介だ。さてどうするか、と泰一が思案に余ったときである。

「泰一様」

 左手からルナ・コラーダが突然に声をかけてきた。

「先ほどからソルばかりずるうございます。次は私でお仕留めください」

 なるほど最初の二人はティソナで仕留めたから、相手の剣もティソナに降っているわけである。得点として考えれば、ソルが二点先取したのにルナは零点のままというわけだ。

「よしよし、わかった。次はおまえを使ってやろう」

 ――と、云っておけば、こいつらの注意は左手のコラーダに向かうな。

 泰一が内心でそう断じた通り、男たちの視線はあからさまに泰一の左手に集まり始めた。次はこのコラーダが閃くのだと、本気で思っているかのようだった。それで泰一は左手を掲げて四人の注目を集めておきながら、その陰で右手のティソナを素早く逆手に持ち替えた。人の目というものは、動いているものに引きつけられるように出来ている。手品師はこれを利用して派手な動きのかたわら細工をするものだが、泰一がやったのもまさにそれであった。

 ――さて、この四人のなかで今一番油断しておるのは……。

 泰一は四人の男の顔を順々に見つめていった。今もっとも泰一から遠く離れており、すくなくとも次に死ぬのは自分ではないと高を括っている男が一人いる。

 ――一番うしろ!

 泰一は早手回しに腕を振りかぶると右のティソナを投げていた。黄金色の光りが夜陰を流れ星のように走る。

「投げた!」

 誰かがそう叫んだときには、ティソナは一番後ろにいた白人の男の眉間に勢いよく突き立てられていた。

「これでみっつ」

 相手が崩れ落ち、その男の剣がティソナに降ったのを見て泰一はそう呟いた。左手でルナが癇を立てたように云った。

「まああ! 次は私を使ってくださるとおっしゃったのに!」

「作戦ではなかったのか」

 泰一は苦笑いをしながら、左手のコラーダを構えた。

「まあ、次こそはおまえを使うことになるであろうよ」

 そう云いつつも、泰一は投擲したティソナに向けて声をかけていた。

「ソル、戻って来い」

 するとソルはただちに人の姿を取って、その場にすっくりと立ち上がった。名剣は人の姿を取れるから、投げてもその脚で戻ってきてもらえるので便利である。

 ところがこのとき、ソルに一番近いところにいた白人の男の手元から声があがった。

「その娘を斬って!」

「えっ?」

 自分の剣の言葉に目を丸くする男に、男の剣がもどかしそうに云う。

「覇剣戦争における勝利条件の一つ、相手の剣をへし折ること! それは人の姿をとった名剣を斬ることでも成立するの!」

 その言葉に泰一は、焦るよりも感心してしまった。

 ――なるほど、あの姿のソルが斬られれば、それは剣が折られたことになり、覇剣戦争から脱落するわけか。それはそれで道理だな。

「早く!」

 自分の剣に叱咤された男は目の色を変えてソルに斬り掛かった。しかしソルもさるもの、ましらそこのけの動きで連続する攻撃を次々に躱していく。しかし徒手空拳でいつまで凌げるのか。

「泰一様」

 手元でルナが焦った声をあげた。泰一は決断せねばならなかった。

「ソル。そのまま十五秒もたせよ。助けに行く」

 泰一はそう決然と云って、左手にいる白人の男に足を向けた。男は泰一が近づいてくるのに気づいて青ざめながらも身構えた。

 このとき、鍵となるのは東洋人の男であった。

 一人はソルに手こずっており、もう一人はいま泰一の標的とされている。この状況で一人だけ宙に浮いている東洋人の男がソルの方へ向かえば、ソルは一気に苦しくなる。しかしその場合、泰一と相対している男は間違いなく死ぬだろう。

 では東洋人の男が泰一の方にやってきたらどうか? そのときは二人が奮戦しているあいだに、残る一人がソルを仕留めるかもしれない。しかし彼らは昨日今日集まったばかりの、いわば烏合の衆なのだ。しかもソルは既に三口の名剣を降しているのだから、ソルを斬れば一気に四点を得られるのである。これを他の男に譲って、自分は命がけで泰一を食い止める。そこまでする義理が、彼らのあいだに果たしてあるだろうか?

「おい、助けてくれ!」

 泰一にすぐ間近まで迫られた白人の男がそう叫び声をあげたのが、東洋人の男のなかで引き金となったらしい。東洋人はソルに向かって駆け出した! 白人の男が蒼白な顔をする。

「見捨てられたな」

 泰一は笑いながらコラーダで斬り掛かった。

 しかし東洋人の男は利己的であるがゆえに思い違いをしていたのである。いったい誰がこの状況で喜んで捨て石になるのか。長年連れ添った仲間のためなら頑張ったかもしれないが、裏切られ見捨てられ、ババを引かされる破目になった男の抵抗など薄紙同然、泰一は一刀の下にその男を斬り捨てると、ただちにソルを助けに向かった。

「ソル!」

「泰一様!」

 二人の男を相手にし、苦境に立たされていたソルは顔を輝かせて泰一に手を伸ばしてきた。泰一は剣の嵐のなかへ恐れげもなく躍り込むと、ソルと手を結び、次の瞬間にはティソナを握り締めて、双の剣で二人の男の剣を弾き飛ばしていた。かと思うともう両者の喉元に剣を突きつけている。

 時間の止まったように、全員の動きが止まった。遅れて二人の男の手から弾き飛ばされた剣が地面に落ちる。片や大地に突き立ち、片や小石に弾き飛ばされて転がった。

 風が蕭蕭しょうしょうと吹いた。

「負けを認めて剣を捧げよ。さすれば命までは取らぬ」

 喉元に剣を突きつけられ、身動きはおろか息をすることさえままならない二人の男たちは、滝のような汗を流している。泰一の眼光が鋭さを増した。

「返答や如何に?」

 応諾するならそれでよし。拒否するなら即座に殺す。泰一は二人の男にそう最後通牒を突きつけていたのだ。果たして二人の男は、もはや戦意の色褪せた顔をして、ほとんど同時に降伏の言葉を唱えようとした。しかしそのとき、泰一の視界の右隅で純白の輝きが生じた。

 それがなんなのかただちに悟って、泰一は勢いよく首を右へねじ向けた。

 ここは山頂の展望台だが、厳密には登山道の頂点なのであって山自体はまだ斜面が続いている。その急な斜面のなかに、白い背広姿の男がいた。月明かりに加えて、掲げられた聖剣の光輝まであるのに、どうしてあの姿を見間違えようか。

「そこにいたか……!」

 鬼がわらう。

 それがかくも恐ろしかったのか、その男ロランは、急いで片をつけようというように急いでデュランダルを振り下ろした。

「聖光爆裂破!」

 まばゆいばかりの光輝が膨れあがった。それは熱衝撃波となって木々をなぎ倒す勢いで迫ってくる。さながら光りの津波のようだ。

「泰一様、お逃げ下さい!」

「いや、逃げぬ」

 泰一はソルの叫びを一蹴した。なぜならば、三日前にソルとルナの二人がこれの直撃を受けたとき、ロランとデュランダルは次のような会話を交わしたというからだ。

 ――あれえ? おっかしいなあ、建物ごと跡形もなく吹き飛ばせるはずなんだが……。

 ――それは勇者ローランがやったればこそだ。おんしでは精神力が足りぬわ。

 してみると、これは魔法の技には違いないが、その威力は使い手の心の強さによって決まるのだ。ではこの自分の心の強さが、ロランのそれに劣っているであろうか?

 断じて否!

 泰一は不敵な笑みを浮かべると、開き直るような気構えで光りに体を向けた。自然と二人の男に突きつけられていた剣も引かれ、彼らはこれぞ天佑とばかりに逃げ出したが、泰一はもう彼らを見てはいない。もはや肌を灼く熱気を感じるほどに迫ってきた光りの洪水に相対し、両腕は自分を抱きしめるように体に巻きつけている。

「泰一様、どうなさるおつもりです?」

「気合いだ」

 泰一のその答えに、ルナは呆気に取られたようだった。

「気合いって……」

「おまえも気合いを入れろ」

 泰一がルナにそう声をかけた瞬間、ついに光りが泰一の許まで到達した。すべてを焼き払い、押し流す光りの洪水。それに呑み込まれる瞬間、泰一は猛々しい鳥が翼をひろげるように、ティソナとコラーダを真横へ振り切った。

「ウオリャア!」

 その声さえも光りの奔流に呑まれ、すべてが白い光りのなかに消えた。

 ……。

 光りの洪水の去ったあと、辺りは惨憺たる有様であった。火の手はぎりぎりで上がっていないようだが、木々はおおかた傾いて、焼け焦げたあの厭な匂いを放っている。虫一匹とて居はしない。鳥も逃れられなかったであろう。そんな焦土に、一人の男が立っている。誰あろう、鬼丸泰一であった。

 泰一は顔や腕に軽い火傷を負っていたものの、ほぼ無傷であった。双剣ティソナとコラーダも健在である。泰一は顔を上げると、にやりと笑って云った。

「聖光爆裂破、敗れたり」

 ロランが愕然としたのは遠目にもあきらかだった。そんなロランに向けて泰一が一歩を踏み出すと、その瞬間、ロランは弾かれたように身を翻して走り出した。山の尾根を越えて、その向こう側へ逃げるつもりだ。

「逃がさん、おまえだけは」

 泰一は走り出した。展望台を飛び出して山の斜面を駆け上る。足場は悪いが、足腰の粘り強さを発揮して、みるみるうちに彼我の距離を詰めていく。しかしロランの姿が稜線の向こうに消えると状況は変わった。ロランに遅れて尾根に立った泰一は、広大無辺な山岳地帯の光景を前にしてロランを見失ってしまったのだ。

 ――どこだ、どこだ、どこにいる?

 泰一は月明かりを頼りに死に物狂いでロランの姿を見極めようとした。だが見つからぬ、と挫けかけたそのときだ。

「こんばんは」

 あらぬ方から女の声がして、泰一は弾かれたように振り返った。すると今までどこに隠れていたのか、一人の女が泰一の立っている尾根まで登ってくるところだった。尾根のあたりには木がほとんどなく、土と岩だけの足場が月光を受けて銀色に光って見える。

 その銀色の大地に歩み出てきた女は美しかった。二十歳くらいの、黄金色の髪が腰まである若い女だ。瞳は碧色で、冬用の黒いダウンジャケットとブルージーンズに黒のブーツという姿である。ジャケットの前が空いており、そこから垣間見えるシャツ越しに窺うかぎりでは、豊艶な体つきをしているようだ。そして腰には一口の西洋剣を吊るしている。

「低い山だけど、ずいぶん冷えるわね。あなたタンクトップなんかで平気?」

「誰だ、おまえは?」

 女の微笑みに、泰一は敵愾心を持って応じた。女はちょっと寂しそうな微笑の陰を浮かべると、朱唇を開いて名乗りをあげた。

「私はエレオノール。ロランの幼馴染よ。よろしくね」

「あの男の幼馴染だと?」

 泰一はにわかに憤りを覚えてティソナとコラーダを構えたが、エレオノールは慌てたように首と両手を振ってなおも微笑みかけてきた。

「待って待って、戦う気はないの。話をしたいのよ」

「なんの話だ? 腰の剣は飾りか? おまえも覇剣戦争に参加したのであろうが」

「ええ、そうよ。契約した剣はジュワユーズ。でも今はあなたと戦うために出てきたわけじゃないのよ。だいたい私、剣術なんてまるっきり素人だし、戦えないわ。それとも無力で無抵抗の女を一方的に斬る?」

 泰一の両腕に脈打つ闘志が一瞬乱れた。その乱れを感じ取ったものか、ルナが低声こごえで云う。

「泰一様、迷ってはなりません。覇剣戦争に参加した以上は、いかな手弱女たおやめであろうと斬られても仕方のない運命なのです」

 それはそうだ。しかし今度に限っては、泰一は手弱女を斬らずに済む。なぜか?

「……ロランが先だ」

 そう。なにをおいても、ロランを仕留めることが先決だからだ。

「女、俺は今忙しい。ロランを追わねばならぬ」

「あら、そう? じゃあこうしましょう。私の話を聞いてくれたら、ロランのところに案内してあげる」

 泰一は一瞬双剣を取り落としそうになった。それほど意外な提案であった。

「なぜだ? おまえはロランの幼馴染……いや、待て。エレオノールと云ったな? その名前、聞き覚えがあるぞ。そうだ、三日前の剣道場で、デュランダルがおまえの名を出したことで、ロランは引き下がることに決めたのだ。おまえはあの男にとって恋人かなにかではないのか?」

「恋人? 冗談はやめて。あんな情けない男が恋人だなんて」

 エレオノールはさも厭そうにかぶりを振って、憎々しげに唇を歪めた。が、そんな自分の姿が泰一の目にどう映っているか、すぐに心づいたらしい。エレオノールは鏡の前に立っている女のように、たちまち自分を取り繕うと泰一に微笑みかけてきた。

「そうね、たしかにロランは私のことが好きよ。子供のころからずっとね。でも私は強い男が好きなの。弱い男は嫌い。これって女としては当たり前のことでしょう?」

「なにが云いたい?」

 泰一は単刀直入を求めていた。それがエレオノールにも伝わったのか、彼女は仕方なさそうにくすりと笑うと大胆に出た。

「要するに私はね、今の戦いをロランに内緒でこっそり盗み観て、そしてロランにがっかりしたの。だからあなたに乗り換えようと思って」

「乗り、換える……?」

 その意味を頭のなかで反芻して、泰一はようやくこのエレオノールという女から秋波を感じた。ふふっ、とエレオノールがわらう。

「強い男が好きよ」

 泰一は後じさった。どんな強敵であろうといかなる艱難辛苦であろうと一歩も引かない鬼丸泰一が唯一苦手とするもの、それがこういうあからさまな女の情なのである。

「……おまえが典型的な毒婦だとしたら、自分の願いを叶えるために俺を体よく利用し、最後には裏切ろうと企んでいるはずだがな」

「あら、それはひどい言いがかりだわ」

 エレオノールは風になびく髪を片手で押さえて、野心に溢れる女が男に迫るときの、あの肉食獣のような目をした。

「私は強い男の女になりたいだけ。覇剣戦争を制するような、強い男のね。だからロランは、私の愛を得るためにこの戦いに乗り出したの。そして最後には私に願いを叶える権利をくれるっていうけど、実のところ、私はそんなものはどうでもいいのよ。だって私が欲しいのは愛だもの。タフな男からの愛だもの。だからね、究極の剣を至高の鞘に収めるときの願いなんて、別にいらないのよ。私が欲しいのは愛! それも強い男のね。そういうわけで、私は今の戦いを観て、ロランからあなたに鞍替えしようと思ったわけ。で、あなたの返事はどうかしら?」

 泰一の面貌では怒りと悲しみが鬩ぎ合っていた。今の話が本当なら、このエレオノールという娘も、あの憎むべきロランも、覇剣戦争にはなんの願いも懸けておらず、ただそれを通して愛を求めているだけなのだ。しかしエレオノールの愛を求めているロランはその一方で正行を無慈悲に傷つけ、誰かの愛を求めているエレオノールは、ロランの愛では足りないと云う。

「人間とは、勝手なものだな」

 それはただの独り言であったが、エレオノールはなにか意味のあることとして受け取ったらしい。小首を傾げて艶然とわらった。

「なんなら、この場であなたにジュワユーズを捧げてもいいのよ? その代わり、私を裏切らないと誓ってもらうけど」

 泰一は頭痛を感じたように瞑目したが、目を開いたときにはエレオノールを罰するように睨みつけていた。

「聞け、女」

 その冷厳とした声の調子だけで、エレオノールは泰一の心の風向きを見て取ったらしかった。眉宇を曇らせる彼女に、それでも泰一はとどめの一刀を繰り出すように云う。

「俺はおまえを信じぬ。なぜならばあのロラン、俺にとっては憎むべき敵だが、おまえにとっては長年連れ添った友人であるはず。そんな男を殺そうとしている俺に鞍替えなどありえんことだ。口ではなんと云おうと、おまえはロランに対して親愛の情を持っているはずなのだ。いざ俺がロランを殺そうとすれば、おまえは必ずや裏切るであろう」

 そうした話を聞いているうちに、エレオノールの顔には幾許かの喜色が蘇ってきた。唇を薄く伸ばして嗤ってさえいる。

「つまり土壇場になったら私がロランに味方すると云いたいわけね、あなたは?」

「その通りだ」

「じゃあ私がロランを裏切ったら? あなたが彼を殺すところを傍観したら? いえ、いっそ私がこの手で彼を殺したら?」

「そのときは俺も、おまえに対する考えを改めねばならん」

 だがそんなことが出来るはずはない。泰一はそう信じた。エレオノールというより、人間性の光りを信じた。果たしてエレオノールはどことなく優越の滲んだ笑顔で小さく頷いた。

「いいわ。よくわかりました。このお話は決裂ね」

「そうだ」

「では、次は私が約束を守る女であることを示しましょう」

 エレオノールは体の向きを変えると、金髪を風に靡かせながら尾根を跨いで、ロランの消えた方に降り始めた。

「ついていらっしゃい。ロランのところまで連れていってあげる」

 エレオノールが軽やかに尾根を降りていくのに、泰一はすぐには反応できなかった。信じられなかったからだ。彼女が本当にロランの許まで案内してくれるということもそうだが、そもそも彼女は本当にロランの居場所を心得ているのだろうか。

「あいつは闇雲に逃げていったようだが、本当に居場所がわかるのか?」

 すると足を止めて振り返ったエレオノールは、自分が腰に佩いている剣の柄に手を置いた。

「ジュワユーズは、デュランダルの居場所を感じ取ることができるわ」

「なに?」

「神話や伝説において同時に登場する、縁のある名剣同士は、互いに引き合う性質を持ってるのよ。同じ『ローランの歌』に出てくるデュランダルとジュワユーズを、幼馴染である私たちがそれぞれ契約したのは偶然じゃない。あなたがティソナとコラーダを持っているようにね」

「と、いうことだが?」

 泰一は両手のソル・ティソナとルナ・コラーダにそれぞれ視線をあてた。

「たしかに、私とルナには双子の直感のようなものが働きます」

「なんとなく相手の居場所や考えていることがわかるのです。しかしあくまで勘であって、なんら確実性のあるものではありません」

「ふむ。なんとも頼りない話だな。なんとも頼りない話だが……宛もなく夜の山をさすらうよりはましか」

 泰一がそう云ってにやりと笑うと、エレオノールは嬉しげに微笑みながら前を向いてまた斜面を降り出した。泰一がそれについていく。するとソルが慌てたように云った。

「泰一様、罠では……?」

「そうかもしれんな」

 泰一がのんびりと答えると、今度はルナが左手から鋭い声を放ってきた。

「ふられ女が腹いせに男を罠にかけるなど、いかにもありそうなことです」

「そのときはそのときだ。どうとでも切り抜けてやる」

 泰一がそう二人の懸念を笑い飛ばすと、エレオノールが樹に片手をついて立ち止まり、肩越しに泰一を振り返った。

「聞こえてるわよ?」

「ふふっ、なにも隠すことはない」

 泰一は白い歯を見せておおらかにわらった。

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