第9話 未来学会

 久美の話では、今日は二時間だけ、誰も自分の部屋に来ないよう主治医に伝えてあるらしい。精神科医からすれば不安要素にしかならないような申し出だが、紫月が傍についているという条件で認めさせたという。

 その結果、紫月は彼女の話し相手にさせられていた。

 彼女が居ない間の学校はどうなっているか、彼女の知人友人の人間関係についてのあれこれ、昨日見たバラエティ番組の話――自身が持てる限りの探偵スキルを用いて調べ上げた彼女の身辺や趣味嗜好などの情報を総動員した結果、紫月はどうにか前田健の代わりを務められるようになった。

 いまの久美は精神を病んだとは思えないくらい快活に笑っていた。まるで紫月から奪った精気で蘇ったみたいだ。

「最近、バイトを始めたんだ」

 紫月は花瓶の水を交換しながらポーカーフェイスで法螺を吹いた。

「近くのスーパーでレジ打ちの研修中。思ったよりまごついて苦労しているよ」

「いきなりどうしたの? お小遣い稼ぎ?」

 健は人生で一度もバイトをしたことが無い。この情報は以前、久美の身辺調査をしたついでにとりあえず入手しておいたものだ。

「親の金で都合出来ない部分があってさ」

「私と会える時間が減っちゃうじゃーん」

「その分だけ後々になっていいデートが出来るようになるんだよ」

「それもそっか」

 こういう会話をしていると、心まで久美の恋人になっているようで、さらなる自己嫌悪に潰されそうになる。顔で笑って、心で泣く感覚とはこういうものなのだろうか。

「健? どうかした?」

「ううん、何でも無い」

 飄々と彼氏の仮面を被り直し、花瓶を元在った位置に置き直す。ただでさえ出勤時間を遅らせてもらっているのに、これ以上時間を掛けると杏樹がうるさそうだ。

 これがさっき法螺を吹いた理由の一つでもある。紫月自身が本当に働いている為、彼女の呼び出しに対しては即応不可能だからだ。

「じゃあ、そろそろ時間だから」

「また来るよね?」

「うん。必ず」

「頑張って」

「頑張る」

 別れを告げ、理由も無く慎重な足取りで病室を去る。

「……これが、あと何回続くんだ?」

 人気の無い廊下で一人呟き、紫月は扉に背中を預けてずるずると腰を落とす。

 もし過去から一人だけ任意の人物を呼び寄せられるなら、それこそ入間宰三を呼んでしまいたい。

 いっそいますぐ、前田健と同じように、生きたまま解体して欲しかった。


   ●


 彩萌警察署の署長室で、新渡戸は署長の小樽一樹を問い詰めていた。

「多くの住民から苦情が殺到している。もはや民事で済ませろだなんて言えやしない」

 新渡戸は署長の机に両手を置いた。

「白猫探偵事務所から提供された情報によると、素行調査の対象となっていた人物はほぼ全て未来学会のビルに訪れている。対象はその日のうちにビルを出ているので事件性はほとんど無いと思われますが、依頼件数の多さだって立派な理由の一つでしょうに」

「そんなに令状を差し押さえられたのが不満かい?」

 小樽が疲労感一杯といった様子で唸る。

「僕だって不本意だ。でも警察庁から直々に釘を刺されちゃってね。猫の尻尾を踏んだと思ったら虎の尾だったという顛末もあり得るぞ、と」

「我々警察はいつもそんなもんじゃないんですか? ていうか、この案件に対して警察庁に何の権限があるというのです?」

「堪えてくれ、新渡戸君」

 声を押し殺すのに必死な様子で小樽は頭を下げた。

「僕にだって何が何だかさっぱり分からない。でも、彼から家族の写真を直接突き付けられた時は冷や汗をかいたんだ。もし僕の判断一つで家族の命を危険に晒すような事態に直面したら、私は警察どころか人間ですらなくなってしまう」

「……分かりました」

 新渡戸にも家族がいる。小樽の言い分に対して軽々と「そんなのただの脅迫じゃないですか」などとは口にできない。

 せっかく白猫の連中が頑張ったのに、これでは無駄骨もいいところだ。

「ところで、新渡戸君」

 小樽が場違いな苦笑を漏らす。

「蓮村君と青葉ちゃんは元気かね?」

「……ええ」

 突然話題を変えられても驚きはしない。小樽は新渡戸と共に彩萌署と白猫の協力体制を築き上げた理解者であり、元はここの刑事だった幹人とも親交が深く、青葉が白猫の秘密兵器であるという事実を知る数少ない一人だ。

「二人にはしばらく会っていないな。申し訳ないが、次に彼らと会った時、不甲斐なくて申し訳ないと白猫の人達に伝言しといてくれないか?」

「はい。それでは、私はこれで」

 やりきれない気分のまま署長室を辞して、自分の部署に戻ろうと廊下を歩いていると、今度は正面から駒木定義が歩み寄ってきた。

 彼は元・公安の人間で、新渡戸にとって師のような存在である。

「よう、新渡戸。その様子だと署長を口説き落とし損ねたみたいだな」

「昔から口下手なんすよ」

「そうか。ところで、いくつか面白い情報を拾ってきたんだが」

 駒木は小脇に抱えていたファイルから何枚かの紙を新渡戸に差し出した。

「未来学会の創始者、井草勝巳が立ち上げた中で代表的な会社やそれに関連する組織が行っている主な所業の基本情報だ。ネットを漁ればいくらでも出てくるぜ」

「いまさらそんなのが何の役に立つと? もう散々調べたでしょうに」

「興味深いモンを見つけたんだよ。これなんか食いでがありそうだぜ?」

 駒木がピックアップしたのは、井草氏が起業、経営している医療機器メーカーの製品情報だった。

「北条一家がPSYドラッグの流通に一枚噛んでいたのは立証済み。奴らの家の中には未来学会のロゴが描かれた一枚の紙が置かれていた。ここまではお前が自分の目で確かめた筈だが、この製品ってなんだかPSYドラッグと関係があるようには見えないか?」

「……なになに? 全自動注射器?」

 その紙面には白い長方形の筆箱みたいな形をした物体に関する詳細情報が載っている。用途から使い方、販売価格や関連商品の一覧といった必要最低限の情報が勢揃いだ。

「点滴の発想を携帯用として発展させたもんだろう。機械本体に時間設定の機能が内臓されているから、指定の時刻になれば装填されたアンプルの中身が必要な分だけ人体に投与される。医者による注射の手間をある程度省く為に作られたモンなんだとさ」

「PSYドラッグをアンプルに充填すれば武器に転用できますね」

「いいトコに気がついたな。その通り。いまここに載ってるのはあくまで医療目的の品物だが、こいつが戦闘用として開発されているとしたら?」

「薬漬けの兵隊を生み出す悪魔の機械って訳ですかい。どこのSFっすか」

 いつもながら馬鹿馬鹿しいにも程がある。

 でも、現実には北条時芳のようにPSYドラッグで肉体強化と予知能力を得た実例がある。その当時の話を実際に彼と戦った青葉から聞いた時は眩暈がした。

 新渡戸はため息混じりに言った。

「何にせよ、令状が有効にならない限り俺達は動けない。いざという時の為に調べておくだけでも楽しい気分にはなれそうですね」

「だろ? それからよ、もう一個質問」

「何すか」

「さっきは何が理由で署長の説得に失敗した?」

「上からの圧力らしいです」

「上?」

「警察庁のお偉いさんですよ。こっちとは全く関係無いくせにいけしゃあしゃあと」

「……ほほう?」

 駒木が一瞬だけ悪い顔になる。

「新渡戸。お前、この後は暇か?」

「時間なら空けられますが」

「夜、飲みに行こうぜ」

「別に構いませんが……」

「よし、決まりな! じゃ、俺はちょっくら別の仕事をしてくるわ」

 子供みたいにはしゃぎ、駒木は身を翻して新渡戸の前から立ち去った。

 何だろう。ああいう顔をする駒木は、絶対にこの後、とんでもない何かをやらかすような気がしてならない。

「……不安だなぁ」

 でも、まあ、いいか。あの人のことだから、絶対に何か美味しい情報を掴んでくるに違いない。

 そう思ってないと、やってられない心境だった。


   ●


 今日は青葉も紫月もバイトがあり、あゆも用事があるとかで一緒に遊べないらしい。

 だから、いまは龍也と二人っきりだ。

「井草さん、本当にいいんすか?」

「何が?」

「いや、ほら……こんなオタク向けのお店まで付いてくるなんて」

「全然おっけー」

 水依と龍也が訪れたのは、駅に近い商業ビルの中に併設された古書店だった。この店では古書だけでなく、特撮やアニメのフィギュア、カードゲームやCDなんかも取り扱っている。言うなれば、オタクの青春時代の隠れた支えになるような、雑多としながら妙な静寂を内包する小さな箱庭だ。

 龍也がよく行くからという理由でこんなところまで足を運んできた訳だが、水依自身も興味が惹かれるものがいくつか点在している。

 例えば、ここ近在では滅多に見かけないロシア文学の古書が置いてあるところとか。

「ここは俺が彩萌市で安息出来る数少ない店の一つなんです」

 龍也がアニメ関連のDJCDを漁りながら言った。

「人が多いところの店に行くと警察を呼ばれたりなんかして……ほら、俺ってこういう見た目でしょ?」

 だったら何で自分をそういう風にコーディネートしようなどと思ったのだろうか。

「だから人目の少ない店は本当に助かるんす」

「ほほう。で、オタク趣味は昔から?」

「イエス」

 眩しい笑顔でサムアップを決める龍也であった。

「まあ、だからモテないんすけど」

「火野君はとてもいい子。私が保障する」

「マジっすか。あざーっす」

 あんまり本気にはしていない様子だった。

 青葉曰く、紫月と龍也の反応は大体似通っているらしい。人の善意を素直に受け止められないのか、それとも正直者は馬鹿を見ると知っているからなのか、女子の発言に対してはあからさまに適当な反応をする癖があるようだ。

 こちらは龍也のことを本気でいい人だと思い込んでいるのに、本当に残念な話だ。

「お、あったあった」

 龍也が何かしらのCDを一枚、棚から取り出して満面の笑みを浮かべる。

「じゃあ、お会計に行ってきますね」

「……うん」

 龍也の背を見送りながら呆然としていると、水依のスマホがメールの着信を報せる。

 内容を確認すると、自然と瞑目してしまう。

「井草さん?」

 支払いを終えた龍也が傍から声を掛けてくる。

「大丈夫っすか? まさか立ちくらみでも……」

「ごめん。今日はもう帰るね」

「え……あ、はあ……」

 微妙な反応をする龍也の横をすり抜け、水依は店をそそくさと立ち去った。


 俺、何かまずったかな――などという検討違いの不安を抱きつつ、龍也は早足で歩く水依の背を追った。

 さっきの会話の何処かに愛想を尽かすような禁句でも含まれていたのか、それともこちらがオタク趣味に夢中だったのがそんなに不服か、あるいは買ったCDのジャケットに嫌悪感を抱いたか。

 いや、さすがにその可能性は無いだろう。

「無い……と、いいなぁ」

 呟きつつビルを出ると、水依が近くの車道の路肩に止まっていた黒いリムジンに素早く乗り込んだ。

 自分から乗り込んだところを見ると、誘拐された訳ではないのだろうが――

「あれは一体……」

「あなたが火野龍也君ね」

「!?」

 後ろから声を掛けてきた相手は、アイシャドウと付けまつげがばっちりと決まった、筋骨隆々のオカマっぽい男だった。

「私は王虎。井草家に雇われた用心棒。以後よしなに」

「そ……その用心棒が俺に何の用っすか? 言っておきますが、俺は決して井草さんに手を出してなんかいませんからね!」

「まずは人の話を聞きなさい」

 王虎なる男の態度は実に落ち着き払っていた。

「今日は貴方に、水依ちゃんから預かっていたメッセージを伝えに来たの」

「メッセージ?」

「しばらくの間、貴方達には会えなくなる。でも、心配はするなって」

「会えなくなる? どういうことっすか」

「教えられるもんなら教えてあげたいけどね。あの子も難しい立場にいるってことよ」

「…………」

 あからさまに妙な話だった。そんなメッセージくらい、水依が自分の口で伝えれば済むだけの話なのに、どうして王虎を介してこういう形で伝えたのだろう。

「それから、もう一個」

「まだあるんすか」

「あの子はね、貴方に惚れてるの」

 途端にアホ臭い気分になる。あんな伝言を喰らった上でされるような話ではない。

「本当はあの子の口から伝えるべきなんだろうけど、次に会う頃にはバレンタインデーどころかホワイトデーも終わってるだろうし」

「何を言ってるか理解不能っす。最初から最後まで全部説明してください」

「全てが終わったら全部話すわ。じゃ、私はこれで」

「ちょ――」

 こちらが言い募ろうとした次の一瞬で、王虎の姿はその場から消えていた。

 一人残された龍也は、しばらく唖然として立ち尽くしていた。


   ●


 バレンタインデーは明後日か――などと、どうでもいいことを考えて時間を潰すのは非常に簡単だ。

 でも、昨晩に龍也から送られてきたメッセージの内容が頭からこびりついて離れない。

 水依がしばらく誰とも会えなくなる――その一点が気になり過ぎて、今日の授業にも身が入らない。

 放課後になっても席から離れず、青葉は一人、教室の隅でたそがれていた。

「貴陽さん?」

 担任の聡子に呼ばれ、青葉はようやく我に返った。

「どうかしたの?」

「……いや。何でも無いです」

 勿論、嘘だ。

 ここ数日間、考えることがあまりにも多すぎる。探偵業においては素行調査の結果が全て未来学会とやらに繋がっていたり、昨日から紫月と全く連絡が取れなくなったり――正直、そこらの女子よりずっと容量の大きい筈の脳みそがパンク寸前だ。

 心配そうに接してくる聡子をあしらって学校を出ると、青葉はまず真っ先に彩萌駅前に向かい、待ち合わせをしていた龍也と共に行きつけのラーメン屋に入った。

 適当なラーメンを注文すると、龍也が先に話を切り出した。

「……昨日から葉群さんと全く連絡が取れない。メッセの内容は見ているようなんですが、これがいま話題の既読スルーって奴ですかね」

「私も同じだ。彼に会おうにもあっちから反応が無いし、電話を掛けても出やしない。あっちはあっちで何かあったのか……まあ、いまのところどうでもいいか」

「それだけじゃないんすよ。実は東雲さんとも連絡がつかなくて……」

「何?」

 あゆはこちらから送られたメッセージに対して比較的早めに返信をくれる律儀な子だ。加えて、既読スルーはあまりしないタイプらしい。

 そういえば、彼女は彼女で最近様子がおかしかったような気がする。

「紫月君もあゆも生存率は高い。あの二人については心配無用だろうが……」

「やっぱり問題は井草さんすね。これから彼女の家に行ってみます?」

「うーん……」

 青葉が迷うのにも理由がある。王虎の存在だ。

 ある程度戦闘に精通した青葉だからこそ、王虎が纏う『気』というものが視える。彼の場合、入間宰三や北条時芳などが散らす『気』とはまた別の、もっとおぞましい何かを感じてしまう。そんな危険人物が住まう邸宅に、わざわざ詰問の為に向かうなど、場合によっては自殺行為もいいところだ。

 でも、下手さえ打たなければ一応は無事で済むか。

「そうだな。何もしないよりはマシだ」

「ですな」

 龍也が頷くと、注文していたラーメンが二人の手前に差し出される。

 何故だろう。いざ食べてみると、今日だけはいつもより味付けが薄いような気がした。



 駅から井草邸までは、腹ごなしのウォーキングに最適な距離だった。

 鉄の門扉を前に立ち止まり、青葉は息を呑んでチャイムを鳴らす。

「火野君は水依の家に行ったことは?」

「無いっす。彼女からは来ない方がいいと言われてたんで」

 主に見た目の問題があるのだろう。もし龍也が正面から堂々と入ってきたら、それこそ王虎以外のボディガードが臨戦態勢に突入してしまう。

 もう一回チャイムを鳴らしてしばらく待ってみる。誰も出なかった。

「留守ですかね?」

「まさか。ハウスキーパーの一人や二人くらいは――」

 言いさして、そこで気付いた。

 家は決して留守ではない。それどころか、玄関に続く中庭の物陰には複数の気配を感じる。しかも邸宅の窓の一つから、黒光りする何かがひっそりと突き出していた。

 月明かりの反射でそれがライフルの銃口だと気付いたのは、玄関口から堂々と王虎が出てきた時だった。

「あら、いらっしゃい」

 王虎が歩み寄りながら気さくに会釈する。

「どうしたの? 冷蔵庫のチョコでも取りに来た?」

「そうだな。ついでに水依の顔も見たくなった。彼女を出してくれ」

「そこのナイスガイから聞かなかった? 水依ちゃんとはしばらく会えないって」

 王虎が鉄の門扉を開け、居丈高に青葉を見下ろす。

「そこでちょっと待っててちょうだい。貴女と東雲ちゃんのチョコをいますぐ持ってくるから」

「どうせなら一緒に水依も持ってこい」

「さーて、どうしようかなー」

 王虎が飄々と身を翻して玄関口まで戻ろうとする。

 その背中に、青葉は懐の自動拳銃――ベレッタM92Fの銃口を突きつける。

「あらら」

 王虎が振り向きもせずに立ち止まる。

「玩具の銃……って訳でもなさそうね」

「貴陽さん!?」

 さすがに龍也も青葉の行動には驚いている様子だった。

「ちょっと、何やってるんすか! 早くそれ仕舞ってください! ていうか、何処でそんなん手に入れたんすか!?」

「もう一度言う。水依を出せ」

 青葉は険を込めて繰り返した。

「詳しい事情はともかく、いまは彼女と話がしたい」

「駄目よ。決心が鈍ったら計画に支障が出るもの」

「計画? 何の話だ」

「青葉には関係無い」

 王虎の姿を捉えるのに夢中で、既に彼の横をすり抜けて青葉の前に立っていた水依の存在に気付かなかった。

 青葉は銃をゆっくり下げ、空いた片手を水依に伸ばす。

 しかし、無情にも手を払われてしまった。

「……!」

「触るな」

 いつもの水依から出る言葉ではなかった。

「もう私に関わらないで」

「いきなりどうした? ちゃんと説明しろ」

「さようなら」

 水依が王虎と共に身を翻して歩き出すと、物陰に隠れていた黒いタクティカルスーツの男達が一斉にアサルトライフルの銃口を晒した。

 ただでさえ小さな彼女の背中が、青葉の視界の中でさらに小さくなる。

「おい、水依! 水依! 返事をしろ! いますぐ戻って来い!」

「井草さん!」

 龍也の呼びかけにすら応じず、水依は家の中にゆっくりと引っ込んだ。迷いの無さをまざまざと見せつけられているようだった。

 どうする? 追いかけるか? でも、目の前の護衛部隊を突破した上で王虎を撃破しなければならないのがネックだ。北条一家の一件で幹人からもお咎めを貰っているし、白猫探偵事務所の社員として、これ以上軽率な行動は許されない。

 でも、このままでは一生、水依と会えない気がした。

 「さようなら」の五文字が、何度も脳内の回廊を巡っている。

「……火野君は壁の陰に隠れていろ」

 青葉は懐からもう一丁のベレッタを抜き出して撃鉄を起こす。

「貴陽さん、何を――」

 龍也が口を開いたその時、青葉は門扉を越えて中庭に踏み込んだ。

「水依、戻って来い!」

「しつこい子ねぇ」

 邸宅の扉にもたれかかった王虎が気怠そうに手を挙げると、青葉の左右からアサルトライフルの銃口が唸った。狙いはこちらの銃だ。

 青葉は走りながら身を沈め、ターゲットを見もせずに左右へ二丁の銃を発砲。こちらを狙った二つの銃口が、花でも咲いたみたいに外側へ割れる。

 今度はさっきからずっとこちらを狙っていた長距離狙撃用のライフルからの一発だ。これも前に飛んで回避、さっきと同じ要領で発砲して相手の銃口をこちらの銃弾で蓋をする。

「ブラボー」

 王虎が適当に手を叩いて囃し立てる。

 奴の相手は後回しだ。護衛部隊もようやくこちらを脅威と思い込んだのか、次はさっきみたいな手ぬるい攻撃をしてこなかった。

 正面と左を取り囲んでの十字砲火。青葉は真上に跳躍して銃弾をすべて上空でやり過ごし、天地逆さまの体勢で発砲、連射。こちらを撃ってきた銃と、これからこちらを狙うであろう銃を全て破壊して着地する。

 素早く弾倉を交換すると、青葉はようやく王虎にターゲットを切り替えた。

「ぬるいな。私を倒したいなら軍隊一個小隊を連れてこい」

「水依ちゃんも随分と腕の立つボディガードとお友達に持ったわね」

 王虎が腰のハンドガンを抜いてブローバックを引く。

「久々に楽しめそう。私、ドキドキしちゃう」

「いますぐそのドキドキごと息の根を止めてやろうか」

「やってみなさい」

 王虎が無造作に発砲。左手のベレッタが粉々に弾け飛んだ。

「……っ!?」

 速過ぎる。いや、まるで懐から財布を取り出すように無造作だったので、本来なら働いている筈の反射神経が眠ったままだった。

 しかも顔色一つ変えずに、この正確なスナイピング。

 やっぱり、奴はとびっきりヤバい戦士だ。

「どうしたの? さっきの貴女と同じ芸を披露しただけよ?」

「……この野郎!」

 青葉が発砲。王虎は涼しい顔で首を逸らして銃弾をやり過ごすと、見かけから想定される以上の速さで青葉に接近、既に抜いていたコンバットナイフで斬り掛かってきた。

 銃とナイフの一丁一刀。入間とほぼ同じ戦闘スタイルだ。速さも重さも奴とほぼ互角かそれ以上。唯一の違いは、綺麗なフォームから繰り出される体術の連鎖だった。オカマなのは口調だけじゃないという訳か。

 こちらが撃とうとすればあちらのナイフもしくは銃弾が先に急所へ到達する。だから青葉はいまのところ、一切手が出せない状況だ。

 相手の動きにはまるで隙が無い。これでは防戦一方もいいところだ。

 青葉が一旦後ろに飛び退って距離を取る。

 すると、右手のベレッタが地面に弾き落とされ、地面をエアホッケーのように滑る。

「何!?」

「勝負あったわね」

 王虎が青葉の額にぴたりと照準を合わせる。

「これでお分かり? あなたはいまので二回死んだことになるの」

 つまり、失った銃の数がそのまま青葉の命の数ということだ。

「さあ。まだ続ける?」

「くっ……」

「もう止めてください!」

 いままで隠れていた龍也が王虎と青葉の間に割って入る。

「これまでの失礼は謝るっす! 貴陽さんもちゃんと連れて帰りますから!」

「お前、水依が心配じゃないのか!」

「あんたは井草さんを悲しませたいんすか!」

 絶叫の如く彼の叫びは、耳を近づければ鼓膜が破れそうなくらい震えていた。

「いまは退却しましょう。話はそれからです」

「ふざけるな! こんなところで尻尾を撒いて逃げるなんて――」

「うるさい!」

 普段は優しい彼が放ったとは思えない台詞と共に、龍也は青葉を脇に抱え上げ、ついでに原型を保ったまま地面に落ちていたベレッタを一丁回収して井草家の敷地から全力疾走で退出する。

 住宅街を走っている最中、青葉は何度も龍也の腕の中で暴れ回った。

「離せ貴様……! おい、聞いているのか!」

「ここであんたが死んだら、井草さんはきっと自分を責めてしまうっす」

「……ッ」

 青葉はようやく我に返り、もがくのを止めた。

 正論を言っているのは彼の方だ。頭では、最初から分かっていた。

「それに……さっきの井草さん、震えてたっす」

 こちらが気付かなかった彼女の変化を見抜いていたらしい。龍也が沈痛そうに述べる。

「きっと、さっき言ってた計画とやらに貴陽さんを巻き込みたくなかったんす。だからああいう風に拒絶するしか無かったっす。あの子、とても不器用だから」

「……もういい、降ろせ」

 龍也が立ち止まって青葉を降ろす。

 不思議と、もう水依を追いかけようという気分ではなくなった。

「……火野君。明日、時間は空いてるか?」

「? ええ、一応は」

「私と一緒に来て欲しい場所がある」

 いまは諦めるとしても、明日諦めていい理由にはならない。

 こうなった以上は、龍也にもこちらの世界を知ってもらう必要がある。

「何処っすか?」

 訊ねる龍也の声がやたら不安げだ。気持ちは分かる。

 でも、これが起死回生のチャンスかもしれないのだ。

「白猫探偵事務所。私の職場だ」


 青葉達が去った後、水依はリビングのテーブルで一人、項垂れていた。

 本当なら助けて欲しいと思う。でも、これが自らに課せられた使命だというのなら、全うしなければ天国の母親に会わせる顔が無い。

 向かい側の席で王虎が黙ってこちらを見守っている。彼は今回の一件をどう捉えているのだろうか。傭兵風情に何を訊ねても、「これも仕事のうち」と言われたらそれまでか。

「おやおや水依お嬢様。一体どうなされたのですかな?」

 癇に障る高い声音を響かせて、高白が勝巳を伴って現れた。

 高白は勝巳が立ち上げた会社のキーパーソンで、今回の計画においては主軸を成す立場にいる。こちらとしてはあまり会いたくない相手だが、計画の内容が内容だけに仕方ないだろう。

 勝巳が後ろから水依の両肩を持つ。

「すまなかったね、水依」

「……いい。これでお父さんが救われるなら……お母さんの代わりになれるなら」

「違うんだ、水依。私自身はどうだっていい。本当は――」

「あまり感傷に浸られても困りますなぁ」

 高白が開いた扇子で口元を覆い隠す。

「今回の計画――『プロジェクト・サイコ』は会長に悲願でしょう。この彩萌市を――いいえ、この世界を異能者集団で埋め尽くし、その根幹たる我々が人類の覇者になる。その為には友人関係なんぞ些細な犠牲でしょう。そして水依お嬢様はこの計画の中心人物。貴女は貴女の使命だけを全うすればそれでいいのです」

「ちょっと? そんな言い方は無いんじゃない?」

 王虎が険しい面持ちで席を立つ。

「貴方達からすれば能力的価値の高い商売道具だったとしても、水依ちゃん自身はまだ十六歳の女の子よ? ちょっとはデリカシーを弁えて欲しいものだわ」

「傭兵風情が何を吐かすのやら。彼女はするべき決断をしたに過ぎない。そこにいまさら私情を挟んで何の得がある? それに、彼女が切り捨てたのは我々に帰依しない下等な人種であろう?」

「貴方、もう一度言ってみなさい」

「いい」

 水依が短く二人を制する。

「ありがとう、王虎。でも、大丈夫」

「……そう」

 王虎が腰のハンドガンに伸びていた手を下ろす。

 高白はほくそ笑み、勝巳に向き直る。

「では会長。これから水依お嬢様も交えて例の件を」

「そうだな。水依、もう少しだけ付き合ってもらう。王虎は席を外してくれ」

 水依と王虎は不承不承、それぞれ頷いた。

 リビングを去る王虎の背中が、水依には寂しそうに見えた。


   ●


 宍戸亜紀。県立彩萌第一高等学校一年生。髪型はポニーテール。家族構成は自分を含めた父と母の三人暮らし。彼氏はいない。部活も入っていない。アルバイトもしていない。友人はそこそこいる方で、学校での成績も中の中くらい。漫然と青春の日々を過ごすだけの、基本的には誰の役にも立っていない上に見た目以外には全く将来性も感じない、ごくごく普通の女子高生。

 そんな彼女がいま居るのは、未来学会のビルの手前だった。

「こちらが我々の総本山です」

 二十代くらいのぱっとしない男性の案内で、亜紀はビルの自動扉をくぐり、受付で見学に必要な書類を提出してエレベーターに乗り込む。

 目指すのは最上階の三つ下にある大広間だ。話によれば、フロアのほぼ全体がだだっぴろい空間になっているという。

 亜紀が未来学会を知ったきっかけは駅前で布教活動に勤しんでいる同組織の末端構成員達による涙ぐましい時間の無駄遣いだ。二月の寒空の下でよくもまあ毎日毎日怪しげな白いローブを着ながら通りすがりの一般人にお声掛けをする気になったな、という無気力にも程がある評価が事の始まりだ。

 というのは嘘だ。未来学会の存在は布教活動以前から知っていた。

「すみません。質問があるんですけど」

「何? 言ってみなよ」

「その大広間以外の階ってどうなってるのかなー……なんて」

「ああ、よく聞かれるよ」

 男が人懐っこく笑う。

「いまから行く巫女の間っていう部屋以外にも大広間がいくつかあってね。現人神様に帰依する人達の修練場だったり、大食堂だったり、あとは事務作業をする人達のオフィスだったり……ああ、そうそう。ここは井草会長が立ち上げた会社が作った商品の在庫を管理する場所でもあるんだ」

「へえ。それにしても、上に上がるには階段とエレベーターしか無いんですね」

「大広間が多い関係でね。スペースの阻害になるからって、エスカレーターはついてないんだよ。でもエレベーターがあるだけ便利でしょ」

「ふーん?」

 このビルが無駄に高い理由の説明は――これで付くのだろうか?

「ところで、現人神様ってどんな神様なんですか?」

「そもそも現人神様っていうのは神様の代弁者みたいなものでね。神様の力が憑りついた人間のことなんだよ」

 だから、その正体をさっさと教えろや。

「そうなんですか。で、その人の名前は?」

「ぐいぐい来るねぇ……」

 男がやや引き気味に反応する。そろそろ怪しまれる頃合いか?

「でも、そこまで興味を持ってくれてるなら話し甲斐もあるよ」

 時として馬鹿は口車に乗せやすい。

「僕らの現人神様はね、小さな女の子なんだよ」

「名前は?」

「井草水依っていう女子高生だけど、それは世を忍ぶ仮の姿。ここでの正式名称は千里大神(せんりたいしん)っていうんだ。遠くの未来すら見据える千里眼を持つことからその名前がついたらしい」

「おお……」

 ここでの大層なお名前は余計な情報だが、井草水依が関与しているという事実は亜紀にとって大きなプラスになった。

 やがてエレベーターの階数表示が目当ての数を示し、扉が重々しく開かれる。

 ここから短い廊下が続く先にある大きな赤い扉の向こうが、例の巫女の間らしい。

「着いたね。じゃあ、行こうか」

「はい」

 従順なフリをして彼の背を追い、開かれた扉の奥をつぶさに見回す。

 一見すれば床一面に畳が敷き詰められただけの大広間だが、壁掛けの篝火が暗い部屋を取り囲む様は部屋の名前に相応しい儀式的な様相を呈していた。

 最奥部の玉座には誰も座っていない。今日は現人神が欠席しているようだ。

 代わりに、白いローブを着た幾百もの人達が、畳の上でひたすら何かしらの絵を一心不乱に画き続けていた。

「彼らは何をしているんですか?」

「現人神様は人から発する『気』をイラスト化して、その絵を元に未来予知を行うんだ。彼女は図形占い、と呼んでいる。これはその修行風景さ」

「そんなので本当に未来が視えるんですか?」

「ええ。これまで予知の的中率は驚きの百パーセントを維持してます」

 特に驚きはしない。

 だからこそ、一番肝心な質問をここですべきだと思った。

「未来学会って結局のところ、現人神様の未来予知能力を自分も得ようとする人達の集団なんですね」

「有り体に言えばそんなところ。でもね、最近はこんな修練を積まなくてもいいようになりそうなんだ」

「というと?」

「これさ」

 男は懐から小ぶりな黒い箱状の機械を取り出して亜紀に見せつける。

「PSYドライバー。これに特殊な薬剤が入ったアンプルを装填することで中身が体内に注射され、短い間だけど未来予知能力を発現できるようになる。といっても見通せる未来は三十秒くらい先までらしいけど」

 つまりドーピングで未来予知をしようという発想を叶える機械なのだろう。超能力に帰依している割には夢の無い話だ。

「いまのところ、これは一定の修練を積んだ者にしか与えられない。元々は現人神様の能力を参考にして作られた神器の一つだからね」

 使用条件が眉唾ものだが、水依の力を参考にした、というあたりは少々気になる。

「でも今後は改良に改良を重ねて、入信しただけで誰でも使える神器に変わる。未来学会の未来は明るいという訳だ」

「凄いですね」

「他にも凄いところは一杯ある。君はいま、見学という形でその一端を垣間見たに過ぎない。もっと深いところに宝は眠っている。どうだい? 入信する気には――」

「ちょっと待ってください」

 いよいよ勧誘モードに入った男を食い気味に制し、亜紀は苦笑して首を横に振った。

「あくまで今日は見学だけですし、ちょっと考える時間が欲しいです」

「まあ、強制はしないよ。決めるのは君自身だから」

「ありがとうございます。では、私はこれで」

「ああ、下まで送っていくよ」

「どうも」

 ここは下手に「一人で帰れる」などと言わない方が良さそうだ。亜紀は彼の厚意により、再び一階の受付近くまでエスコートされた。

 少々の世間話と別れの挨拶を済まし、ビルを出て、再びその全体像を見上げる。

「……これで第一段階クリア。次は……っと」

 亜紀は手近の適当なコンビニに走り込み、知り合いのアルバイト店員から預けていたショルダーバッグを受け取ってバックヤードに引っ込み、あらかじめ借りる予約をしていた更衣室に引っ込んで、髪留めを外していつもの黒髪ロングヘアーに戻り、ソバカス風のメイクをメイク落としのシートで拭いて消し去り、バッグの中に入っていた黒い七分丈のシャツと黒いスカートに素早く着替えた。

 全身黒づくめにしたかった都合上、黒のストッキングも忘れていない。

 腰に黒いポーチを巻き、これで準備完了だ。

「よし、行くか」

 宍戸亜紀――もとい東雲あゆは、意気込みも新たに未来学会のビルに向かった。


   ●


 白猫探偵事務所。所在地は黒狛探偵社より駅に近く、迅速を第一に仕事を遂行するやり手の探偵達が集まる個人営業の探偵事務所だ。

 黒狛の内部事情を知る龍也は、この会社の応接間で、彼らと似たり寄ったりの重大な秘密に触れてしまった。

「どうした、火野君」

 青葉が頭の先から顎の下まで汗だらけになった龍也の顔を横から覗き込んでくる。

 いやいや、どうした? じゃないでしょ。

 青葉がここで働いているのは、まあ良いとしよう。表向きはただの雑用係だと、社長の蓮村幹人は言っていた訳だし。

 でも、彼女の裏の顔を青葉本人の口から聞いた時、とある人物の顔を一瞬で思い浮かべてしまった。

 葉群紫月だ。彼は黒狛において秘蔵の探偵として扱われている。

 青葉もここでの立場は彼と全く同じらしい。

 黒狛と白猫はお互い商売敵。特に両会社の社長である池谷杏樹と幹人は元・夫婦。だが、彼らの部下である社員の各三人に関してはそこまで互いに敵愾心を抱いている訳ではない。

 でも、一番おかしいのは紫月と青葉の関係だ。もし二人が互いの正体を知っているとしたら、商売敵同士で仲良くしているということになる。

 反対に、二人が互いの正体を知らなかったとしたら?

「そういえば一つだけ言い忘れていた」

 青葉がついでのように言った。

「私がここで働いているのは紫月君とあゆには内緒にしてくれ」

 紫月も大体似たようなことを言っていた。彼にはどういう訳か、青葉に自らの正体が露見するのを極端に恐れている節がある。

 何にせよ、いまの発言で、紫月と青葉が互いの正体を全く知らないことが判明した。

「それで、今日は何の用件かね」

 幹人が向かいのソファーに腰を下ろし、まるで他人事のように言った。

「青葉。お前は自分の職場にお家デート感覚で自分の友人を連れてくるような悪い子じゃないと私は信じている。こうもあっさり自らの正体を他人に露見するような真似も決してしない。ということは、ただならぬ事態が発生していると見ていいのか?」

「既に事態は急を要する」

 青葉が物怖じせずに告げる。

「たしか、最近は未来学会に関連する素行調査の依頼が殺到していた筈だ。それに関わる重要な情報を持ち帰ってきたが、その上で社長達に頼みたいことがある」

「頼みだと?」

「依頼者はそこの彼。内容は友人の奪還だ」

「……一応、話だけでも聞こうじゃないか」

 呆れたような素振りで背もたれに寄り掛かった幹人に、龍也は青葉のフォローも交えて、先日に起きた騒ぎを全て彼に明かした。

 話を聞いていくうちに、幹人の眉根が徐々に寄せられる。

「なるほど。やはり、その井草水依という少女が未来学会のキーパーソンという訳か」

「やはり? 何か知っているのか?」

「新渡戸の奴から未来学会の調査依頼を受けててな。ここ数日間でだいぶ情報が集まってきたところだ。その中には未来学会の代表、井草勝巳の身辺調査も含まれている」

 幹人はあらかじめ手元に置いていた資料の内容を読み上げる。

「井草勝巳。井草グループの代表にして、ライズ製薬株式会社取締役社長。宗教団体・未来学会の創始者でもあり、これまでに立ち上げた企業及びその他団体は十に昇る。家族構成は娘が一人。家には複数の女中とボディーガード一人が在中。井草グループで代表的なのは自らが社長を務めるライズ製薬と医療機器メーカーの株式会社オーバーレイ。その二社は商品展開が連動することもある。ざっと、こんなもんか」

 あらましを聞くだけでも、水依の父親の商才は眩暈がする程に優れているようだ。

「じゃあ、彼が何をしようとしているのかは見えているんだな?」

「いいや、それはまだだ。だが、何をするにしてもその井草水依さえいなければ未来学会は機能を完全に失うだろう。ところで、火野君」

 さっきから青葉とのやり取りに没頭していた幹人が、突如として龍也に水を向ける。

「君と彼女は親しい仲にあるという話だが、いま聞いた話以外で何か気付いたことはあるかね? 些細なことでもいい」

「気付いたこと……まあ、彼女というより、ボディガードの王虎についてなんすけど」

 こちらが気付ける限りでは、水依は何かこちらに手掛かりを与えるような素振りをまるで見せていなかった。

 むしろ、露骨な手掛かりを残したのは王虎の方だ。

「次に彼女と会う頃にはバレンタインデーどころかホワイトデーも終わってる……とか」

「つまり、思ったより長期的な計画を企てているという話だな」

「要略するとそんな感じっす。もしかしたらいまは何かの準備の真っ最中なのかも」

「奪還のチャンスはいましかない、という訳か」

 幹人が顎に指を当てて呟く。

「実を言うと、君が依頼しなくても我々でどうにかするつもりだったんだが……」

「そうなんですか?」

「さすがに依頼の受付拒否が続くとこちらの信用に関わる。むしろ君達からこういった情報を得られたのはかなり大きい」

 どうやらこちらの願望と白猫の目的には共通の利害がある様子だった。

「問題はこの情報を元に誰を動かすかだが……」

「それは俺がやりますよ」

 話に割り込んできたのは、ついさっきパソコン作業を終えて休憩している野島弥一だった。見た目は長身イケメンの一言に尽きるが、彼の全身から発せられる不気味なオーラはどことなく王虎が常に発散させているそれに似ていた。無論、戦闘能力的な意味ではない。もっと別の何かだ。

「実は最近ですね、幹部クラスと思しき野郎がおかしな物体を持っているのを撮影したんすよ」

 弥一がテーブルの上に出した写真に写っているのは、有り体に言って二十代の冴えない男性だった。写真の中の彼はビルを出るなり、黒い長方形の機械を天に掲げて大はしゃぎしている。

「奴らが何かを企てているとしたら、これが一番の手掛かりだと思います」

「野島さん、でかした」

 青葉が親指を立てて無表情で賞賛する。

「数少ない手掛かりをありがとう。でも、こいつを尾行する役割は私がやる」

「何故?」

「もしかしたら荒事に発展するかもしれないでしょ?」

 またまた話に割り込む者があったと思ったら、出てきたのは弥一と同じくらいの身長を有する、芸術品並みにしなやかな体型の美女だった。

 まるで女豹を想起させる彼女の名は西井和音。青葉曰く、姉のような存在らしい。

「こういう危険なのは青葉とあたしがやるって相場が決まってるの」

「おいおい勘弁してくれよ。俺だって護身術くらいは――」

「あんたはいざという時に五体満足じゃないと困るんだって」

 和音が意地悪な顔になって弥一にデコピンする。

「あんたはあんたの役割の為に、ここに残って社長の手伝いをする。OK?」

「しゃあねーな」

 弥一があっさり納得して引き下がる。

 こういうやり取りを見ていると、如何に白猫探偵事務所のメンバーが固い信頼で結ばれているかがよく分かる。黒狛のような和気藹々とした雰囲気とは少し違うが、その絆は彼らに勝るとも劣らない。

 それにしても、弥一の生存率が白猫ではどういう意味を成すのだろう?

「決まりだな」

 幹人が鶴の一声を放つ。

「野島君。この男の身辺調査は?」

「ばっちりっす」

「では、彼の主な行動予定などを青葉と西井君に伝えたまえ」

「了解」

「二人は彼から伝え聞いた情報を元に行動を開始したまえ。可能なら今日のうちに新たな手掛かりを拾ってもらいたいものだが……」

「私はいつでも出撃できる」

「右に同じ」

「では、行動開始だ」

 とんとん拍子で探偵同士の打ち合わせが進んでいく。これが最速を謳う白猫探偵事務所の最たる強みなのだろう。

 ならば、戦闘能力最強を謳う、あの探偵達と力を合わせれば?

「あ……あの」

「どうした?」

「黒狛の人達にも協力を要請できないかなー……なんて」

「……随分と意外な相手を持ち出したな」

 幹人が頭痛を催したように唸る。

「なるほど、君は黒狛とも関係があったのか。それについてこちらからとやかく言うつもりは無いが――いまの黒狛は使い物にならない」

「どういうことっすか?」

「おそらく彼らのエースはいま、重大な機能不全に陥っている」

「彼らに何があった?」

 青葉が淡々と訊ねると、幹人は渋い顔をして答えた。

「詳細は伏せる。ただ一つあるとすれば、大体は私のせい、という話だ」


   ●


「あなたに無期限の休暇を与えるわ」

 黒狛のオフィスで、紫月は社長の池谷杏樹から厳かに通達される。

「あいつが何を思って勝手な真似をしたのかは知らない。でもどのみち、彼女の問題が解決しない限りは紫月君だってまともに仕事出来ないでしょう」

「……はい」

 最近の紫月は仕事でのミスが多い。浮気調査の依頼では依頼者への定時連絡を忘れたり、報告書に必要な写真の撮影では決定的なシャッターチャンスを撮り逃すといった致命的な失敗を何度も繰り返している。

 これには懐の広い杏樹も頭を抱えていた。

「あなたはどうにかして斉藤さんの問題を片付けなさい。それが出来ない限り、うちへの職場復帰は一切認めない。いいわね?」

「はい」

「そろそろ行く時間でしょ? さっさとなさい」

 杏樹に急かされ、紫月は心なしか縮こまった様子でオフィスから去った。

 彼が消えてしばらくすると、デスクにぐったりと頬をくっつけていた美作玲が多少気怠そうに言った。

「随分と厳しいんですねー」

「無駄に優しくすると余計に傷つく子なの。何気にストイックなところがあるから」

「でも、どうにかしろったって、本当にどうすればいいのやら。もしかしたら一生どうにもできないかもしれないのに」

「分かってる。その時はまた考えるから」

 こちらとて、紫月が長期間に渡って事務所を抜けるのは相当きつい。彼のフットワークの軽さは黒狛の要でもあるのだから。それに、黒狛が裏社会から戦闘能力最強の探偵事務所と謳われているのは、主に紫月と、彼を育てた東屋轟に依るところが大きい。

 杏樹は切り替えるように訊ねた。

「玲。そういや、素行調査の件はどうなったん?」

「いま東屋さんが行ってるので最後。でも、最近多すぎじゃないですか?」

「行き着く先がみーんな揃いも揃って宗教団体とはねー」

 ここ数日間は未来学会という組織の名前を聞かない日が無い。客の数だけ稼ぎを得られるという原理がより明白に現れる職業に就いているだけあって、依頼者の数は杏樹達にとっても生命線なのだが、こうも同じ結果が続くと少々飽き飽きしてくる。これなら浮気調査を何件も受けていた方がまだマシだ。

「ただいま戻りましたー」

 まるで狩猟を終えた狩人のように、東屋轟がくたびれた様子で帰ってきた。元々が熊みたいに大柄な男なので、仕事から戻った時の彼は大体そんな感じだ。

「社長。言っちゃなんですが、そろそろ飽きてきたんすけど」

「安心しなさい。別に怒らないから」

 杏樹がコーヒーサーバーを操作する。

「二人共、本当にお疲れ様。いまコーヒー淹れるから」

「あざーっす」

「コーヒーより休みが欲しい……」

「だったら私はコーヒーも休みも両方欲しいわ」

 苦笑しつつ、杏樹は淹れたてのコーヒーが入ったカップを二人に手渡した。

「でも、いまだけは辛抱して」

「そうだぞ、美作。あまり我が儘を言っちゃいけない。社長はこれに加えて、元・旦那と一悶着の真っ最中だからな」

 紫月から斉藤久美の話を聞いた瞬間、杏樹はすぐに白猫の事務所に電話を入れ、その場で素敵な四文字言葉が激しく飛び交うような口論を繰り広げた。詳しい会話の内容は放送禁止用語が羅列するので伏せるが、近くで聞いていた玲と轟が、二人にしては珍しくやけに怯えていたのは記憶に新しい。

 あの会話の中で「死ね!」と何回叫んだだろう。怒りに身を任せ過ぎたせいか、自分でもあまり覚えていない。

 いまでこそ冷静だが、それでも内心ではまだ腸が煮えくり返っている。

「……いまはとりあえず、依頼の仕事を一つ一つ、丁寧に確実に片付けるの。現状、それしか私達に出来ることは無いと思って」

 真摯な声音を装った指示も、自分で発しておいて、実に空々しく感じてしまった。



 無期限の休暇――言ってみればクビを宣告されたようなものだ。どうやら自分は、とうとう杏樹にも見放されてしまったらしい。

 仕方ないか、という気分を引きずり、紫月はとりあえず腹ごしらえから先に済ましてみることにした。嫌な気分も腹に無理矢理栄養を詰め込めば鬱にはならなくて済みそうだと判断したからだ。

 足は自然と、青葉とよく行くラーメン屋に踏み込んでいた。

「お? いらっしゃい、黒い兄ちゃん」

 ラーメン屋の店主が麺を茹でながら気さくに挨拶してくる。余談だが、紫月が黒い兄ちゃんと呼ばれているのは、紫月自身が黒い私服を好むからだ。ついでに言うと、青葉は同じ理由で白い姉ちゃんと呼ばれている。

 ちなみに今日の店主はスキンヘッドではなく茶髪のズラを被っている。最近紫月と一緒に来るようになった龍也とキャラが被るから、という理由らしい。

「今日は白い姉ちゃんと一緒じゃないのかい?」

「ええ、まあ」

「なんでぇ、浮かない顔して。白い姉ちゃんと喧嘩でもしたか?」

「いえ。あいつとはいつでもラブラブです」

「お熱いねぇ。ささ、適当な席に座んな」

 促されたので、紫月は手近なカウンター席に腰を落ち着けた。

 白果楼を注文してしばらく待っている間、紫月はちらっと、二つ空いた先の席に座る背広の男性を見遣る。

 目が合うと、男性の方が目を丸くしてこちらを凝視し始めた。

「おう? お前、あん時の高校生か?」

「あなたは……」

 この男なら知っている。杏樹がよく話題に出す、新渡戸という彩萌署の刑事だ。彼にはこちらの素性を明かしてはいないが、前田健の死体を発見した時に通報して、その時初めて会ったので互いに顔見知りだったりする。

 新渡戸はたったいまやってきたラーメンを前に目を輝かせた。

「おお、たしかに美味そうだ。なあ、坊主」

「え……ええ」

「ここは俺の知り合いの娘が教えてくれた店でな。よくボーイフレンドと一緒にここで夕食を済ましているらしい」

「そうなんですか」

 自分と青葉以外にここを贔屓にしているアベックがいたのか。少々意外だ。

「坊主は――たしか、葉群紫月とか言ったっけか」

 新渡戸は天井を見る素振りをして訊ねてくる。

「お前、随分と顔色悪いみたいだが、大丈夫か?」

「誰の目から見てもそう映るんすね。だったら大丈夫じゃないかも」

「単に体調が悪いんじゃなさそうだな。どうだ? ここで再会したのも何かの縁だ。俺で良かったら相談相手にはなるぜ? 思春期のお悩みなんざ一発で解決してやるよ」

「……………………」

 何でここまで馴れ馴れしいんだろうか、この男は。

 だが、ラーメンが来るまでの時間潰しには使えるか。

「……最近、俺のせいで一人の女の子を貶めてしまいました。俺には彼女を救うことが出来なかった」

 新渡戸は話を聞きながら、心底美味そうにラーメンを頬張っている。出来立てを冷ますのはもったいないので、彼の態度はたしかに理には適っている。

「彼女は何も出来なかった俺に救いを求めてきました。それだけで彼女の心が救われるなら、俺はそれでもいいと考えています。でも、そういう状況がいつまでも続くとは限らない。いつか俺の方でけじめをつけなきゃならない」

「だが、どうやって落とし前をつけようか迷っている」

 新渡戸が紫月の内心に深くあった部分を明確に掘り出す。

「上手いやり方を探そうとしても見つからない。そういう顔をしているな」

「まあ、そんなところです」

「だったら答えは簡単だ。自惚れんな」

「え?」

 あまりにも予想外な答えだった。

「坊主。たしかお前、いま十五とか十六ぐらいだったな。たかがその程度しか生きちゃいないガキがいっちょ前に誰それを助けたいとか、お前は一体何様のつもりだ?」

「それは……」

「誰にどんな事情があったにせよ、ガキは決してヒーローにはなれない。お前さんぐらいの年頃でヒーローになりたいってんなら、それこそ十六年の間に三十二年分の密度で人生を送ってなきゃ無理な話だろ」

 少なくとも初対面も同然の相手に送るアドバイスではないように思えた。

 でも、不思議と腑に落ちる部分は多い。

「ああ、勘違いするなよ。俺だって、お前さんの気持ちも分からずにこんなことを言ってる訳じゃない。似たり寄ったりの経験があるからな」

「そうなんですか?」

「ああ。護ろうとした奴を救えなかった痛みはいくらだって受けてきた。そいつの家族は俺達を糾弾し、時には俺達の罪悪感に付け込んだ。そうやって罪の意識に苛まれて故人の墓を巡るうちに、いつか自分でピリオドを打たないといけないって思った。でも、上手い方法なんて見つかりはしなかった。それは何故か。体は大人でも、心はガキのまんまだったからだ」

「心が大人なら、上手い方法が見つかると?」

「さあな。少なくとも、俺の心はまだガキのまんまだ」

 屈託なく笑う新渡戸を見て、紫月は心の奥底で悟った。

 人間には、こういう敗北感が眠っていたんだ――と。

「結局、男はいつまで経ってもバカでガキのまんまだ。だからバカはバカなりに必死になって考えて、そしてようやく決めた。解決なんてしなくてもいい。痛みも苦しみも後悔も、全部背負って墓場まで持って行くってな」

「……俺には無理ですよ。そこまで強くないから」

「アホかお前は。これはあくまで俺の方法論だ」

 新渡戸は残りの麺を全て食い尽くすと、器ごと持ち上げて中のスープを全て飲み干した。彼の体内の塩分濃度がやや心配になってくる。

「お前はお前にしかやれないやり方を考えろ。成長ってのはそういうモンでもある」

「俺だけの……方法」

「まあ、俺に言えるのは精々その程度だ」

 新渡戸は席を立ち、店主に自分が食べたラーメンに対する高評価を伝えると、ややふらつき気味で店の出入り口に立つ。

 最後に、彼は振り向きもせずに告げた。

「葉群紫月。お前ならきっと、そう遠くないうちに誰かのヒーローになれる」

「え?」

「頑張りな。秘蔵の探偵さん」

「……!?」

 今度こそ驚いて振り向くと、新渡戸は飄々と店を立ち去った。

 彼の背を目で追いながら、紫月は呆然として固まった。

「……あの人、俺の正体を?」

「ほい、兄ちゃん」

 店主が白果楼を紫月の手前に置く。

「良かったじゃねぇか。ああいう人生相談も貴重な経験だぜ?」

「……そうですね」

 もしかしたら、この店主もこちらの正体に気付いているのかもしれない。

 だとしたら、自分はとんでもなく隠し事が下手くそな秘密兵器ということになる。

「いただきます」

 空腹のバカが考えて出した結果なんてたかが痴れるだろう。

 だから、いまは目の前の出来立てを平らげることにした。考えるのは、その後でも決して遅くはないだろう。


   ●


 巫女の間は現在、水依と勝巳の貸し切り状態だ。

 対面していない者の未来を水依は見通せない。だから、勝巳は自分自身の末路を彼女に見通してもらうことにした。

 結果を宣告され、勝巳は勘弁してくれと言わんばかりにため息をついた。

「とうとうガサ入れが来るか」

 警察機構の立ち入りはこちらのコネで徹底的に制限したつもりだ。でも、日本の警察はまだまだ死んではいないようで、ありとあらゆる権力の網をすり抜けてこの牙城に土足で上がり込むつもりでいるらしい。

 水依は気遣うように言った。

「大丈夫。結局はPSYソルジャーズが警察を皆殺しにすると思う」

「その口ぶりだと、警察との戦闘以降の未来は確定していないんだな?」

「うん」

「だったら先手を打った方がいい。PSYドライバーの準備も整っている」

 勝巳はスマホで高白に発信する。彼が応じたのは、律儀にもスリーコールの後だった。

「高白。いまから学会の者達に召集をかける。そろそろ我らの同胞にPSYドライバーを配布する準備を始めたまえ」

『かしこまりました』

 それだけ言って、彼は通話を打ち切った。

 勝巳は水依に向き直り、出来るだけ穏やかに告げる。

「水依はここで待っていなさい」

「分かった」

「これで水穂の悲願が果たされる。あと少しだからな」

「うん。私も頑張る」

 健気に応じる彼女の瞳が、いまの勝巳にはナイフで刺されるより痛かった。

 水依を産む直前、水穂は切に願っていた。


 ――私はもう手遅れだけど、これから産まれるあの子だけは幸せに生きられるようにしてやって。


――だって、私みたいに悲しい思いをさせたくないもの。


 水依は中学生の頃、生まれつき持ち合わせていた予知能力に加え、サヴァン症候群を疑われた為にクラスメートからいじめを受けていた。

 不登校になる一日前。学校から帰ってきた彼女の顔は、目が開いている意外は死人のようだった。

 水穂も、実は全く同じ経験をしていたという。

 それでも彼女が占い師として活動していたのは、自分の存在が誰かの道標になると心の底から信じていたからだ。

 結果として彼女は自らの願いを叶え、勝巳の未来を照らしていた。

 根拠の無いおかしな力なんかより、彼女自身のひたむきな愛と優しさが一番の超能力だと、いまでも勝巳は自信を持って言葉に出せる。

 そんな彼女が自らの命と引き換えに産み落とした奇跡――井草水依は、自分と水穂を繋ぐ最後の希望だった。

「水依だけは……絶対に助ける」

 自分に言い聞かせるように、勝巳はそっと呟いた。

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