のぞみの夢
眠くなる時間というものがある。どれだけ頑張ってもその誘惑に負けそうになる、抗えない時間。お弁当を食べ終わり、正午過ぎから始まる授業。先生の話は耳をすり抜け、黒板に書かれる文字は私の睡魔を促進させる。どうにか負けないように、頭を振ってみたり、顔を触ってみたりもするけれど、睡魔に勝てる気配はない。
試験も近く、今日の授業を聞いていなければ、補習組に加入してしまうような、情けない話になってしまうかもしれないのに。どうにも、この睡魔には負けてしまいそうになる。
窓越しに降り注ぐ太陽の光は、私の理性を溶かし、安心して眠れるように温かさで包んでくれる。私は頼んだ覚えなんかないのに、徐々に私を侵略し始める。
寝てはいけない。授業中なのだから、ノートをとり、先生の話に集中しなければいけない。そんなことは、分かっているのに。分かっているからこそ、どうしようもない現実を受け入れられないのかな? このまま落ちてしまえば、どれだけ幸せなことか。こんな温かさの中、眠れたとしたらどれほどまでに、幸せになれることか。本能に従って、まぶたを閉じてしまいたい。
「田中さん、起きて。さっきから先生が見てるよ?」
「分かってる……」
隣の席から伸びる腕。優衣ちゃんが、私のことを起こそうとしてくれている。起こそうと揺らしてくれるのに、私はまともな返事すら出来ない。自分の言葉なのにどこか遠く、別の誰かがしゃべっているように聞こえてしまう。
おなかの中から聞こえてくるのは、お昼に食べたお弁当の声。楽しそうに、くるくると廻りながら、私を呼んでいる。眠ってしまえばいいと、楽しい世界が待っているよと。私の中から呼びかけてくる。
楽しそう。私はすぐにでも、その輪に加わって、一緒に踊りたい。きっと、楽しいから、私も一緒に遊びたい。
授業なんて面白くないし、試験なんてまだ先だから。今この瞬間は寝てしまえば、きっと幸せが待っている。大丈夫、どうにかなる。だって、こんなにも楽しそうなんだから、ここで頑張ってるほうがおかしいんだよ。
光を失っていく世界。音は遥か彼方にあり、優衣ちゃんにゆすられているはずの身体は、泥の中に沈んでいくかのように重くなっていく。ゆらゆらと、ゆっくり沈んでいく。
仕方ないよね、お弁当を食べた後の授業なんて、聞いてられないよ。今の私は眠いんだから、寝てしまおう。大丈夫、試験勉強は真面目にすれば、怒られない程度には点数が取れるから。
えへへ、私って賢いよね。ちゃんと休憩して、それから頑張ればいいんだから。平気だよ。
結論と共に、光が失われ、私の意識は深いところへと飲み込まれていく。どんどんと沈み、抜け出せない幸せな世界へと旅立っていく。
だから、気付けなかった。これから起こる惨劇に、私の意識は追いつけなかった。
「起きろ田中、授業中だ」
「ぎゃふっ」
カッコいいと思ったこともある、吉田先生のチョップが私の頭へと直撃した。
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