世界観が白い

 僕の心はガラスで出来ている。そんなふうに思い込みだしたのは、いつからだろう?

 幼少の頃は、他のみんなと同じように、色々なことを吸収できて、素直にそのままの表現が出来ていた。

 少し成長した僕は、みんなとのズレを認識するようになった。みんなが喜べていることで、喜べない。みんなが悲しんでいることで、悲しめない。冷めた少年と呼んでしまえば、それだけのことだったのだろう。だからこそ、僕はそのまま放置されてしまい、僕自身もそんな自分に疑問を持たなくなってしまった。

 そのまま高校生になって、大学を中退した。

 ここまで来ると、自分という存在がどのようなもので、どうするべきかが見えてくる。若造が何を言っていると、鼻で笑う人もいるけれど。僕との付き合いが一番長いのは、僕なんだ。

 僕は誰かと一緒にいられるような、協調性のある人間ではない。誰かと一緒に物事をやれるような、忍耐のある人間でもない。自分だけで簡潔する世界。誰にもかかわらず、旅人のように流れ続ける生き方が、合っている。

 だから、そのまま旅に出てみた。自分の心の赴くままに、西に行き山に登った。東に行き、海にもぐった。南に行き、洞窟へと進んで見た。

 そして、北の地で凍りに埋まっている。

 なんのことはない、遠くに見えた山が綺麗だったから、写真でも取ろうかなという軽い気持ちで、山に入ってしまった。冬場だというのに、ありえないくらいの軽装で、冬の山に登ってしまった。最初の2日ほどは順調に登れた。何も装備を持ってもいないのに、どんどんと登れて、楽しくなってしまった。

 だから、油断してしまったのだろう。危険だと分かっている冬の山なのに。知識だけは持っていたはずなのに。雪崩に巻き込まれるまで、こうして雪に埋まるまで、危険性を実感できなかった。

 まったく、これだから僕はダメなんだ。危険だと止められたはずなのに、山小屋でおじさん達に止められたというのに、自分のことを大切にするつもりがないから、足を進めてしまった。写真が撮りたい、自分の見たい風景がそこにあるはずだと、心の赴くままに進んだだけ。

 そのせいかな、雪の中に埋まっている、命が危険に晒されているというのに。別に何も感じない。

 これが僕の生きている結果であり、僕の道なのだろうと、諦めが付いてしまっている。

 僕の心には、感情と呼ばれるものが少ししか残っていない。何を見ても、何が起きても、流してしまえるほどに、僕の心は枯れてしまっている。

 壊れてしまっているのだろう。心のどこかに穴でも開いてるんじゃないだろうか?

 けれど、全てが抜けてはいない。全てのものが流れ出ているわけではない。

 だから、唯一残っていた感情にしたがって、この山に登ったんだ。それなら、最後に見る光景がコレだとしても、何も問題はないんだろう

 

 楽しい人生だったよ。ばいばい

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